BEST SERVICE The Orchestra Complete 3 レビュー:4種のライブラリーを束ねつつ作曲支援エンジンを備えるオーケストラ音源

BEST SERVICE The Orchestra Complete 3 レビュー:4種のライブラリーを束ねつつ作曲支援エンジンを備えるオーケストラ音源

 The Orchestra Complete 3は、NATIVE INSTRUMENTS Kontakt Player 6.7以降で使用できる総合オーケストラ音源。Mac/Windows対応で、スタンドアローンのほか、AAX/AU/VST/VST3プラグインとして動作します。

5種類の楽器を同時にロードできるエンジン

 The Orchestra Complete 3は、下記のBEST SERVICE製ライブラリー4つをまとめたものです。

●The Orchestra:総合オーケストラ・ライブラリー
●TO - Strings Of Winter:ストリングス+モリンホール(モンゴルの弦楽器)を収めたライブラリー
●TO - Horns Of Hell:金管楽器+オルガン+パーカッションのライブラリー
●TO - Woods Of The Wild:木管楽器+マリンバ+ビブラフォン+パーカッションなどのライブラリー

 The Orchestra Complete 3には“アンサンブル・エンジン”という専用エンジンが搭載されています。これは最大5種類の楽器を同時にロードできるもので、例えば簡単なコードからでも壮大なオーケストラのフレーズを作れるそう。

 まずはアンサンブル・エンジンの構造を理解するために、プリセットをロードしてみます。すると、MAIN画面中央左列のInstrument Slotに、アンサンブルを組成する楽器のサンプルが読み込まれます(上のメイン画像)。その右にあるOctave Shiftでは音域のセッティング、Engine Slotでは各楽器の音形(フレーズ)、音色、ダイナミクスなどを設定可能です。

フレーズ作りのための3つのモードを搭載

 Engine Slotは、次の3つのモードを備えています。まず“Free”は自由に演奏できるモードで、ベロシティやモジュレーションによりダイナミクスを自在にコントロールできます。“Arpeggiator”は、各ステップのダイナミクスを調節できるアルペジエイターと、各ノートのピッチを選択可能なシーケンス・カスタマイザーで構成。そして“Envelope”は、ドラッグ操作により、繰り返されるフレーズのダイナミクスを自由に描けます。画面下部のENGINEタブをクリックすると詳細なエディターが現れ、アルペジエイターの音形やエンベロープ・カーブを変えられるため、各モードを楽曲に合わせて最適化させることが可能。

ENGINEタブを開くと、アンサンブル・エンジンEngine Slotのアルぺジエイターをエディットできる。この画面にはシーケンス・カスタマイザーへの切り替えボタンがあり、そのエディットも行えるようになっている

ENGINEタブを開くと、アンサンブル・エンジンEngine Slotのアルぺジエイターをエディットできる。この画面にはシーケンス・カスタマイザーへの切り替えボタンがあり、そのエディットも行えるようになっている

ENGINEタブのエンベロープ・エディター。中央のグラフィックをドラッグして、エンベロープ・カーブを描くことができる

ENGINEタブのエンベロープ・エディター。中央のグラフィックをドラッグして、エンベロープ・カーブを描くことができる

 また、このアンサンブル・エンジンで生成したフレーズはMIDIデータとしてDAWにエクスポートでき、ほかの音源でも鳴らせるので、フレーズ・ジェネレーターとしても使えます。

 MIXER画面では、各楽器の音量バランス、パンニング、エフェクトなどで音作りを行うことができます。パラアウトも可能なので、外部スタジオにデータを持ち込みたいときやステム作成の際にも便利ですね。

MIXERタブを開けばアンサンブル・エンジンにロードした各楽器のバランスや定位を調整できるほか、内蔵のEQ/コンプ/リバーブでの音作りも可能

MIXERタブを開けばアンサンブル・エンジンにロードした各楽器のバランスや定位を調整できるほか、内蔵のEQ/コンプ/リバーブでの音作りも可能

 従来のアンサンブル系オーケストラ音源には音色がただレイヤーされていたり、音域でスプリットされていたりするものが多かった印象ですが、The Orchestra Complete 3では各楽器の動き方を細かく設定でき、音色の特徴を生かしたアンサンブルが可能なので、よりオーケストラらしく、かつ自分仕様に特化した表現が素早く実現できると思います。

膨大なプリセットを持つインストゥルメント・グループ

 “インストゥルメント・グループ”という機能も特徴です。1つのパッチを選ぶと複数のインストゥルメントが立ち上がり、既にそれぞれがレイヤーされていて、多彩な音色やアンサンブルを形成できます。下記の3カテゴリーが存在し、膨大なプリセットにより劇伴作曲のスケッチやサウンドの強化、厚みの付加など、広範囲にわたってサポートしてくれます。

●Orchestral Colors:さまざまなオーケストラ楽器
●Orchestral Rhythms:演奏パターン込みのサウンド
●Animated Orchestra:複雑なリズムを生むプリセット

 例えばAnimated Orchestraのパッチでベーシックなコードとリズムを組み、Orchestral Rhythmsのパッチで補助的な刻みの音形を付加し、Orchestral Colorsのパッチでメロディやアクセント的なフレーズを演奏……という流れで作業すれば、これまで非常に手間のかかっていたサウンドを短時間で仕上げることができそうです。

エッジと太さを兼ね備えた音色

 アンサンブルを組成する一つ一つの音色は、単音メインのオーケストラ音源に比べて少しエッジが立っているかなという印象で、エピック系のドラム/リズムなどと混ぜても埋もれない太さを持っています。持続系楽器の音色の立ち上がりの良さも印象的で、メロディを演奏したときにフカフカして頼りない音になる、ということがなく、スケッチのイメージが素早く形になりやすい点がありがたいと思いました。

 アルペジエイターやエンベロープといったシンセ的な概念でオーケストラ・サウンドを構築できるのも特徴で、“シンセは得意だけどオーケストラは苦手”というクリエイターには強くお薦めしたいです。また“オーケストラ楽曲は得意で、音源もいろいろそろえているけれど、リズムのアンサンブルが加わったエピック的なサウンドを作るのに時間がかかる”という人も、うまく活用できるのではないかと思います。

 私も劇伴に携わることが多い日々の中で、曲が余ることはなくても足りなくなることはしょっちゅうなので、空いた時間にThe Orchestra Complete 3を使い、アイディア出しやストック楽曲の作成などに活用しようと思っています。

 

牧戸太郎
【Profile】東京音楽大学を卒業後に作編曲家として活動を開始し、ドラマや映画音楽のほか、竹内まりや、Hey! Say! JUMP、King & Princeなどの編曲も手掛けている。

 

BEST SERVICE The Orchestra Complete 3

62,975円(価格は為替レートにより変動)

BEST SERVICE The Orchestra Complete 3

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.14〜12、INTEL Core I5以上またはAPPLE M1以上のプロセッサー
▪Windows:Windows 10(64ビット)/11、INTEL Core I5以上のプロセッサー
▪共通項目:6GB以上のRAMを推奨、NATIVE INSTRUMENTS Kontakt Player 6.7以降が動作する環境

製品情報

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