BEYERDYNAMIC M 90 Pro X レビュー:幅広いソースに向けたコンデンサー・マイク

BEYERDYNAMIC M 90 Pro X レビュー:幅広いソースに向けたコンデンサー・マイク

 BEYERDYNAMICといえば、2024年には創業からちょうど1世紀を迎えるドイツの老舗メーカーです。ベルリンでスタートした後、第二次世界大戦後はハイルブロンに拠点を移し現在に至ります。ヘッドフォンやマイクを数多くリリースしてきている同社が、2021年から新たに展開しているPro Xシリーズから、今回はラージ・ダイアフラム・コンデンサー・マイクのM 90 Pro Xを試してみます。

指向性はカーディオイド

 届いたM 90 Pro Xの箱をさっそく開封してみると、本体がソフト・ケースに収められているほか、専用サスペンション・ホルダーとグース・ネックのポップ・スクリーンまで同梱されていました。マイクを初めて購入する方でも、届いてすぐに使えるのはうれしいですね。ちなみにこのサスペンション、日本のカエデが、細い枝にも関わらず多くの葉の重量を支えるのに十分な強度を備えているという点から着想を得て作ったそうです。

付属品1。本体を収納するソフト・ケース

付属品1。本体を収納するソフト・ケース

付属品2。サスペンション・ホルダー

付属品2。サスペンション・ホルダー

付属品3。グース・ネック・タイプのポップ・スクリーン

付属品3。グース・ネック・タイプのポップ・スクリーン

 M 90 Pro X本体のサイズは、高さが197mm、直径が52mmで程よい大きさですが、重量は296gと手に持ってみると思ったよりも軽く感じます。重量があるとマイク自体の重さでマイク・スタンドが傾いてきたりすることもあるので、この軽さは扱いやすそうです。マットな黒を基調としたアルミ製のボディは高級感があり、ドイツらしいミニマルなデザインが好印象です。

 内部には34mmのコンデンサー・カプセルを搭載しており、指向性はカーディオイドのみで、標準的な3ピンXLR端子を備えている以外には、PADやハイパス・フィルターといったような機能は搭載されていません。この辺りは実際に使用してみても不便を感じることはありませんでした。逆に接点不良や故障の可能性も下がるのでシンプルな設計に好感が持てます。

 また、振動の影響を抑制するために独自構造のサスペンション・システムを内蔵しているそうで、グリルをのぞき込むと、本体前面からは金色のダイアフラムが少し見えますが、背面からは見えなくなっています。周波数特性は20Hz~20kHz、インピーダンスは180Ω、最大許容限界音圧レベルは133dBなので大音量の楽器録音にも対応可能です。

余計な色付けがない素直な質感

 それでは音を聴いてみましょう。スタジオで、NEVE V3コンソールにM 90 Pro Xを立ち上げてファンタム電源を送り、AVID Pro Toolsで、まずは生楽器主体のポップスの男性ボーカルを録音してみます。しっかりした芯のある力強いキャラクターですが、素直な質感で余計な色付けはされていません。高域は明るくツヤがあるものの、シャラシャラしたようなイヤな質感はなく、シビランスが強調されることもなくナチュラルなサウンドです。低域から中低域にかけては、温かみがありつつも、もわっとたまる感じがないのが良いです。

 次に、打ち込みドラムとシンセが主体で、少し派手めな曲の女性ボーカルを録ってみます。やはりクセのないフラットな印象で、高音で張ったときにも声が細くなったり、ピーキーな感じもありません。オケが派手めなせいもあり、ハイエンドに多少の物足りなさを感じたので、Pro Toolsに付属のプラグインEQを使って、12kHzから上をシェルビングで少しブーストすると良い感じになったので、高域の倍音もきちんと収録できていて、ミックスで柔軟に対応できそうです。

 総じて、声のニュアンスをうまく表現してくれるマイクで、ノイズ感が少なくSN比が良いので、今回録った2曲ではそういうシーンはありませんでしたが、ウィスパーや小さい声でボソボソ歌うような場合、あるいはナレーション録りにも良さそうです。

 続けてアコースティック・ギターを録音してみます。ピッキングのニュアンスがちゃんと出ていて、アタック感はあるものの、トランジェントが滑らかで、とげとげしさはありません。アルペジオだと粒立ちよく1弦から6弦までバランスよく録れています。ストロークの場合だと、少し低域が多いかなと思い、前述のプラグインEQにてQ広めのピーキングで150Hzあたりを少しカットしましたが、基本的にまとまりのある音で録れていて、初心者の方でも扱いやすいマイクと言えるでしょう。

 最後にハンド・クラップとタンバリンも録ってみました。パーカッション類は、マイクによってはカチッ、もしくはパチッという感じでアタックが点のようになって細くなりすぎる場合もあるのですが、本機は、しっかりとしたアタック感があり、大きな音像感で録れました。マニュアルによれば、今回録音する機会がなかったものだとピアノや弦楽器にも向いていると書いてありますが、ほかにも管楽器などにも良さそうだなと思いました。

 機能は最小限ながらも、老舗らしいしっかりとした作りで、マイクとしての基本性能が高く、歌以外にも使える局面が多いので、価格を考えるとコスト・パフォーマンスに優れた製品だと感じました。宅録を始めて、最初のコンデンサー・マイクを買おうとしている方には自信をもってお薦めできます。声がナチュラルに良い音で録れて、軽くて取り回しやすく、セッティングの柔軟性も高いので、ミュージシャンだけでなく、ストリーミング配信やゲーム実況などでナレーションを録音するのにも良さそうです。

 

山崎寛晃
【Profile】HAL STUDIOを拠点とするエンジニア。Superfly、坂本真綾、Little Glee Monster、古内東子、ART-SCHOOL、SPANOVAなどを手掛け、曲想に合ったレコーディングに定評がある

 

BEYERDYNAMIC M 90 Pro X

オープン・プライス

(市場予想価格:42,800円前後)

BEYERDYNAMIC M 90 Pro X

SPECIFICATIONS
▪指向性:カーディオイド ▪周波数特性:20Hz〜20kHz ▪最大許容限界音圧レベル:133dB(1kHz) ▪SN比:88.4dBA(1Pa) ▪外形寸法:52(φ)×197(H)mm ▪重量:296g

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