MAAG AUDIO PREQ2 レビュー:独自の高域用コントロールAIR BANDを含む2chマイクプリ+EQ

MAAG AUDIO PREQ2 レビュー:独自の高域用コントロールAIR BANDを含む2chマイクプリ+EQ

 MAAG AUDIOから発売された2chのマイクプリ+3バンドEQのPREQ2。マイクプリ部は、ディスクリートのクラスAトランジスターやニッケル・コアの大型入力トランスを採用し、ヘッドルームの広さと等価入力ノイズの低さを特徴としています。EQセクションは、ハイパス・フィルター/低域ブーストEQ/高域ブーストEQの“AIR BAND”を装備。早速、レビューしていきます。

トランジェントがはっきりと感じられるマイクプリ

 外観は、スタジオ機材にはあまり無いポップなカラーで、わくわくさせてくれます。入力インジケーターの反応が良いので、レコーディング自体も楽しくなりますね。

 マイクプリのゲインは+20dBスタートと高めですが、−20dBのPADや+25dBのゲイン・ブーストが備わっているため、リボン・マイクから高出力のマイクまで幅広く使えそうです。昨今は高出力のマイクも多いので、最小±0dBから使えるのは助かります。インスト・インも用意されているほか、その上部のインスト/マイク・スルー・アウトからはインスト・インの入力信号をユニティ・ゲイン、マイク・インの信号を+20dBゲインで出力可能。パワード・モニターやエフェクターなどに送出でき、守備範囲の広さに驚かされます。

マイクプリ部。ゲイン幅は+20〜+40dBだが、GAIN +25スイッチでさらなる増幅が可能。インスト・イン(左下)の信号は入力トランスに送られる仕様

マイクプリ部。ゲイン幅は+20〜+40dBだが、GAIN +25スイッチでさらなる増幅が可能。インスト・イン(左下)の信号は入力トランスに送られる仕様

 今回はインスト・インから試してみました。レコーディングのソースはエレキベースで、現場にあったほかのDIと比較しながらチェック。PREQ2の音は、演奏者がより近くに感じられます。細かいタッチなどがリアルに聴こえ、プレイヤーも“いつもより細かいフレージングに気をつけることができる”と話していました。ただ、決して4〜6kHzなどの耳に付く帯域がよく出ているわけではなく、その辺りは逆に少し落ち着いている印象。シンプルに“音の距離感が一歩前にきたな”という感じです。

 録り音をプラグインのアンプ・シミュレーターに通してみると、シミュレーターに通しているという感じがあまりせず、まるで本当にベース・アンプを録音したかのような感覚。弦にタッチした際の音の振る舞いを忠実にキャプチャーできているからこそ、このような結果になるのだと思います。

 続いては、マイクプリにAUDIO-TECHNICA AT5040やNEUMANN KM 184をつないで、アコースティック・ギターのマイク録音に使用。インスト・インと同様、普段の印象よりトランジェントがはっきりと感じられ、そのソリッドな音が打ち込みオケの楽曲などで生きそうです。ただ、いわゆるNEVEサウンドのような重厚さとは異なるキャラクターで、美しく忠実に録れているものの、もうひと押し欲しいところ。

 ここで目に入ったのがEQセクションです。ハイパス・フィルター(20〜200Hz/−12dB/oct)と低域ブースト用ピーキングEQ(10/40/65/100/125/165Hz)、そしてMAAG AUDIOの従来製品にも搭載されてきた独自の高域用シェルビングEQ=AIR BANDがあります。このAIR BANDでは2.5/5/10/15/20/40kHzをブースト可能です。

EQ部は、ハイパス・フィルターと低域ブースト用、高域ブースト用のAIR BANDから成る3バンド。バイパス・スイッチも用意されている

EQ部は、ハイパス・フィルターと低域ブースト用、高域ブースト用のAIR BANDから成る3バンド。バイパス・スイッチも用意されている

 まず低域に関して、筆者は普段のミックスの際、10〜165Hzといった部分を抑えることが多いのですが、本機であればその辺りを少しブーストすることで座りの良い音になり、安定感が増す印象です。AIR BANDは、プラグインでエミュレートされているのを何度か使ったことがあり、グワッ!というかかり方が結構キツめだなと感じていました。しかし本機では、フワッと美しくハイが伸びます。これが非常に驚きでしたね。今回10kHzから上をブーストしてみたのですが、聴感上はもっと手前の帯域から上がっているように思え、演奏のダイナミクスをリアルに再現できます。

 また、AIR BANDでブーストしてからUREI 1176などで軽くコンプレッションすると、マイク一本で録っていても実際にその場で聴いているようなサウンドに。この感触から、いろいろな楽器での使用がイメージできます。昨今のレコーディングの現場では、できるだけクリーンに録ったりEQやコンプは少なめだったりというのがトレンド化している印象ですが、AIR BANDはどんどん活用していく方がよい気がします。

 ハイパス・フィルターはスロープが−12dB/octと緩やかなので、モニター環境に自信が持てなくても、軽く入れる程度ならアリだと思います。

PREQ2の内部。左に見える銀色のパーツ×2はMAAG AUDIO製のマイクプリ用ニッケル・コア・トランスMA02

PREQ2の内部。左に見える銀色のパーツ×2はMAAG AUDIO製のマイクプリ用ニッケル・コア・トランスMA02

背面は、各チャンネルのライン・アウト、ライン・イン、マイク・イン(すべてXLR)などを配置したシンプルな設計

背面は、各チャンネルのライン・アウト、ライン・イン、マイク・イン(すべてXLR)などを配置したシンプルな設計

普段悩むことの多い中低域の量感にも効果的なEQ

 最後に歌録りでテストしてみました。使用マイクは、初めてお目にかかるボーカリストにファースト・チョイスすることが多いAT5040。このマイクは濃密な音で、少しばかり高域が伸びているところも素晴らしいのですが、きらめき的な部分が薄めなので録音後の処理が必須。また録音中、ボーカリストの方に気持ちを高めてもらうべく、PREQ2のEQを活用しました。すると、不足に感じていた部分がしっかりと補完され、どんどん扱いやすいサウンドに。MANLEYやTELEFUNKEN Ela M 251系の真空管マイクに試した際も、普段悩まされることの多い中低域の量感が、低域用EQで十分に補完されました。“このマイクのここが良いけど、この辺りがちょっと足りない”といったときにもEQくささが出ず、奇麗にコントロールできるので、非常に有用だと感じます。

 マイクプリ部の素直さとEQセクションの扱いやすさ/柔軟さが素晴らしく、複数チャンネル分を所有していると、さらに可能性を広げてくれそうです。また、プラグイン・エフェクトの質が向上し、イン・ザ・ボックスのミックスも定番化していますが、オーディオI/Oへ入る前の音作りとプラグインによる録音後の処理とでは音色も違いますから、本機のようなアウトボードを視野に入れていくことも重要かなと思います。

 プラグインとしてエミュレートされていることが多いMAAG AUDIOの製品。PREQ2はその印象を大きく変える仕上がりになっていると思うので、ぜひお試しになってください。

 

諏訪桂輔
【Profile】PLANET KINGDOM、studio MSRを経て、現在フリーランスのレコーディング・エンジニア。汐れいら、MoMo、三月のパンタシアなどのほか、アニメ作品から劇伴まで手掛ける。

 

MAAG AUDIO PREQ2

418,000円

MAAG AUDIO PREQ2

SPECIFICATIONS
▪チャンネル数:2 ▪ノイズ・レベル:−100dB(ゲイン最小時/等価入力ノイズ:−128dB) ▪ヘッドルーム:+27dBU(ライン・アウト) ▪ゲイン・レンジ:+20〜+40dB(GAIN +25スイッチ未使用時) ▪PAD:−20dB ▪電源:115V ▪外形寸法:485(W)×44(H)×232(D)mm ▪重量:3.84kg

製品情報

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