ローファイヒップホップでは定番となった、メロウな音色やリバーブ感、メロディアスなフックを備えたループたちが並んでいる。上モノ全般は、ハイがやや削られたくすんだ音像で、その加工具合に応じて同じフレーズを複数収録しているものもある。特に音作りに不安がある方にはうれしい点だろう。また、声ネタがモノローグ調からメロディックなものまで、満遍なく収録されているのも特筆すべき点である。
ただ、それにもまして私が面白いと思ったのは、テンポのあり方だ。最も遅いものでも101BPMで、最速で112BPM。ローファイの世界ではあまりに速すぎるし、ハーフテンポで取るにしてはかなり遅い。ドラムループは、101BPMではそのままアップテンポのビート、112BPMではハーフテンポのスロージャム的なビートになっている。結論としては、なかなか大胆な設定になっていた……と言えばそれまでだが、ふと“ジャンルにおけるテンポとは?”という問いが浮かんだ。
ローファイブーム以降、低速のビートミュージックが急速に広まったが、アッパーなテンポだからといって、ローファイビーツを名乗っていけないわけではない。1曲の中で通常テンポとハーフテンポ、あるいは倍のテンポを行き来するような作品があったとしても、全く不思議ではないだろう。
今回のレビューを執筆してみて、ビートミュージックが本来許容してくれる“自由さ”を思い出した。往年のエリック・B&ラキムなどに通じるアッパーなビートを、このサンプルパックで思い切って作ってみようと思う。
TOMC(トムシー)
【Profile】ビート&アンビエントプロデューサー。カナダのInner Ocean Records、日本のLocal Visionsなどから作品を発表。リリースごとに明確なコンセプトを掲げ、独自の波形編集で作り込まれたジャズヒップホップやアンビエントの作品群で知られる。
2020年、EP『Lunar Maria』がiTunes国内チャートのニューエイジ1位、EP『Stories & Studies』が同インストゥルメンタル2位を獲得。2022年には「Honesty (feat. arcomoon)」をはじめ複数曲がApple Music米国チャートの100位内にランクインするなど、国内外でリスナー層を広げている。2023年の最新アルバム『True Life』は “2020年代のNujabes” と称され、音楽メディアSmall Albumsなどが選ぶ年間ベストアルバム企画にも選出された。
近年は長谷川時夫 (タージ・マハル旅行団))を中心とする集団即興演奏コレクティブ〈Stone Music〉に参加。一方でハウスやディスコ〜R&BのDJとしても長いキャリアを持つなど、シーンの枠に捉われない活動を展開している。メジャー/マイナーを問わず広範囲な音楽知識を生かし、サイゾー、Mikikiなどウェブ媒体や専門誌〜Kankyo Records、ディスクユニオンなどのレコード店への寄稿、J-WAVEなどメディア出演も多数。
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LOFI & CHILL BY APOLO
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