①WAVESモデリング・プラグインの実力を探る

WAVESはDAWの操作性に沿ったオリジナルのプラグインを開発する一方、SSLやAPIなどのメーカーや、クリス・ロード=アルジ、ジャック・ジョセフ・プイグといったエンジニアとのコラボレーションによるモデリング・プラグインを数多くリリースしてきた。ここでは特集のイントロとして、これらのプラグインの開発理念やモデリングの手法について、WAVESセールス&マーケティング担当のミック・オレシュ氏に聞いている。 

希少なビンテージ機材を10〜36カ月ほどかけてモデリング


 WAVESがビンテージ機材のモデリング・プラグインを開発するようになった経緯についてオレシュ氏は「名機として広く知られてきたハードウェアを、プラグインとして“保存”する狙いがありました」と語る。「WAVESでは、入手し難いビンテージ・モデルだけでなく、往々にしてこの世に1台しか存在しない特定の個体をプラグイン化することも珍しくありません。そうした貴重な機材をソフトウェア化することで、名機の魅力を後世に伝え残すことができると考えたのです」
▲WAVES本社のエントランス。世界中に150人を超える社員を有する ▲WAVES本社のエントランス。世界中に150人を超える社員を有する
モデリングは、メーカーの協力のもとに「10〜36カ月ほどかけて製品化している」という。「最初に行うのは、オリジナル・ハードウェアの特徴を把握するためのテスト録音です。次に、その結果と実機の設計図などを基にプラグインを試作し、サウンドをオリジナル・ハードウェアと比較しながら調整を加えます。音質的に満足できる試作品が出来上がると、ベータ版として希望するユーザーに提供します。フィードバックをさらなる品質向上の材料とするためにも、ベータ・テストは極めて重要なプロセスととらえています」
▲開発ルームの様子。FOCAL CMS40などを用いてプラグインの音色変化を実機と比較しつつ徹底的にチェックするという ▲開発ルームの様子。FOCAL CMS40などを用いてプラグインの音色変化を実機と比較しつつ徹底的にチェックするという
WAVESは特定の機材のモデリングだけでなく、Manny Marroquin Signature SeriesやEddie Kramer Signature Collectionなど、手腕が高く評価されているエンジニアの名を冠したプラグインを製品化してきた。オレシュ氏は「WAVESではそうしたエンジニアのことを“アーティスト”と呼んでいます」と語る。「アーティストが自身のシグネチャー・サウンドを得るために用いているプロセッシング・チェーンやパラメーター設定をエミュレートし、アーティスト特有のサウンドを忠実に再現することに注力しています」 

よりユニークかつ高音質に進化した新しいモデリング・プラグイン


 
Butch Vig Vocals(36,000円):ニルヴァーナ、スマッシング・パンプキンズなどで聴かれるディストーションがかかったボーカル・サウンドを、シンプルな操作で得られる Butch Vig Vocals(36,000円):ニルヴァーナ、スマッシング・パンプキンズなどで聴かれるディストーションがかかったボーカル・サウンドを、シンプルな操作で得られる
そのアーティスト・シリーズの新製品がButch Vig Vocals。ニルヴァーナやスマッシング・パンプキンズを手掛けてきたグラミー受賞プロデューサー=ブッチ・ヴィグとの共同開発により、「音楽的なディストーションがかかった独特のボーカル・サウンドを1つのプラグインで実現する」プラグインだという。「Butch Vig Vocalsはクリエイティブなアプローチでボーカルを整えたいと考える人に向けられたものです。直感的に操作できる3バンドEQ、コンプレッサーとディエッサーのほか、真空管/トランジスター機材特有のサチュレーション効果のコントロール、1〜2kHzの操作に特化した“Focus”ノブなど、サウンドに独自の色を付け、ユーザーにインスピレーションを与える機能が豊富に備えられています。もちろんそれらはすべて、ヴィグ氏が自ら入念に吟味して仕上げたものです」
Scheps 73(24,000円):NEVE 1073をモデルにアンドリュー・シェプス氏と共同開発したプラグインで、オリジナルに搭載されていたMARINAIRトランスも新たな手法を用いてモデリングし直すことで、より精度高く実機を再現しているという Scheps 73(24,000円):NEVE 1073をモデルにアンドリュー・シェプス氏と共同開発したプラグインで、オリジナルに搭載されていたMARINAIRトランスも新たな手法を用いてモデリングし直すことで、より精度高く実機を再現しているという
同じく新製品のScheps 73は、名機NEVE 1073を基に、アデルやジェイ・Zなどを手掛けてきたミキシング・エンジニア=アンドリュー・シェプス氏とのコラボレーションで生まれたプラグイン。そのポイントをオレシュ氏は「1073系プラグインでは初となるミッド・レンジEQの搭載でしょう」と解説する。「それほど知られていない事実ですが、1073のオリジナル設計図には、このミッド・レンジEQがあったのです。実装はレアなチャンネル・ストリップの1078に限られていたのですが、今回Scheps 73の開発にあたってはこの1078をモデリングしたため、ミッド・レンジのEQも搭載することにしました。またMSマトリクスの追加により、ミッド/サイドのそれぞれに異なるEQ処理を施すことも可能になっています」オレシュ氏は「こうしたモダンな音楽制作に沿った機能の追加やアーティストによるチューニングが、WAVESのモデリング・プラグインのアドバンテージです」と語る。「弊社のプラグインは忠実なモデリングにより、ポップスの名盤で耳にすることのできるオーセンティックなサウンドを再現可能です。さらにDIGIGRID製品と連携することで、そうした名機のサウンドをDAWでの音楽制作はもちろん、ライブの現場でも使えるのです」 関連リンク:メディア・インテグレーション WAVESプラグインで学ぶ「プロのミックス・テクニック」
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