③SUIがWAVESプラグインでミックス!

WAVESのプラグインは、僕がまだビート・メイクしかやっていなかったころにGold Bundleを購入して、AVID Pro Tools|HDを購入したのと同じタイミングでPlatinum Bundleにアップグレードし、以降は気に入ったプラグインを単品で買い足しています。当時はほかに“使える”プラグイン・エフェクトはありませんでしたし、Renaissance Equalizerなどは依然としてよく使っています。最近のミキシングではScheps 73やPuigchild 670、CLA-76などのモデリング・プラグインを多用しています。シンプルにサウンドの質感が良く、実機には無いパラメーターも備えており、エンジニア的にコントロールしやすいところが気に入っています。


今回のサンプル音源を提供してくれたunderslowjamsは1MC+1シンガー+トラック・メイカーという構成のバンドで、制作には僕も携わっています。僕は普段、ミキシングにあたって“やるべきことをやる”場合と“やりたいことをやる”ときで考え方を切り替えるようにしているのですが、今回は自分のアイディアを曲に盛り込むことを重視しました。具体的には、通常はオケを広げた上でボーカルを乗せるところを、今回は歌を広げた上でオケはドライにしています。また設定の異なるリバーブを細かくインサートしており、各楽器が異なる空間で鳴っているような雰囲気を演出しました。“バンド”とうたってはいますが、昨今のフューチャー系に通じる音響的なニュアンスを盛り込みたかったんです。もちろん使っているプラグイン・エフェクトはWAVESのみです。underslowjams

rag(rap、sampler)、yoshiro(vo、sampler)、take-c(prog、ds)とプロデュースを担当するSUIからなるオルタナティブ・ヒップホップ・バンド。現在、耳当たりの良いバンド・サウンド的アプローチを採った3作目となるアルバムを準備中 rag(rap、sampler)、yoshiro(vo、sampler)、take-c(prog、ds)とプロデュースを担当するSUIからなるオルタナティブ・ヒップホップ・バンド。現在、耳当たりの良いバンド・サウンド的アプローチを採った3作目となるアルバムを準備中
 

ラップ


C4で“吹かれ”をならした上でScheps 73で抜けさせる


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バンドにはシンガーとラッパーがいますが、シンガーの歌はNEUMANN U87を使うなど、正統的なチェインを組んで録りました。対するラップは、無骨さを出すためにあえてSHURE SM58を手持ちし、オーディオI/Oに直挿しして録っています。SM58を手持ちで録ると、当然ですが低域が“ボスボス”と吹かれます。なので、まずマルチバンド・コンプのC4でその低域を処理しました。スレッショルドは特に深くないですが、C4はアタック/リリース・タイムの設定で音色が大きく変わるので、まず各バンドのゲインをざっくり決めた上で、耳で聴きながらニュアンスを調整していきました。これでダイナミック・マイクならではの熱さを残しつつ、“ピ”などの音で吹かれている400Hzから下の低域を抑えています。これで“普通に録った状態”に近付いたので、次はモデリング・プラグイン・コンプのCLA-76をかけて迫力を強調します。リリース・タイムは最速に設定しますが、ラップの場合はこの方がキレが出て前に出やすいでしょう。CLA-76は音にパンチがありつつ、深くかければノイジーにもできたりと、音作りの幅が広いところが気に入っています。ラップはツバを飛ばすような雰囲気が感じられてナンボですから、そうしたニュアンスを出したい場合は特に有効なプラグインと言えるでしょう。エンジニアのデイヴ・ダーリントンを仕事をした際に教えてもらって以来、個人的にNEVE 1073でボーカルの高域を持ち上げる手法が、音の質感が良く気に入っています。今回はそのシミュレーションとして最終段でScheps 73を使いました。あまたある1073モデリングの中でも、Scheps 73はイン/アウトのゲインが付いており、実機よりもコントロールできる幅が広いところが気に入っています。このEQを使うと、澄んだ高域というよりも太さを残しつつ抜けてくるんですよ。このように処理したラップは歌とともにAUXに送ってDBX 160などをかけた上でさらにH-Reverbに送り、通常ではあり得ないくらい長いリバーブを付けています。 

キック(サンプル)


eMo D5 Dynamicでアタックを出しJ37 Tapeで倍音を足す


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キックは、いわゆるROLAND TR-808的な鳴りの手持ちのサンプルです。この曲ではほかにサイン波のベースが鳴っているので、キックは奇麗で耳に痛くない、アタック重視の音作りをしようと考え、新製品のeMo D5 Dynamicsのコンプレッサー部を使ってみました。まずスレッショルドを“−21.1”と深めに設定した上で、サイン波ベースとの兼ね合いを考慮し、トータル・レベルで問題が起こらないようにアタック・タイムを調整していった結果、“7.00”とやや速めの設定となりました。ここでは“キックのアタックを出しつつ、ほかの楽器を邪魔しない”という微妙なバランスが求められるのですが、eMo D5 Dynamicsのサウンドはとても高精細で、アタック・タイムの操作による音の変化が感じやすく、耳で聴きながら数値で追い込むことができました。動画で言うところの、フレーム数が増えたような感覚でしたね。このコンプの後段にテープ・シミュレーターを入れることで、さらにキックのアタックが出てきます。周波数レンジがナローになっておいしい帯域だけが残るイメージで、結果的に余分なローエンドも削れるので、音像が引き締まるというメリットもあります。J37 Tapeはアビイ・ロード・スタジオのテープ・マシンをモデリングしたプラグインですが、インプット/アウトプットのゲインが調整できますし、ひずみや倍音を付加するだけでなく、EQ的にも使えるところが気に入っています。パラメーターでは“MODELED TRACKS”の選択によってサウンドが変化しますが、今回のように“引き締める”方向で使う場合はテープ・スピードを遅めの“7.5ips”に設定すると良いでしょう。なお、サチュレーションの量はほかのパートとの兼ね合いで微調整しています。最終段にはAPI 550Bを立ち上げ、5/10kHzをそれぞれ4dBずつ持ち上げました。このプラグインは、ゲインを上げるほどQ幅が狭まる実機の”プロポーショナルQ”をモデリングしており、特にブースト方向の処理では音にパンチが出て重宝するEQです。 

エレキギター


GTR DriveでひずませてMondModをトレモロとして使う


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エレキギターはラップと同様、オーディオI/Oに直差ししてクリーン・トーンで録っています。なので、まずギター・アンプ・シミュレーターのGTR Driveで少しひずませました。GTRはスピーカーで音像の広がりを調整できるところが気に入っています。“PAN”と“DELAY”を操作すれば、コーラスなどのプラグインを別途挿さなくても、いかにもエレキギターをアンプで録ったような雰囲気を作れるんですよ。インターフェースはシンプルですが、エフェクトの働きさえ分かっていれば、エンジニア的においしいポイントがある。これはWAVESのプラグイン全体に言える特徴だと思います。だから僕は、WAVESのプラグインを使う際は一度マニュアルを読むことをお勧めします。細かなパラメーターの働きを知ることで、世界がグッと広がりますから。GTR Driveで基本的な音色を作ったら、Renaissance Equalizerで157Hz辺りの不要な周波数帯域をQを広めにして削り、音像を整えました。古くからあるプラグインですが、ゲインを大きく変化させてもノイズが乗りにくいですし、動作が軽いところも気に入っています。さらにその後段ではCLA-76をアタック・タイムを速めにしてかけており、弦がピックに当たっている音のピークを抑えています。僕はこのところ、ループ主体のトラックをミックスする際に、トレモロをいろいろなパートに挿すようにしています。打ち込みの楽曲で問題になるのは、どうしても画一的になってしまうところ。逆に生演奏は減衰のニュアンスが良かったりしますよね。そう考えていったときに、“ボリュームが揺れていることが大事だ”と気付いたんです。以来、エレピやギターには必ずと言っていいほどトレモロを挿しています。その際はBPMシンクさせるのではなく、揺れる周期を自分の感覚で調整するのがポイント。MondoModはオート・パン的に使用している方も多いかと思いますが、左右の動きをキャンセルしてAM Depthを調整すれば、トレモロ的に使えます。 関連リンク:メディア・インテグレーション WAVESプラグインで学ぶ「プロのミックス・テクニック」
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