第3回 デフォルトの機能からアドオンまで
奥深き“S1ミックス”の世界
サンレコ読者の皆様、こんにちは! 僕は年末にインドでのツアーを無事に終え、帰国してからは矢継ぎ早にイベントでのDJをこなしておりました。毎年ではありますが、さすがに疲れたな……。さて今回は、その疲れからも復帰したところで、PRESONUS Studio One(以下S1)でのミックス・ダウンについて、前回の続きを解説したいと思います。
アドオンのミックスFX=CTC-1で
より多彩なコンソール感をゲット
前回と同様に、実際にS1でミックスしてリリースした楽曲GONNO × MASUMURA「In Circles」を題材に話を進めましょう。この曲では、連載初回“レコードのデジタイズ術”で紹介したS1標準装備のコンソール・シミュレーター・プラグインConsole Shaperを使用しています。Console Shaperは“Mix Engine FX”(ミックスFX)と定義されるエフェクトで、バスに立ち上げる仕様です。「In Circles」ではドラムやシンセのミックス・バスに使い、個々にパラメーターを設定した方が良い結果を得られたため、マスターには用いませんでした。そしてこのミックスFX、デフォルトではConsole Shaperしか装備されていないのですが、ほかのものがアドオンとして発売されています。その一つ、CTC-1ではチューブ系など3種類のコンソール・モデルを選べるのだとか……欲しい。
というわけで、この原稿を書く名目で買っちゃいました、CTC-1。これは素晴らしい! 有料アドオンなので当たり前ですが、Console Shaperをアップ・グレードしたような感じで最高です。こんなに便利なものなら、アルバムのミックス前に買っておけばよかったと、今さらながら後悔しています。
CTC-1は、先述の通り3種類のコンソール・モデルを装備しています。NEVE的なルックスのClassic、TELEFUNKENのチューブ・プリアンプを思わせるTube、現代的な印象のCustomがそろっていて、まさに三者三様、音のキャラクターも全く違います。選んでいてとても面白いので、Console Shaperを挿していたバスで差し替えて使ってみましょう。
まずドラム・バスは、サード・パーティ製のテープ・シミュレーターを使用しているため、Console ShaperではDriveのスイッチをオンにしただけでした。ノブの数値は0です。これでも低域の量感がグンと上がりましたが、CTC-1に差し替えてみましょう。いろいろ試した結果、このドラムにはTubeが合いそうです。ただこちらも、Driveのスイッチをオンにするだけでノブの数値は0。NoiseやCrosstalkのスイッチもオフにします。
他方、シンセ類などの上モノをまとめたバスではClassicをチョイス。メインのシーケンスがソフト・シンセによるものだったので、ほかのハードウェア・シンセのパート(もちろんライン録り)と整合性を取る目的です。Driveを少し上げて+3dBくらい、Crosstalkもオンにして25%くらいにしてみました。これにより、ドラムやハード・シンセと大分なじむ感じに。シンセにDriveをかけると、ひずんで音量が上がるというより、波形を変調するような変化が得られます。場合よってはDriveをマックスにしても、音作りとしては面白いかもしれません。
ミックスFXのかかる先を変えられる
“パススルー”という機能
ミックスFXを夢中でいじっていると、プラグイン画面上部の“パススルー”というボタンが気になり出すかと思います。このパススルー、地味に見えて実は効果の大きい機能なのです。例えばマルチトラックを扱うとき、ドラムの各パーツやキーボード類などを属性ごとにまとめたサブバスを作り、それをマスター・バスに送ることが多いと思います。そのマスター・バスにミックスFXを立ち上げパススルーをオフにすると、ミックスFXはマスターに接続された全信号のサミング結果に対してかかります。ドラム・パーツのサミングやキーボード類のサミングにかかるわけですね。
一方パススルーをオンにすると、マスター・バスに来ている各サブバスの中身、つまり個々のトラックに直接かかるようになります。パススルーでは、ミックスFXがバスでサミングされたものにかかるか、バスの中身に対して個別にかかるかを設定できるため、オンとオフでの変化はさまざまで、音もかなり違ってきます。今回は、ドラムとシンセの両バスでパススルーをオンにしてみました(ボタンの表示が水色になればオンの状態です)。例えばCrosstalkを使っているときにパススルーがオフになっていると、クロストークの音がバッファー・サイズなどによっては遅延して出てくることがあるので、そうした場合はパススルーをオンにしておくとよいでしょう。
レイヤー時の位相合わせに便利な
トラックのディレイ機能
ミックスFXよりも圧倒的に地味な存在ですが、各トラックの発音タイミングを微妙にズラせる“ディレイ機能”も、僕にとって非常に重要です。「In Circles」ではキックの超低域を増やしたかったため、キック・トラックをコピーしてローパス・フィルターをかけ、低域に寄った成分を作ってオリジナルに重ねています。キックに低域の素材を足す際は、音量はもちろんですが、タイミングを調整して位相を合わせることがとても重要。ですので、トラックごとタイミングを調整できるディレイがあるのは非常にありがたいです。
また“トランジェントを検出”という機能ではオーディオのアタックを読み取ることができ、解析後に“ベンドマーカーで分割”機能を使うことにより、アタック位置での分割が可能に。MASUMURA君のドラムでトリガーしたROLAND TR-808ライクなキックに試したところ、うまく頭で分割できたので、生キックに対して厳密にタイミングを合わせてみました。
そのほか、初回でも紹介した通り純正のLimiterも優秀で、「In Circles」でもマスタリング前のプリマスターに使用しました。また目立たないところではMixtoolも万能ナイフ的なプラグインで重宝しますし、Open AirのようなIRリバーブもかなりサクサク動くのでサラッと取り入れてみました。とにかくこのS1、ミックスだけでも機能が豊富で、いじればいじるほどすごいです。次回は、ミックスというよりアレンジ寄りの内容でいけたらと考えておりますので、お楽しみに。
*Studio Oneの詳細は→http://www.mi7.co.jp/products/presonus/studioone/