④飛澤正人がWAVESプラグインでミックス!

僕は1998年にAVID Pro Toolsシステムをそろえたのですが、それと同じタイミングでWAVESのPlatinum Bundleを手に入れました。ですから、僕にとってWAVESのプラグインはDAWと切っても切り離せない存在。特にQ10などのプラグインEQは初期から信頼しており、Pro Toolsのミキサーがまっさらなコンソールだとしたら、そこにどんなプラグインを挿していくかで自分なりのコンソールを作るというイメージで、ワクワクしながら作業していましたね。現在でもRenaissance Equalizerはほぼすべてのトラックに立ち上げており、僕にとっての“デフォルトEQ”と言えます。今回の素材はiNtElogiQという大阪のポップ・ロック・バンドのもので、ほかのエンジニアが録ったマルチ素材を僕がWAVESプラグインのみでミックスしました。ドラム/ベース/ギター/ボーカルと編成がシンプルなので、まず個々の役割がしっかり見えるよう処理した上で、バンドならではの“勢い”“まとまり感”が出るようにしました。具体的には、キック&ベースの関係性で心地よい低域が得られたり、ドラムの勢いや骨太なニュアンスがあった上で、ギターがボーカルのサポートをするような雰囲気、すべてがクッキリと聴こえながら、ボーカルが沈み過ぎない音像を心掛けました。完成形では“ボーカルがオケに埋まってはいるが、埋もれてはいない”という微妙な案配に注意して聴いてほしいです。ボーカルが前に出過ぎるとロック・バンドとしてはカッコ悪くなるので、そのバランスには常に気を遣います。iNtElogiQ(インテロジック)

ギターと作曲を手掛ける森本隆寛を中心に、4ピースのシンプルな編成からは想像もつかないエッジの効いたサウンドを生み出すロック・バンド。“次世代の王道”を目指し、桐原誓弘(vo)の透き通ったハイトーン・ボイスが唯一無二の世界へと誘う ギターと作曲を手掛ける森本隆寛を中心に、4ピースのシンプルな編成からは想像もつかないエッジの効いたサウンドを生み出すロック・バンド。“次世代の王道”を目指し、桐原誓弘(vo)の透き通ったハイトーン・ボイスが唯一無二の世界へと誘う
 

キック


Renaissance Equalizerで不要な帯域をカットし音圧を上げるスクリーンショット 2015-11-10 19.55.37キックは中に突っ込んだオンマイク1本だけだったので、アタックはあるものの低音が少なめに感じました。なので、まず独特の膨らんだQカーブを持つPuigTec EQP-1で60Hzをガツンと持ち上げました。このまま不要な周波数帯域をカットしても良いのですが、PuigTec EQP-1ではポイントを設定できないので、後段にRenaisance Equalizerを挟んで細かくカットしています。まず“ポンポン”した144Hz近辺がベースとぶつかっていたので、そこを少し切ることでベースとのすみ分けを図りました。続く300Hz周辺はスネアが被ってくる帯域で、オケ全体で考えると不要なのでガツッと切ってしまいます。これらの処理で低域の量感が減るので、75Hz近辺を持ち上げてバランスを取った上で、2kHzと5kHzを上げ、皮鳴りの“ペチッ”とした音色を強調しています。キックは低域の量感だけでなく、この帯域が出ていないとオケ中で聴こえなくなってしまうんですよ。Renaissance Equalizerは素直に狙った周波数帯域をカットでき、僕の中では卓のEQに近い操作感です。数値を見ながら細かく切れますし、それが実際の音の変化とも一致するので使いやすい。高域を持ち上げるとそのすぐ下の帯域が下がったり、回りの帯域に影響しながらブースト/カットする雰囲気もアナログEQ的だと思います。こうしてEQで形を整えたら、Renaissance Compressorで音圧を上げます。この際アタック・タイムを速くし過ぎるとせっかく強調したアタックが損なわれてしまうので、“64.8”と遅めに設定。Modeは動作がアバウトになる“Opto”を選択します。ARCはリリースが戻る前にアタックが来た場合に後者を優先してくれる機能で、僕はRenaissance Compressorを使う場合は必ずオンにするようにしています。Warm/Smoothは音を聴いたニュアンスで“Warm”を選択。レシオは3.2:1とあまり強くしていません。以上の処理を施したキックは、スネアなどとともにPuligChild 670が立ち上がったドラム・バスに送ってまとめています。 

カッティング・ギター


Trans-Xでトランジェントを持ち上げて切れを良くするスクリーンショット 2015-11-10 19.55.58Aメロのカッティング・ギターは、良い音で録れているのですがやや曇った感じで、僕としてはもっとカチカチ前に出したいと思いました。そのような場合はアタック成分だけを強調できるTrans-Xが便利です。“Sens”の数値を上げることで、狙った周波数帯域の音が入ってきた際にカッと音量を持ち上げられます。どれくらい強調するかは“Range”の値で決定します。今回は3.7kHz辺りを狙い、Sensは最大の“10.0”に設定しました。“カチカチ”した音色やその下の“コツコツ”いうピッキングの音も持ち上げて、カッティング・ギターのおいしい部分を強調する狙いです。その後段ではRenaissance Equalizerで92Hzや8kHzなどの低域/高域を2〜5dBほど持ち上げて、オケ中の存在感を増しています。この曲のAメロは、リズム隊のほかはカッティング・ギターとボーカルだけなので、この2つが心地良く絡んでいないとサウンドとしてカッコ良くないんです。なので、カッティング・ギターが最大限良い音に聴こえるよう処理します。くぐもった録り音を、EQで一皮むくようなイメージでしょうか。さらにその後段にV-Compをインサートしてアタック感/音圧感を増しています。設定としてはアタックをつぶしてカッティングの“粒”を出す狙いで、リリースは“AUTO”で速めに戻るようにしていますし、レシオも4:1とオーソドックス。V-CompはNEVE 2254のモデリングですが、音色や振る舞いはUNIVERSAL AUDIO 1176LNで粒をそろえるイメージに近いです。さらに今回はRenaissance Bassを通しました。先述したようにAメロはボーカルとカッティング・ギターだけなので、ギターが抜け過ぎていると歌との一体感が出ないんですよ。ギター自体は上の方で鳴っているので、低域の倍音を足すことで音像をベースに寄せ、バンドらしいまとまり感を出す狙いです。普段、ギターにかけることはまずないプラグインですが、今回はDUY DaD Valveの代わりのような感覚で使ってみました。 

ボーカル


Renaissance VoxとC1のコンプ2段がけで音圧とアタックを両立


スクリーンショット 2015-11-10 19.56.22 ボーカルも良く録れていたのですが、さらに抜けを良くするために、まずRenaissance Equalizerで2.7/6/11kHzをそれぞれ4dBほど持ち上げました。6/11kHzの高域と同時に2.7kHzを持ち上げることで、パートとしての存在感が増します。そうして抜けを良くした上で、ボーカル用のプラグイン・コンプRenaissance Voxで高域をなじませつつ、歌を前に出します。このプラグインが良いのは、歌のニュアンスを損なわずにパワー感を出せるところ。今回も“Comp”は“−15.1”と深めですが、サンプルからも歌の表情が残っていることが分かると思います。ボーカルをコンプでつぶすことで勢いが出ますが、同時に音の立ち上がりが削れてしまいます。そこで僕はさらにキャラクターの異なるコンプのC1をかけて滑舌を取り戻しています。この際のポイントはレシオを“2.01:1”と上げ過ぎないこと。これでスレッショルドを深めにかけても、歌のニュアンスが残るんです。さらにスレッショルドを深くすると、ブレスがより強調されます。まずどれくらいつぶすかを決めて、プラグインをオン/オフしながらリカバリー量を決めていくといいでしょう。アタック・タイムも、まずスレッショルドを深めにガツッとかけた上で調整するとニュアンスを決め込みやすいです。一般的にはアタック・タイムを遅くすると元音のアタックが出てきますが、ここでの目的は滑舌を良くすることなので、あまり遅過ぎても雰囲気が出ません。今回は曲のスピード感に沿って調整していったところ、“15ms”くらいが良い案配でした。一方のリリース・タイムも速めにして切れの良さを演出。これらの処理で、歌が曲に混ざった際の存在感が随分変わります。僕はこれだけの処理を行った上で、ボリューム・オートメーションを書いて歌のニュアンスを取り戻しています。コンプをかけるとどうしても音像が平坦になりがちですから、時間をかけて細かくボリュームを書き、オケ中でボーカルを生き返らせるようにしています。 関連リンク:メディア・インテグレーション WAVESプラグインで学ぶ「プロのミックス・テクニック」
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