②進化するWAVESオリジナル・プラグイン

WAVESはユニークなモデリング・プラグインをリリースする一方で、本道とも言えるオリジナル・プラグインにおいても意欲的な製品を発表している。H-Reverbを見ても分かるように、それらは機能面でも音質面においても、昨今の音楽的トレンドやDAWの進化に沿ったクオリティを備えたものだ。ここではその中からeMo D5 DynamicsとCobalt Saphiraの2機種をピックアップし、引き続きオレシュ氏に話を聞いている。 

ダイナミクスにまつわるすべてを一括して制御するeMo D5 Dynamics


 eMo D5 Dynamicsは、ゲート/レベラー/ディエッサー/コンプレッサー/リミッターという5つのダイナミクス・プロセッサーを統合したプラグイン。オレシュ氏は「これらのすべてを使い勝手の良いインターフェースを通して総合的に操作できるようにした点が、大きな特徴と言えます」と語る。「これらのプロセッサーは“Parallel Detection”という新開発の技術で連動しています。これは5基のダイナミクス・プロセッサーそれぞれを入力信号に反応させると同時に、それぞれのプロセッサーによって処理された信号にも反応させるようにしたものです。これにより、個々のプロセッサーによる変化を統合した全体のダイナミクスを瞬時にコントロールできるようになるだけでなく、オーバー・コンプレッションを防ぎ、最大限クリアなサウンドが得られるようになります」
▲eMo D5 Dynamicsで採用されている“Parallel Detection”の信号の流れを図式化したもの。5つのプロセッサーそれぞれが、オリジナルのオーディオ信号およびほかのプロセッシング中のシグナルに対して同時に反応することで、サウンドの明りょうさを残しつつオーバー・コンプレッションを回避できるという ▲eMo D5 Dynamicsで採用されている“Parallel Detection”の信号の流れを図式化したもの。5つのプロセッサーそれぞれが、オリジナルのオーディオ信号およびほかのプロセッシング中のシグナルに対して同時に反応することで、サウンドの明りょうさを残しつつオーバー・コンプレッションを回避できるという
オレシュ氏は「eMo D5 Dynamicsにはレベル・モニターとコントロールのしやすさを考慮し、レベラー/コンプレッサー/リミッターを統合したゲイン・リダクション・メーターを採用しています」と続ける。「例えるなら、ダイナミクスにおける“万能ナイフ”的な存在と言えるでしょう。1画面でダイナミクスに関するすべてのセッティングを詰めることができ、バランスの取れたミックスを効率良く作ることが可能になります。また、複数のダイナミクス系プラグインの画面を必要に応じて開く手間も省けるため、作業時間の短縮にもつながるでしょう。ゼロ・レイテンシーであることやCPU負担の低さ、サウンド・クオリティの高さを踏まえると、スタジオでの作業だけでなく、PAエンジニアにも薦められるプラグインかと思います」 

ハーモニック・ディストーションを操り音のつながりを生むCobalt Saphira


 一方のCobalt Saphiraは、ハーモニック・ディストーションをコントロールするプラグイン。オレシュ氏はその機能について「アナログ機材特有の濃厚なハーモニクスを生成することでトラックに音楽的な奥行きと“つながり”を加えられます」と語る。「WAVESでは、コンプレッションのメリットを伝える表現として“つながり(glue)”という言葉をよく使います。優れたコンプレッサーによって得られる“つながり”の効果は、往々にして付加されたハーモニクスに拠るところが大きいと考えています。Cobalt Saphiraはサウンドをコンプレスすることなくハーモニクスをダイレクトにコントロールできるようにしたツールで、トラック間の“つながり”を高め、結果としてより音楽的に優れたミックスを仕上げるのに役立つプラグインです」
▲Cobalt Saphiraは4バンドのEQを搭載し、偶数(Edge)/奇数(Warmth)の各倍音ごとに周波数成分をコントロールできる ▲Cobalt Saphiraは4バンドのEQを搭載し、偶数(Edge)/奇数(Warmth)の各倍音ごとに周波数成分をコントロールできる
パラメーターとしては偶数/奇数倍音を独立して操作できる“Edge/Warmth”のほか、「ワウやフラッターといったテープ特有のモジュレーション効果を加え、サウンドをより深みのあるものにする5タイプのテープ・スピードとデプス調整を備えます」と説明する。「総じて言えば、Cobalt Saphiraはユーザーが頭に描くイメージ通りのハーモニクス操作を実現し、サウンドの向上に寄与するプラグインです。絵画に例えるなら、アナログ・サウンドの“パレット”のような存在で、グループ・ミックスの音像を調整したり、マスタリングにも威力を発揮すると思います」オレシュ氏はWAVESプラグインについて、「弊社は音響心理学のノウハウに長けており、“音の感じ方”も考慮に入れた独自のアルゴリズムを用いてプラグインを開発している点がユニークだと思います」と語る。「発売間近の新製品としては、Sub Alignを紹介したいと思います。これは正確に調整されていないPAシステムにおけるトップとサブスピーカーのアライメントをソフトウェア的に調整するプラグインで、どのようなライブ会場でもこれまでよりはるかにクリアかつパンチあるサウンドを鳴らすことができるようになります。あらゆるPAエンジニアにとって必須の“サバイバル・ツール”になると自負しています!」
▲近日リリース予定のSub Align(価格未定)。PAを視野に入れた新しいジャンルのプラグインで、ライブ会場において問題になりがちなトップ・スピーカーとサブスピーカーのアライメントの不完全さを、各ユニットのレイテンシーを調整することで解消する ▲近日リリース予定のSub Align(価格未定)。PAを視野に入れた新しいジャンルのプラグインで、ライブ会場において問題になりがちなトップ・スピーカーとサブスピーカーのアライメントの不完全さを、各ユニットのレイテンシーを調整することで解消する
関連リンク:メディア・インテグレーション WAVESプラグインで学ぶ「プロのミックス・テクニック」
①WAVESモデリング・プラグインの実力を探る
③SUIがWAVESプラグインでミックス!
④飛澤正人がWAVESプラグインでミックス!
⑤檜谷瞬六がWAVESプラグインでミックス!