⑤檜谷瞬六がWAVESプラグインでミックス!

WAVESプラグインは“今さら無いと困ります”というくらい、普段のミキシングで使っています。モデリングのCLA-76やSSL E-Channelなどはよく使いますし、リミッターのL2やマルチバンド・コンプのC4、ステレオ・エンハンサーのCenterも登場機会が多いですね。以前のスタジオでは、コンピューターに入っているプラグイン・エフェクトはPro Tools付属のものとWAVESだけというケースも多かったですし、互換性という意味でもWAVESはスタンダードな印象が強いです。“共通言語として持っておこうよ”という感じでしょうか。


今回の楽曲は、女性シンガーのNeoが作詞作曲したものです。元はピアノ+ボーカルで演奏していた曲なのですが、僕が構成を練った上で、アレンジを本間将人さんにお願いしました。本間さんがしっかりしたデモを作ってくれたので、まずボーカルの本テイクを録った上で、Studio Dedeで打ち込みを生演奏に差し替えていきました。パーソネルは本間将人(sax、prog)、能村亮平(ds)、SOKUSAI(b)、園田涼(electric piano)、宮本憲(g)、鹿討奏(tb)。レコーダーはDedeのAVID Pro Tools 11でAD/DAコンバーターはAPOGEE Symphony I/O。32ビット/88.2kHzで録音しています。結果的にすべての素材を自分で録ったので、ある程度の音は出来上がっています。結果的にミキシングのアプローチも“極めて正統的”と言うか、無理にプラグインで修正するようなことはなく、生楽器の良さを生かしながら微調整を加えていったという感じでしょうか。Neo+本間将人

ジャズ/ネオソウル色濃いボーカル・スタイルで東京/大阪のライブ・ハウスを中心に活躍するNeo。今回の楽曲はJAM companyのリーダーも務めるサックス・プレイヤー/アレンジャーの本間将人が編曲を担当している ジャズ/ネオソウル色濃いボーカル・スタイルで東京/大阪のライブ・ハウスを中心に活躍するNeo。今回の楽曲はJAM companyのリーダーも務めるサックス・プレイヤー/アレンジャーの本間将人が編曲を担当している
 

ベース


Bass RiderとeMo D5 Dynamicsで安定感を出すスクリーンショット 2015-11-10 19.56.59ベースは、僕が持っている真空管のA-DESIGNS AUDIO RedDIを通したテイクを元にしています。これをStudio DedeのコンソールNEVE 5315に立ち上げた後、GATES SA-39を薄くかけて録りました。WAVESプラグインのチェインですが、まずH-EQで26Hz/66Hz辺りの“ブウーン”と膨らんでいる低域を削ります。単体で聴いているとあまり気にならない帯域ですが、オケ全体を出すとマスキングの元になりかねないんですよ。これで演奏のダイナミクスが出てきます。次にBass Riderを入れます。これはフェーダー・オートメーションを自動的に書いてくれるプラグインで、コンプとは違ったニュアンスで音をならしてくれます。演奏のダイナミクスの良い雰囲気を残しつつ、音量を上げなくても、オケ中でのラインが見えてくるような感じでしょうか。“Range”で音量変化の幅を決めますが、今回は演奏が安定していたので、設定としては狭めです。その後段にオプト・コンプをモデリングしたCLA-3を立ち上げて、演奏のダイナミクスを強調しています。ここまででベース単体としては良い感じですが、それでもオケ中だとまだ聴こえやすい音と聴こえにくい音が出てきます。それで、eMo D5 Dynamicsでその差を埋める処理を施しています。“DI Bass”のプリセットの感触が良かったので、それを元にエディット。OUTPUTの“COMP MIX”を調整してパラレル・コンプレッション状態にします。これで聴こえはあまり変えずに全体のレベルをフラットにしてくれます。こで楽器を出してみたところ、少しベースの重心が低く、重く感じたので、Scheps 73のEQで12kHzを大きく、200/700Hzを少し持ち上げました。さらに 128Hz辺りに時折“ブオーン”と膨らんで聴こえる部分があったので、C4を使って抑えつつ、バランスを保つためにほかの帯域も少し処理しました。これで、元の演奏のニュアンスを自然に残しつつ、オケ中でも安定してラインが見えるベースにしています。 

ボーカル(インサート)


H-EQで不要な帯域を削りPuigTec EQP-1で存在感を出すスクリーンショット 2015-11-10 19.57.20NeoのボーカルはTAKUYAさんのスタジオ「54it」でレコーディングしました。マイクはTELEFUNKEN Ela M 250でマイクプリはNEVE 1067、コンプレッサーはTELETRONIX LA-2を薄くかけ録りしており、自然で状態の良い録り音が得られています。僕は普段、ボーカルはインサートとセンドでエフェクト処理しています。ここではインサートしたWAVESプラグイン・エフェクトのチェインを見ていきましょう。まずH-EQで録り音の不要な帯域をカットしました。ハイパス・フィルターで66Hz以下を切っていますが、ただ切るだけでは低域のニュアンスが損なわれてしまうので、すぐ上の帯域の161Hzをシェルビングで持ち上げてつじつまを合わせています。H-EQは鍵盤のインターフェースが分かりやすいですし、しっかりと狙った周波数帯域を処理できます。その後はベースと同様、ボーカル・オートメーションを自動的に書いてくれるVocal RiderCLA-2Aでレベルをならし、安定感を出した上で、明るさとオケ中での存在感を高めるためにPuigTec EQP-1Aで100Hzと5kHzを大胆にブーストしました。さらにピークを処理してオケ中での立ち位置を定めるためにRenaissance Voxの“Comp”を“−7.6dB”に設定してかけました。これでボーカルの存在感が安定しますが、音量が大きくなることで中高域のピークに気になるところが出てきたので、4段目にDeEsserを追加し、フリケンシーを“4,662Hz”に設定して当該の周波数帯域を抑えています。さらに、音量をあまり上げずにオケ中での存在感を増すテクニックとして、AUXセンドで2つのバスに送り、それぞれAphex Vintage Aural ExciterEMI TG12345 Channel Stripをかけた音色を少しだけ付加します。TG12345 Channel Stripは強めにリミッティングしつつ2.8kHz辺りをEQで持ち上げています。単体で聴くとややノイジーですが、これが薄く足されることで歌の存在感がグッと増します。 

ボーカル(センド)


5系統のAUXセンドでボーカルの空間を作るスクリーンショット 2015-11-10 19.57.35ボーカルはインサート・エフェクトでダイナミクスなどを整えた後、リバーブやディレイに送って空間を付けていきます。その際僕はAUXトラックを複数作り、少しずつボーカルに表情を付けるようにしています。AUX1に立ち上げたプラグインのチェインですが、まずDeEsserで5kHz辺りを抑えた後、ボーカルにふくよかさを足す狙いでH-Reverbを付けています。ボーカル用のプリセットを編集していますが、H-Reverbは残響の密度が高いので、歌の肉感を出すのに適しています。オケが比較的シンプルで残響が明る過ぎると目立ってしまうので、内蔵フィルターと後段のQ10で高域/低域をカット。AUX2はH-Delayに送っていますが、あえてBPMシンクさせず“165ms”に設定しました。続くAUX3にもH-Delayを立ち上げていますが、これはボーカルの“面”を出す狙い。なので、ディレイ・タイムを16分音符と細かめに設定し、“PING PONG”をオンにして残響音をL/Rに振りました。また、ここでも内蔵フィルターで高域を丸めています。後段にはMS的な処理ができるCenterを挿してセンター成分をキャンセルしつつサイド成分を持ち上げ、“面”のニュアンスを強調。最後にDoublerをかけて立体感を出しています。AUX4にもDoublerを立ち上げてステレオ感を強調していますが、送りの量はわずかなもの。ここでも後段のQ10で62Hz以下をカットしています。Q10はスパッと切れるキャラクターなので、ローカットなどの用途に多用しています。さらにオケ中ではもう少し広がりが欲しいと感じたのと、歌のリズム感を強調する狙いも含めて5本目のAUXトラックを作り、SuperTapでテンポ・ディレイを足しました。ラフに手打ちでテンポ入力した際のニュアンスが気に入っています。ここでも後段にCenterを立ち上げてサイドの成分を強調しています。それぞれの音色変化は大きくありませんが、こうした処理を積み重ねることで、自然に広がるボーカルを演出できます。サンプルで効果を確認してみてください。 関連リンク:メディア・インテグレーション  WAVESプラグインで学ぶ「プロのミックス・テクニック」
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