Digital Performerのチャンクを分かりやすく解説!ライブ・セット向上テクニック①|解説:藤戸じゅにあ(ジェッジジョンソン)

Digital Performerのチャンクを分かりやすく解説!ライブ・セット向上テクニック①|解説:藤戸じゅにあ(ジェッジジョンソン)

 ジェッジジョンソン藤戸です。連載第2回はDigital Performer(以下DP)を使用した、ライブ/コンサートでの楽曲トラック構築環境のお話です。今日ではライブ・ハウスでも大規模ホール・ツアーでも、DAWでの楽曲トラック再生が一般的になりました。そんなプロフェッショナルのコンサート現場において、ライブ・トラックの管理と操作にDPが多く用いられていることをご存じでしょうか。DPはトラックごとのアウトプット先やミックス・フェーダーの位置などを、一つのプロジェクト・ファイル内において“楽曲単位”で管理、再生可能です。曲順の並び替えなんてプロジェクト内で数秒で完了!制作はDP以外のDAWで行っているけれど、ライブではDPを使っているという方もいます。そこで、今回はライブでの具体的な使用方法を説明していきましょう。

アウトプット名を設定すればプロジェクトを移っても把握しやすい

 1曲だけを演奏するライブならともかく、数曲から十数曲になると、一般的なDAWを使用する場合、当日のライブ用トラック制作だけで膨大な時間と労力が掛かります。これまで多くの現場を見てきましたが、アーティスト自身で楽曲を制作しライブ時に操作している方もマニピュレーターの方も、使用例としては下記のようなケースが非常に多いです。

  1. 楽曲の元データのプロジェクトを曲ごとに開く
  2. 元データから2ミックスを作成し、新規プロジェクトに並べて使用する
  3. パラデータを作成し、新規プロジェクトに並べて使用する
  4. 楽曲データを丸々コピペして、その都度バランスを調整したライブ用のプロジェクトを準備する

 DAWの使い方は十人十色。目的に対する手段が自由なので、ライブ・セットの構築方法もさまざまに存在します(中には“天文学的な時間と労力”を用いて制作している方も……)。それだけに抱える悩みも人それぞれ。主に下記のようなものが挙げられるのではないでしょうか。

  1. プロジェクトを開くたびに曲の流れ(演奏の流れ)を止めてしまう
  2. ライブごとに2ミックスを作り直す手間がかかる(バウンス待ちの瞑想(めいそう)タイム)
  3. ライブ用プロジェクト作成のたびにパラアウト出力先のアサイン設定が必要
  4. ライブ用プロジェクト作成のたびに曲間の調整が必要
  5. 曲間をクロスフェードで重ねたい

 これらの悩みは、DPであれば一気に解決します! DPで制作したプロジェクトはもちろん、ほかのDAWで作った楽曲でも一度DPのプロジェクトに取り込んでおけば、ライブのたびにパラアウトを一から設定する必要もなく、ライブごとにセットリストを変更することも簡単です。

 では実践です。まず下準備として、トラックごとにオーディオ・データへ変換した楽曲のプロジェクトを用意します。

筆者が作成したライブで使用するプロジェクト画面。各パートは、クリックなどのガイド、ドラム、シンセとグループ分けされている。赤枠のアウトプットは、オーディオ出力先の“OUT 3-4”のほか、MIDI信号の出力先は“DP アウトプット-1”となっている。出力先の名称を自分で設定しておくことで、別のプロジェクトを扱う際にも把握しやすい

筆者が作成したライブで使用するプロジェクト画面。各パートは、クリックなどのガイド、ドラム、シンセとグループ分けされている。赤枠のアウトプットは、オーディオ出力先の“OUT 3-4”のほか、MIDI信号の出力先は“DP アウトプット-1”となっている。出力先の名称を自分で設定しておくことで、別のプロジェクトを扱う際にも把握しやすい

 ハードウェアにMIDI信号を送る際は、MIDIトラックも準備しましょう。DP以外で制作したデータを使う場合は、トラックごとにバウンスしたオーディオ・データをDPのプロジェクトに並べます。その際にテンポ情報とマーカーの設定も忘れないようにしましょう。並べ終わったら、トラックごとにアウトプットを設定します。アウトプット名はライブ用プロジェクトで共通の名称を設定しておくと、アウトプットを設定する際に便利です。作業を終えたらプロジェクトを保存します。

楽曲のプロジェクト=チャンクを1つのプロジェクトに並べていく

 DPで作成したプロジェクトは、“チャンク”として扱うことができます。チャンクを例えるならば、“いろいろなものを詰め込んだ一つの箱”とでも言いましょうか、クリップの“楽曲丸々一つバージョン”といったところです。MIDIもオーディオもBPMも楽曲の構成(変拍子でさえも!)も、すべて格納できます。音にまつわる部分だけでなく、さまざまな設定も保持したまま、新たなプロジェクトに読み込める。つまりライブ・セットを作るなら、プロジェクトにチャンクを読み込んで並べてしまえば済んでしまうというわけです。

 チャンクは一見難しく思われるかもしれませんが、慣れてしまえば使い方は至ってシンプル。新規プロジェクトを作成し、“ファイル”メニューから“読み込み...”を選択。

画面上部にあるタブの“ファイル”から“読み込み...”を選択。これまでに作成したDPのプロジェクトから読み込むファイルを選択できる

画面上部にあるタブの“ファイル”から“読み込み...”を選択。これまでに作成したDPのプロジェクトから読み込むファイルを選択できる

 プロジェクトを選ぶと“読み込み”の画面が表示されます。

プロジェクトを選択した後に表示される“読み込み”画面。作成するチャンクの項目を細かく設定することもできるが、基本的にはチェックを入れなくてもよい

プロジェクトを選択した後に表示される“読み込み”画面。作成するチャンクの項目を細かく設定することもできるが、基本的にはチェックを入れなくてもよい

 基本的にチェック・ボックスは何も付けず、元のサウンドバイトのみ読み込むように設定したまま“OK”を押せば読み込み完了。チャンクウインドウの中に、読み込んだ楽曲のプロジェクト=チャンクが表示されます。この作業を繰り返していくことで、ライブで演奏する予定の楽曲をセットリストのように並べていくことができるのです。

チャンクウインドウに楽曲のプロジェクト=チャンクを並べた状態。赤枠の“プレイ”にある▷ボタンを押すと、各チャンクを手動で再生できる

チャンクウインドウに楽曲のプロジェクト=チャンクを並べた状態。赤枠の“プレイ”にある▷ボタンを押すと、各チャンクを手動で再生できる

キュー設定や連続再生、曲中での切り替えにも対応

 さらに、チャンクの再生方法についても細かく管理できます。チャンクウインドウの左上のボタンから、“チャンク(=楽曲)が終了したら、次のチャンクを頭出しして停止”や“チャンクが終了したら次のチャンクを連続で再生”といった設定が可能です。

チャンクウインドウの左上(赤枠)には、4つのボタンを用意。左から、前のチャンクに移動、次のチャンクに移動、再生が終了したら次のチャンクの先頭で待機状態にする“チャンクキュー”、連続してチャンクを再生する“チャンクチェイン”となる

チャンクウインドウの左上(赤枠)には、4つのボタンを用意。左から、前のチャンクに移動、次のチャンクに移動、再生が終了したら次のチャンクの先頭で待機状態にする“チャンクキュー”、連続してチャンクを再生する“チャンクチェイン”となる

 再生する順番は上から下へ流れるプレイリスト式で、ウインドウ上でドラッグ&ドロップすれば簡単に変更できます。この手軽さがチャンクをライブで重宝する部分。各曲の流れも把握でき、演奏する曲を決める際に大きく役立ちます。それぞれの楽曲のスタート/ストップ・ポイントも手動で変更できるので、“曲の途中で次の曲に切り替える”というテクニックも可能です。

チャンクを選択して右クリックすると表示される“オート/マニュアルエンドタイム”(赤枠)は、チャンクの終了する小節を、自動または手動で切り替えられる機能。3列目のチャンクのエンドタイムが太字になっており、これは手動設定になっていることを表している。楽曲の途中で次のチャンクに切り替えるような演出を行う際に便利な機能だ

チャンクを選択して右クリックすると表示される“オート/マニュアルエンドタイム”(赤枠)は、チャンクの終了する小節を、自動または手動で切り替えられる機能。3列目のチャンクのエンドタイムが太字になっており、これは手動設定になっていることを表している。楽曲の途中で次のチャンクに切り替えるような演出を行う際に便利な機能だ

 チャンクを使えば、ライブ・ハウスから大掛かりなホール・ライブまで、飛躍的なレベルでスムーズに、トラックを効率よく管理できます。ほかのDAWで制作している方も、これからマニピュレーターを担当するという方も、ライブを行う予定があるならば、絶対にDPでライブ・セットを構築するべき!ということを断言いたします。

 次回はチャンク機能をさらに深く掘り進めた“ソング機能”の紹介いたします。これさえあれば楽曲間を奇麗にクロスフェードする、なんてテクニックも簡単に実現。ライブ時の演出を途切れることなく、DJミックスのようにシームレスな再生が可能になります。ぜひご参考にしてくださいませ。

 

藤戸じゅにあ

【Profile】1990年代からライブ・シーンにDTMを持ち込んだ草分けの一人として、バンド・サウンドに電子音楽を融合させた音楽スタイルの先駆者として活動。2008年にキングレコードからメジャー・デビュー。2018年リリース作品はiTunesオルタナ・チャートで1位を獲得。自身の活動と並行して坂本美雨、緒方恵美、寺島拓篤、羽多野渉など多くの楽曲提供を担当。近年はプラネタリウムの音楽/音響監督やプロデュース、ライブ・コンサルタントと活動の幅を広げている。

【Recent work】

『ストライク・リビルド【ダウナー】』
ジェッジジョンソン
(ベルウッド)

 

MOTU Digital Performer

オープン・プライス

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LINE UP
Digital Performer 11(通常版):60,500円前後
*オープン・プライス(記載は市場予想価格)

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS X 10.13以降
▪Windows:Windows 10(16ビット)
▪共通:INTEL Core I3または同等のマルチプロセッサー(AMD、Apple Siliconを含むマルチコア・プロセッサーを推奨)、1,024×768のディスプレイ解像度(1,280×1,024以上を推奨)、4GB以上のRAM(8GB以上を推奨)

製品情報

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