BLACK LION AUDIO Seventeen 500 レビュー:ICベースのフロントエンド回路を搭載した1176スタイルの500モジュール

BLACK LION AUDIO Seventeen 500 レビュー:ICベースのフロントエンド回路を搭載した1176スタイルの500モジュール

 シカゴ発のBLACK LION AUDIOが放つ、UREI 1176にインスパイアされたコンプ/リミッターのSeventeenに、API 500シリーズ互換モジュールSeventeen 500が登場しました。再設計と改良が施された新しいICベースのフロントエンド回路とシカゴ製のカスタムデザイン出力トランスが組み合わさっていて、独自の特許技術のパワー・デカップリング、最高品質と評されるNICHICON製ハイグレード・シグナル・コンデンサーの採用でぜいたくなノイズ低減対策が施されているということで、音質への期待が高まります。

プッシュ式のボタンでレシオを複数選択可能 2台の連携が可能なステレオ・リンクを搭載

 フロント・パネルには、INPUT、OUTPUT、ATTACK、RELEASE、RATIO(4:1、8:1、12:1、20:1)、VUメーターを搭載(メイン写真)。COMPボタンはコンプレッション回路のアクティブ/バイパスを切り替えるものです。RATIOボタンをすべてオフにするとダイナミクス処理を行わず、本機のカラーを得るためのエフェクターとしても使用できます。RATIOボタンはプッシュ式で、全押ししたいときやマルチレシオとして組み合わせて使いたいときに両手を使う必要がないのも便利です。右上のSC HPFでは、カットオフを200Hzと100Hzで選択できるため、低周波をトリガーせずに逃すこともできます。中央のCOMP MIXノブではドライ信号とウェット信号を好みの比率で混ぜることができ、自然なサウンドのコンプレッションも可能です。2台のSeventeen 500をリンクできるステレオ・リンクも搭載されています。よくこれだけの機能をわずか2スロットに収めたものです。

 アタック・タイムは20〜800us、リリース・タイムは1200〜50msで、ここも1176と共通のスタイルです。ツマミがすべてステップ式になっているのは非常にうれしい仕様で、以前の設定を容易に確実に再現できるので、ミキシング時に特に重宝しそうです。

 アタック・タイムは、時計回り一杯で最も遅くなる仕様になっているので、ボリューム・ノブを左に回すと音量が下がり、右に回すと音量が上がるような感覚で直感的に操作できる設計になっています。

 今回は同社の500シリーズ・ラックPBR-8にマウントしました。

テストに使用した500シリーズ・ラックのBLACK LION AUDIO PBR-8(オープン・プライス:MUSIC EcoSystems STORE価格148,500円)。パッチベイによりモジュールのマウント順に関係なくルーティングが可能になっている

テストに使用した500シリーズ・ラックのBLACK LION AUDIO PBR-8(オープン・プライス:MUSIC EcoSystems STORE価格148,500円)。パッチベイによりモジュールのマウント順に関係なくルーティングが可能になっている

Seventeen 500をPBR-8にラックした様子(筆者撮影)

Seventeen 500をPBR-8にラックした様子(筆者撮影)

 フロントにバンタム・パッチベイが搭載されていて、モジュールの順序に関係なくルーティングできます。各スロットがクリーンかつ絶縁された上で十分な電力を供給できるということで、本機を含む3台のラックに同じマイクプリを付け替え、ギターのリアンプでそれぞれの音質差を検証してみたところ、PBR-8は低域の欠損などパワー・ロスがなく、ノイズ感も少なく自然でかなり好印象でした。

高域に明るさや抜けが出る上品なサチュレーション レシオ全押しで部屋の空気感が強力に持ち上がる

 コンプを試していきます。ミックス内で屈強な男性デス・ボイスや女性ハイトーン・ボーカルにインサートして使ってみました。浅めのコンプレッションだと透明感があり、クリーンです。深めにしてもあまりひずんできません。過激になることはなく、高域につややかな明るさや抜けが出るような、非常に上品なタイプのサチュレーションを感じました。グイッとどこかの帯域が膨らむこともなく、ザラザラとした汚なさも皆無で、素材の原型を保ちつつ活気を与える方向の質感です。

 RATIOボタンをオフにしてINPUTを上げていくと、Seventeen 500のカラーとして高域に焦点を当ててひずませているのがよく分かります。深くコンプするほど高域が広がって輝くようです。攻撃的ではないので、たとえ設定が大ざっぱでもオケ中で良くなじみます。COMP MIXと組み合わせると相当な数のパターンの音色が作れました。ノイズ・レベルは非常に低く抑えられ、全く気にならないレベルでした。

 次に、ドラムのキック、スネア、タム、モノラルのルーム・マイクを通して試しました。SC HPFのおかげでペチャッとつぶれることもなく、芯を保ったままクリアでパンチ感のある音に成形できました。特にマルチレシオが秀逸で、組み合わせ次第でアタックを絶妙なニュアンスに追い込めます。ルーム・マイクは全押しが秀逸で、部屋の空気感やキットが一気に強力に持ち上がりました。リダクションを極限まで深めても破たんせず、空気感やキットのサステインだけがよく伸びていきます。Seventeen 500はドラムとも非常に相性が良く、ドラムの全トラックに挿してミックスしたくなりました。

 リダクション面では、速めのリリース設定だと前面にプッシュされた大きめの音像になる傾向があり、今まで使用してきた1176スタイルのリリース・タイムのセッティングの感覚よりも気持ち遅くして使用するとちょうど良く感じました。

 Seventeen 500に慣れてくると、VUメーターと実際の音が機敏に連動しているのを感じます。目と耳と手の感覚でタイム感を操る感覚が心地良く、ハードウェアならではの直感的な体験を味わえます。

 Seventeen 500は、使う素材を選ばないオールラウンド・タイプのコンプとして活躍できるポテンシャルを感じました。透明なコンプから上品なサチュレーションまで幅広い音作りが可能で、あまりハードウェアを触ったことがない人も、簡単で直感的な操作性とアナログ・サウンドを本格的に堪能できます。本来は2Uのスペースを消費するところを、こんなに小さなモジュール1台に集約できるのは、スペースが限られた部屋の環境にとって大きいメリットです。素材のディテールやニュアンスを失うことなくサウンドを追い込めるSeventeen 500は、何台も集めたくなる魅力があります。

 

Hiro
【Profile】METAL SAFARIのギタリストを経てプロデューサー/エンジニアに。録音〜マスタリングまでこなす。NOCTURNAL BLOODLUSTやUnlucky Morpheusなど多くのメタル・バンドを手掛ける。

 

 

 

BLACK LION AUDIO Seventeen 500

オープン・プライス

(MUSIC EcoSystems STORE価格:71,500円)

BLACK LION AUDIO Seventeen 500

SPECIFICATIONS
▪タイプ:FETコンプレッサー ▪アタック:20〜800us ▪リリース:1200〜50ms ▪サイドチェインHPF:オフ/100Hz/200Hz ▪レシオ:4:1/8:1/12:1/20:1、複数の組み合わせも可能 ▪電圧:±16V ▪ラック・スペース:2U(API 500互換) ▪重量:1.47kg ▪外径寸法:76(W)×178(H)×229(D)mm

製品情報

関連記事