KERWAX Kerwax Replica レビュー:カスタム真空管コンソールのサウンドを再現した2chライン・プリアンプ

KERWAX Kerwax Replica レビュー:カスタム真空管コンソールのサウンドを再現した2chライン・プリアンプ

 フランスはブルターニュ地方にあるレコーディング・スタジオのケルワックス。そのコントロール・ルーム中央に鎮座する24chのカスタム真空管コンソールを元に作り上げたというライン・プリアンプ=KERWAX Kerwax Replicaが発売されました。デザインからしてアナログ機材好きにはたまらない魅力を放つ本機。その実力を検証します。

プリアンプ/サチュレーション・ステージに計4本の12AX7管を搭載

 ケルワックスはブルターニュの寄宿学校を改装して作られたオール・アナログのスタジオで、先ごろ音響機器ブランドKERWAXとしてビンテージ・リボン・マイクの復刻モデル、Melodium 42BNを発表し、筆者も気になっていました。スタジオ写真を見ると、AMPEXやGATESなど1940〜70年代までの希少なビンテージ・アナログ・ギアがずらりと並んでいます。その中でもひときわ存在感を放っているのが、自社開発された24chのカスタム真空管コンソール。そのサウンドを再現し、ステレオ・チャンネルのライン・プリアンプとして製品化したのがこのKerwax Replicaです。5Uの無骨な筐体、ビンテージ機器をほうふつさせる丸いVUメーターと大ぶりのツマミ類、そしてむき出しで並ぶ4本の12AX7真空管と、外観だけで既に筆者はノックアウト気味です。

 Kerwax Replicaは、各チャンネルに2本ずつの12AX7真空管を搭載し、一本はプリアンプ・ステージ用、もう一本はサチュレーション用として用意されています。TRIM、GAIN、VOLUMEと、3つのレベル操作子でサウンドの深みとサチュレーション具合を調整していくのが基本のスタイルのようです。それに加え、バイアス調整のBIASツマミでさらにサウンドを微調整でき、バクサンダール・タイプと呼ばれる2バンドのシェルビングEQと、80/120Hzのハイパス・フィルターを搭載。また、マスタリングでの使用を考慮していると思われるM/Sモードも備えています。

リア・パネル。2ch分のインプット&アウトプット端子(XLR)が並ぶ

リア・パネル。2ch分のインプット&アウトプット端子(XLR)が並ぶ

 本機が活躍しそうなスウィング・ジャズの楽曲のミックスが進行中だったので、まずはドラム・バスに使用してみます。GAINとVOLUMEのツマミはサチュレーション・ステージのもので、DRIVEというスイッチをオンにすると機能します。ひとまずDRIVEはオフにしてTRIMツマミを上げていくと、この時点で既にとても好印象なサウンド。程良く倍音が加わり、ハイファイかつファットになりました。金物やスナッピーの耳障りな高域のピークがまろやかになり、サウンドがまとまっていきます。BIASツマミを併用していくとさらに倍音が増加。プリアンプ・ステージだけでも相当な音の変化が楽しめます。

VOLUMEとGAINはサチュレーション・ステージのもので、DRIVEスイッチをオンにすると機能する。サチュレーション・ステージの後段にはEQステージがあり、写真右側のTREBLEとBASSで調整可能。BIASはプリアンプ・ステージでの真空管による音の変化具合をコントロールできる

VOLUMEとGAINはサチュレーション・ステージのもので、DRIVEスイッチをオンにすると機能する。サチュレーション・ステージの後段にはEQステージがあり、写真右側のTREBLEとBASSで調整可能。BIASはプリアンプ・ステージでの真空管による音の変化具合をコントロールできる

真空管ならではの音楽的なひずみで各音域で“太さ”にバラつきが無い

 今度はDRIVEスイッチをオンにしてみましょう。GAINツマミを上げていくと、これまでとは比較にならないほどのクラッシュ・サウンドに! これが実に音楽的でたまらないひずみ感になっていて、しびれました。まさに真空管でしか得られない素晴らしいサウンドです。程良いところまでGAINを調整していくと、共に作業中のクライアントからも“最高!”と声が挙がり、もはや使用前には戻れなくなってミックスの最後まで使用してしまいました。2バンドのEQも実に効果的で、最後の微調整に一役買ってくれます。後に別の楽曲のドラム・バスにも使用してみると、この用途だけに購入してもいいと思うほど好みのサウンドが得られました。ほかにも、ウッド・ベースやエレキベース、エレキギター、アルト・サックスとさまざまなソースに試したところ、TRIM、GAIN、VOLUMEの3段階のコントロールにより、何に使っても欲しい分だけ自由自在に倍音が得られました。

 ボーカルにも使用してみます。ここではDRIVEはオフにし、TRIMとBIASのみでコントロール。これもまた素晴らしい仕上がりになりました。特筆すべきは、音域差による倍音構成が程良くならされて、高い音域も低い音域もずっと太く強いボーカルに仕上がること。サチュレーションがトゥー・マッチになり過ぎないギリギリを探り当てると、ヒリヒリした最高のボーカル・サウンドになります。ここでもシェルビングEQが実に効果的で、まさにかゆいところに手が届くといった感じです。録音のレベル差が大きい場合は、前段にナチュラルなコンプを入れて少しならしてから使用するのも良いかもしれません。

 最後にマスター・バスにも使用してみます。DRIVEとEQはひとまずオフにし、VUメーターの振りがバイパス状態と同じになるようにTRIMを調整。一聴してファットでありながらまとまりの良い引き締まったサウンドになっています。そして如実に違うのがピーク・メーターの止まり方。これも真空管の恩恵の一つでしょう。DAWベースのミキシングに置いてこれは大きなメリットとなると思います。サウンド自体が気持ち良いので、特にマスター・バスではうっかりひずみ過ぎてしまわないように注意したいところです。

 M/Sモードでもチェックしてみました。ミッドとサイドでEQやTRIMはもちろん、BIASの設定を個別に調整したり自由自在に2ミックスをコントロールできます。各チャンネルにミュートが付いているのも、M/S処理の際には特に重宝します。

 個人的にも本当に欲しくなってしまったKerwax Replica。あらためて真空管サウンドの素晴らしさを実感しましたし、時間も忘れてサウンドの調整に没頭できました。DAW内完結のミックスでは決して得られない音楽的な豊かさを、ぜひ皆様にも体感していただきたいです

 

大野順平
【Profile】スタジオ・サウンド・ダリ所属のエンジニア。中田裕二、SUGIZO、浜端ヨウヘイらの作品を数多く手掛けるほか、秦基博や尾崎裕哉、LUNA SEAといった個性的なアーティストの作品に携わる。

 

KERWAX Kerwax Replica

オープン・プライス

(市場予想価格:495,000円前後)

KERWAX Kerwax Replica

SPECIFICATIONS
▪周波数特性:30Hz〜27kHz ▪最大出力レベル:+20dBu ▪ハイパス・フィルター:80/120Hz ▪EQ:TREBLE&BASS(±10dB) ▪真空管:12AX7×4本 ▪外形寸法:342.5(W)×222(H)×483(D)mm ▪重量:10.6kg

製品情報

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