KERWAX K-23R レビュー:オーバーヘッドやボーカルなどに適した現代的なサウンドのリボンマイク

KERWAX K-23R

 フランスの新興レコーディングスタジオKERWAXは数多くのビンテージ機材を備え、その技術部門ではハンドメイドでビンテージ機器のレプリカを製造および販売している。そのKERWAXから新しいリボンマイクK-23Rが発売されたのでチェックしていこう。

ネオジム採用のモダンなリボンサウンド

 以前に本誌でレビューした同社のMelodium 42Bnは実在した大型リボンマイクのレプリカであり、ビンテージ色の濃いサウンドであった。今回ご紹介するK-23Rはそれとは方向性の違う現代的なリボンサウンドを持つ新製品だ。

 30(φ)×200(H)mmのステンレス削り出しによる筐体には12段のスリットが入っており、BANG & OLUFSENのビンテージリボンマイクをほうふつさせる美しいデザイン。リボンマイクとしては小型ながら、重さは455gで高級感たっぷりの質感だ。スリットの隙間からその影がのぞけるリボン部は厚さ2.5μ、幅5mm、長さ51mmの薄膜アルミニウム。

 本機は電源を必要としないパッシブタイプのリボンマイクであるが、磁石に強力なネオジムを使っており、感度は−46dBv re. 1V/Paあるので、一般的なダイナミックマイクよりマイクプリのゲインを必要としない仕様。まず普段使っているオーディオインターフェースにつないで声を録ってみると、実用上でもダイナミックマイクに負けない録音レベルを得ることができた。ヒスノイズも全く気にならない。そして早々に気がついたのは意外にも声にピッタリの音色であること。

K-23Rを背面から見たところ。XLRケーブルは本体に直接接続されている

K-23Rを背面から見たところ。XLRケーブルは本体に直接接続されている

オーバーヘッドに最適な周波数特性

 声に関しては後述するとして、メーカーの推奨楽器はドラムのオーバーヘッド、ギターアンプ、管楽器、そしてルームマイクとなっている。そこでスネアドラムと金物を用意してドラムセットに立てる場合と同じ距離で録音してみると、特性としてはやや中域が下がり、50Hzと125Hz辺りがリボンマイクらしく少し上がっている。かつ高域がきちんと出てスピード感もあるので、まさにオーバーヘッドにピッタリの特性。ビンテージ色は薄いが、リボン特有の自然なトランジェントがとても魅力的だ。

 本機の出力インピーダンスは300Ωで、筆者のオーディオインターフェースの入力インピーダンスは3kΩという組み合わせ。リボンマイクは受け側の入力インピーダンスによって音色が変わる傾向があるので、試しに入力インピーダンスが1.2kΩのマイクプリに代えてみた。すると、本機の場合はパッシブながらもそれほど大きな差は出ず、十分な高域が得られた。この特性ならいろいろなマイクプリが選択肢に入るだろう。

 指向性は、8の字型の双指向性で側面からの音はほとんど拾わない。少し響く部屋であってもコンデンサーに比べてドライに収録できる点はリボンのメリットだ。さらに金物類はソフトに、スネアの低域も奇麗に録れる。筆者もオーバーヘッドにリボンマイクを使うことが少なくないが、その場合ハイエンドが不足していないかマイクの状態には常に気を配っている。新品に近いこともあるが、本機くらいしっかりした高域を持っていればより安心できるだろう。このサウンドを送り出す出力トランスはKERWAX製のカスタムモデルとなっている。

ギターアンプにも対応できるSPL

 次に、ギターアンプに立ててみると、ダイナミックマイクよりワイドレンジだ。トランジェントはクリーントーンに向いているが、リボンマイク特有の50Hz辺りの帯域はローカット処理が必要だろう。本機の最大SPLは135dBでギターアンプの音量にもひずみにくい仕様。ただし、吹かれには弱いのでギターアンプに立てる場合はスピーカー駆動による風圧が心配だ。小型アンプの場合でも歌用のポップガードを利用した方がいいだろう。なお、国内輸入代理店の宮地商会M.I.D.のWebサイト内にあるK-23R紹介ページには、Fenderのビンテージアンプにマイクを立てた写真が掲載されているが、やや斜めに20度ほど前傾させて風圧をうまく逃す工夫がしてある点をぜひ参考にしていただきたい。また、ひずんだ音色のアタック部分はダイナミックマイクの方が得意なので、その場合は本機をブレンドして中低域を補うのもよいと思う。

宮地商会 M.I.D.(KERWAXの国内輸入代理店)のWebサイト内にあるK-23Rの商品紹介ページに掲載されている写真

宮地商会 M.I.D.(KERWAXの国内輸入代理店)のWebサイト内にあるK-23Rの商品紹介ページに掲載されている写真。K-23Rをギターアンプに立てた例だが、アンプに対して20度ほど傾けることで、風圧を直接的に受けないように工夫されている。なお、実際にギターアンプへ使用する際はウインドスクリーンも併用して、近づけすぎないようにしてほしい

ルームマイクにも十分な感度

 リボンマイクは音源から距離を離しても低域が豊か、かつ本機の場合は感度も十分なので、各種楽器のルームマイクとして使うのもお勧めだ。さらにトランジェントが自然である点では管楽器やタンバリン、手拍子など比較的コンデンサーで録音しにくい楽器にも試してみるといいだろう。

 さて、今回推奨楽器とともに好印象だったのがボーカル録音だ。筆者のオーディオインターフェースとの相性が良かったこともあるだろうが、クリアでかつ太めの低域が存在感を持っている。ハイエンドはさすがにコンデンサーには及ばないが、トータルで見ると曲によっては本機の方が良い結果となる場合もあるだろう。最後にリボンマイクはコンデンサーよりやや遠めの距離で使ってみることをお勧めしておきたい。

 

原口宏
【Profile】長年のミキシングエンジニア業に加えて、2023年よりHiroshi Haraguchi名義で完全ソロの自作アルバムを配信開始。最新曲はSEQUENTIAL prophet系音源を多用した「Far East Xmas」。

 

 

 

KERWAX K-23R

168,000円

KERWAX K-23R

SPECIFICATIONS
▪指向性:双指向 ▪リボン:2.5μ厚/アルミニウム製。5(W)×51(H)mm ▪磁石:ネオジム ▪出力トランス:カスタム仕様 ▪周波数特性:30〜15,000Hz(±3dB) ▪感度:−46dBv re. 1V/Pa ▪出力インピーダンス:300Ω ▪最大SPL:135dB ▪外形寸法:30(φ)×200(H)mm ▪重量:455g

使用上の注意
▪リボンは風圧に弱いので、歌だけではなくギターアンプでも、必ずウィンドスクリーンを使用して、音源に近づけすぎないように
▪電源は不要のため、必ずマイクプリ側のファンタム電源がオフであることを確認してから本機を接続すること

製品情報

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