
第5回 S1オンリーで作るテクノ・トラック
シンセ&展開作りを経てついに完成!
筆者はヨーロッパから帰国して早々、日本各地を行脚しており、先日は札幌のクラブPrecious HallでDJをしてきました。Precious Hallは世界的に見ても音響が本当に素晴らしいので、行ったことのない方は、ぜひ一度体験を!
Mai Taiは本当に音が良いシンセ
素材を自動分割するSample One
さて、長きにわたり執筆してきた筆者のPRESONUS Studio One(以下S1)連載も今回で最後。先月のトラック・メイキングの続編です。前回作り方を示したドラムとベースのベーシック・ループにシンセなどを追加し、一気に完成させます。使用するツールは、やはりS1に標準搭載のものだけです。
※ちなみにコチラ、完成形のトラックです。S1オンリーで制作しました! 記事を読み進める前にご試聴いただくと、内容がより分かりやすいと思います
最初に追加するのは、ポリ/モノを切り替えられるシンセ=Mai Tai。4種類の波形を備えるオシレーターが2基とノイズ・ジェネレーター、エンベロープ・ジェネレーター(Env)が3基、LFOが2基ありますが、ポイントはEnvの数。1つ目はアンプ専用であるものの、Env2と3はモジュレーターとして各パラメーターへ自由にアサイン可能です。また、フォルマントを調整して倍音構成を変えるような“Charater”というエフェクトもスタンバイ。ここではまず、上モノ系音色“Poly - Dynamophon”を選び、Env3をCharacterのSound(効果の特性を調整するパラメーター)に割り当ててカーブを調整します。Characterでは“GrandClass”というプリセットを選択。ピアノ打鍵時のようなアタック成分が際立つ効果です。また画面右下“Quality”セクションで出音の質感を選べるのも面白い。今回はローファイにしたかったので“80s”というプリセットをチョイスしました。このMai Tai、本当に音が良いです。

Mai Taiで良い感じのリフができたので、もう一つシンセ・パートを増やすために今度はPresence XTを使用。シンセというよりサンプル・ベースの音源ですが、ピアノや生ベース、ストリングスなどのアコースティック系からビンテージ・シンセまで、さまざまなサンプルが入っているため重宝しそうです。

今回はテクノ・トラックということで“303 Bass”というプリセットを選び調整。既にMojito(純正シンセ)で基本のベース・ラインを鳴らしているので、ここではROLAND TB-303的にアシッドなフレーズを作成。設定は、TB-303よろしくフィルター・レゾナンスをフルに上げ、実機には無いLFOでカットオフを連続的に変化させます。これらモジュレーションの設定は、Presence XTでもMai Taiでも画面左下“Mod A/B”からアクセスできるマトリクスで簡単に行えます。

ここでパーカッシブな要素が欲しくなったので、ちょっとぜいたくに増村和彦君のドラム演奏をSampleOne XTにサンプリングし、フレーズを作ってみます。S1のサンプラー類は本当によくできていて、このSampleOne XTもドラム用のImpact XTも、shiftキーを押しながらオーディオをドラッグ&ドロップするだけで自動的にサンプルをスライス(アタック位置で分割)してくれます。この機能がS1でのトラック・メイクで一番感激した部分です。ドラムをスライスし、オリジナルよりもさらにミニマルなフレーズを打ち込み、ピッチやフィルターなどのモジュールで原形をとどめないほど加工していきます。増村君には申し訳ないくらい本来の音からかけ離れてしまいました……が、インダストリアルな格好良いフレーズができました!

純正Limiterだけでも十分な音圧
S1の音質はテクノなどにも対応可
フレーズが出そろってきたので、展開を作ります。オートメーションで各シンセのモジュレーションに時間的な変化を加えつつ、増村君のドラム・サンプルにもLFO付きのフィルター・プラグインAutofilterで展開を付けます。S1のオートメーション設定はとてもシンプルで、目的のパラメーターを右クリックして“オートメーション○○を編集”を選ぶだけで、アレンジ・ウィンドウにオートメーション・トラックが出現。あとはペンツールを使ってカーブを描くなり、手持ちのMIDIコントローラーでいじるなりして調整していきます。

こうしたアレンジ作業は素早く一気に行いたいところです。最近僕が意識しているのは、特にDAWでダンス・ミュージックを制作する場合、アレンジはとにかく一気に行うこと。そうすることで最初にできたフレーズの躍動感がそのまま残ります。DAWでは何度もやり直しができ、いじり過ぎて本来の躍動感が失われてしまうことが経験則として多々あるため、手法によりますが、素早く一気にアレンジすることをお勧めします。
6分くらい展開させたところで、中盤からのアレンジがやや単調に思えてきたので、さらに新しくMai Taiでブレイクをあおるシンセを追加します。“TOMITA Strings”というプリセットがあったので使ってみると、古き良きアナログ・シンセ的な音色。しつこいようですが、Mai Taiは本当に音が良いです。そしてリズムにもほんの少し要素を増やすため、増村君のドラムを今度はImpact XTにshiftキーを押しつつドラッグ&ドロップ。空気感のみを加えたかったので、ハイハットとスネアのアタッキーな部分のみを4つ打ちキックに薄く加えます。ビーターが鳴る音を強調させるような感じですね。

キックやハットを抜き差しし、これで完成!のはずでしたが、増村君のドラムをワンショット的にしか使っていなかったのが悔やまれたので、終盤に彼のドラムを思い切り乗せてみようと思います。S1ではアレンジ・ウィンドウ上でもオーディオをスライスできるので、スライス後に軽くクオンタイズをかけ、Beat DelayやPhaserでサイケデリックな雰囲気を強調します。
これにて出来上がり。“本当にハード・シンセを使わず、S1だけで作ったの?”と、自分でも疑いたくなるようなテクノ・トラックに仕上がりました。ちなみに、マスターには標準搭載のLimiterをかけたのみ。マスタリング・レベルまで音圧を上げましたが、リダクション自体は−3dB程度でした。

当初はS1のイメージとして、音色はクリアで録音やミックスには良いけどテクノのようなトラック・メイクにはパンチや音圧が出ないのでは?というのがあったのですが、見事に予想が外れました。曲を公開しているので、一聴すればお分かりになると思います。
筆者の連載、いかがでしたでしょうか? 書いていた僕自身も、あらためてS1の魅力をさらに理解でき、とても良い機会でした。読者の方のより良い音楽制作に何か貢献できていましたら幸いです。それではまたどこかで!
*Studio Oneの詳細は→http://www.mi7.co.jp/products/presonus/studioone/