LINDELL AUDIO LIN2A レビュー:リーズナブルな価格でLA-2Aスタイルを実現した真空管オプトコンプ

LINDELL AUDIO LIN2A レビュー:リーズナブルな価格でLA-2Aスタイルを実現した真空管オプトコンプ

 スウェーデンで活躍するプロデューサー、トバイアス・リンデル氏によるオーディオ機器メーカーLINDELL AUDIOより、真空管オプティカル・コンプレッサーLIN2Aが発表されました。その名の通り、名機TELETRONIX LA-2Aのインスパイア機であろう本機。早速その実力を見ていきましょう。

“コンプくさい”感じにならずにしっかりとコンプレッションできる

 LINDELL AUDIOといえば、少し前にレビューさせていただいたLIN76をはじめ、コスト・パフォーマンスに優れた質の高いオーディオ機器で注目を集めるオーディオ・メーカーです。LIN76も価格からは考えられないほど完成度の高い製品でした。

 本機のインスパイア元となるLA-2Aは、1962年、TELETRONIX ENGINEERINGのジム・ローレンス氏の手によって誕生したオプティカル・コンプレッサーの代名詞的な存在。TUBE-TECH CL1AやSUMMIT AUDIO TLA-100Aなど、後に発表された素晴らしいオプティカル・コンプレッサーとともに、60年以上にわたって第一線で活躍し続けています。そのナチュラルで滑らかなリダクション、シルキーかつファットなサウンドを、LINDELL AUDIOがどう捉え、どうリプロダクトしていったのか、期待が高まります。

 まずは外観/仕様からチェックしていきましょう。先のLIN76と同様のデザイン・コンセプトが採用された、黒に近い深い藍色の筐体にシルバーの大ぶりなつまみ。右端に配置されたスウェーデンの国旗もLIN76と同様。ついつい2台ともそろえたくなるデザインです。入出力はTRSフォーン。

フロント・パネル。左からComp/Limiterのトグル・スイッチ、ゲイン・ノブ、VUメーター、ピーク・リダクション・ノブ、右端上部がゲイン・リダクション・ノブ、右端下部が電源スイッチ

フロント・パネル。左からComp/Limiterのトグル・スイッチ、ゲイン・ノブ、VUメーター、ピーク・リダクション・ノブ、右端上部がゲイン・リダクション・ノブ、右端下部が電源スイッチ

リア・パネル。アウトプット/インプット端子はLIN76と同様TRSフォーンとなっている

リア・パネル。アウトプット/インプット端子はLIN76と同様TRSフォーンとなっている

 LA-2Aと同じくつまみはピーク・リダクションとゲインのみ。LA-2Aでは背面に配置されたComp/Limiterのトグル・スイッチは、前面に配置されています。これは使いやすく、好印象です。一点注意したいLA-2Aと違う点は、同じく背面に配置されていた、高域周波数に対するコンプレッションを調節するR37エンファシス・コントロールは本機には搭載されていません。

 では早速サウンドをチェックしていきましょう。まずは、筆者がLA-2Aを使用することの多い、男性ボーカルにインサート。何も考えずにゲインをぐいっと上げていったところ、“お! 音がいい”という第一印象。太く張り出すミッドレンジがとても心地良いです。

 次に、Compモードでピーク・リダクションもグッと上げていったところ、思ったよりも、かなりしっかりかかる印象。LA-2Aと同様の感覚で、リダクション・メーターの振れよりも明らかにコンプレッションされている感じです。今回のソースでは、ピーク時にメーター上1dBほどたたいただけで十分なリダクション量が得られました。

 LA-2Aを感じさせる、独特なゆるっとしたリリースで、いわゆる“コンプくさい”感じにならず、しっかりたたいても音像が奥まったり詰まったりせず、非常に使い勝手がいいです。

オプト・エレメントはT4BLAを採用 絶妙な設定のアタック/リリース・タイム

 オプティカル・コンプレッサーはこのゲイン・リダクションの滑らかさが持ち味。商品説明を見てみると、オプティカル・エレメントにBLACK LION AUDIO製のT4BLAというデバイスが採用されているとのこと。オプティカル・コンプレッサーは、入力信号のレベルによってデバイスの光源の明るさを変化させ、その光量でゲイン・リダクションをコントロールするコンプレッサー。まさに本機の心臓部となるこのT4BLAが非常にいい仕事をしているのでしょう。

 アタック・タイムはLA-2Aよりも速い印象で、現代的なバイト感もあります。音域の広い曲のボーカルも、低くピアニッシモで歌っているバースから高く声を張ったサビまで、レベルも倍音感も適切にならし、非常に音楽的にまとめあげてくれます。

 次に、エレキベースにインサートしてみます。これも非常に好感触で、音域による低域の密度を程良くならしてくれて、オケ中での安定感がぐっと増す印象。このLIN2Aや、オリジナルのLA-2Aの素晴らしいところは、なにせ操作子が少なく、細かい設定で悩む心配がないことです。

 逆にいうと、細かな調整ができないとも言えるのですが、筆者の感覚だとそれをデメリットに感じることはほぼありません。それよりも設定されているレシオ、アタック/リリース・タイムが絶妙で、ささっと触るだけでバシッとコントロールしてくれる恩恵の方が大きいと思います。

 この感じだと“レベル・コントロールの難しいウッド・ベースにも合うかも”と思ったので、最後にウッド・ベースにインサートすると予想通り、非常に合いました。ウッド・ベースは低域のコントロールがとても難しく、FETコンプなどでたたきすぎるとアコースティックなダイナミクスを失いかねないのですが、LIN2Aは滑らかなリリースと程よいバイト感で、音楽的な豊かさを保ったまま、まとめてくれました。そのほか、いろいろなソースでチェックしましたが、特にボーカルやベースなどで非常にいいパフォーマンスを見せてくれたLIN2A。

 本機のインスパイア元であるLA-2Aのオリジナル・モデルは製造から時間もたっていることから、コンディションのいい個体に巡り会うことがなかなか難しい現在ですが、LIN2Aはその代わりとしてだけでなく、再現機にとどまらない現代的なサウンド・デザインも合わせ持ったワン・アンド・オンリーな素晴らしいコンプレッサーです。このクオリティの製品を税込み10万円以下で提供してくれるLINDELL AUDIOに今回も脱帽しました。

 

大野順平
【Profile】フリーランスで活動するエンジニア。中田裕二、SUGIZO、大森靖子らの作品や、浜端ヨウヘイ、LUNA SEA、METAMUSE、back numberといった個性的なアーティストの作品に携わる。

 

LINDELL AUDIO LIN2A

99,000円

LINDELL AUDIO LIN2A

SPECIFICATIONS
▪アタック:T4BLAオプト・セルに準拠 ▪リリース:T4BLAオプト・セルに準拠 ▪レシオ:プログラム依存型 ▪外形寸法:438(W)×88(H)×250(D)mm ▪重量:3.7kg

製品情報

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