
第1回 Studio Oneを使った
アンビエント・ミュージックの下準備について
こんにちは。今月からPRESONUS Studio One(以降S1)の連載コーナーを担当することになりました、Chihei Hatakeyamaです。普段はアンビエント・ミュージックを作っていて、そこでS1は欠かせないツールになっています。またマスタリングやミックスでも活躍しています。この連載では普段あまりなじみがないと思われるアンビエント・ミュージックでの作曲、音色作り、ミックスなどを取り入れながらS1の使い方を紹介できればと思っております。短い間ですが、よろしくお願いします。
スペクトラム・メーターで
正確な周波数を把握する
まずは、S1を使うまでにどのような変遷を経てきたのかというところからお話しします。初めてのDAWはSTEINBERG Cubaseで、次に同社のNuendo、そしてMOTU DPにたどり着きました。付属のリバーブの特徴が好みだったので、長い間使い続けましたが、アップデートが遅いなと思っている時期に出会ったのがS1でした。
偶然にも本誌2012年4月号にS1のデモ版が付録で付いていました。紹介記事もありましたので、読んで興味がわき早速インストールしたところ、その出音の良さに感動。そこで主に録音関係の仕事から移行することにし、それから約5年間使い続けています。
S1は付属の内蔵エフェクトも優秀なので、まずよく使うものを紹介したいと思います。それは位相メーターとスペクトラム・メーターです。ミックスやマスタリングのとき、この2つは必ずマスター・トラックにインサートしています。耳で判断することも大切ですが、時には視覚的な情報と検証が問題解決に役立ってくれるのです。特にアンビエント・ミュージックですと、あまり高域や低域の方に音は使えないので、自然と100Hz〜300Hzあたりが混雑してきます。スペクトラム・メーターで、正確な周波数を把握しておくことは大切なのです。

位相メーターの方は左右の広がりを確認するために使います。S1の位相メーターは特にグラフィックが優秀で立体的です。これを見ながらミックス・チェックするのがオススメです。マスタリング時などで、まれにこれまで見たことの無い幾何学模様のようなグラフィックが出ると、うれしくなりますね。ぜひ使ってみてください。

リアルタイム演奏とエフェクトが
アンビエント・ミュージックのキモ
さてそれでは本題のアンビエント・ミュージックの音色作り、もしくはネタ作りに入りましょう。今月は内蔵バーチャル・インストゥルメントのPresence XTを使ってみます。Studio One 2ではPresenceでしたが、Studio One 3になりPresence XTにグレードアップ。大幅に機能と音色が向上した印象です。

ntakt(バージョン4以前)、SoundFontの各フォーマットのプリセットをロードして演奏することもできる
Presence XTはサンプル・プレーヤーで、自分で用意したWAVファイルなどは使えませんが、S1付属のサウンド・セットをフィルターやLFO、エンベロープなどでサウンド・シェイピングすることが可能です。今回はサウンド・セットの中の声のサンプルを使って音作りをしてみましょう。一昔前のボイス・サンプル群ですと、仮歌に使ったりする以外はほとんど使い道がなかったのですが、最近のボイス・サンプルは非常に優秀です。また、実際の人の声とは違った独特のわびしさが漂ってくるところもいいですね。そういった寂しさを表現したいとき、もしくはSF的な雰囲気を出したいときなどは有効です。アンビエント・ミュージックの作曲で大事なのは、発想の転換ですね。光が当たらなそうなすき間を見つけて積極的に使用するような思考法です。
今回はPresence XTで2声、NATIVE INSTRUMENTS Kontaktで1声の計3声で作業を進めてみます。まずPresence XTで、サウンド・セットのChoir Girlsを使いました。エンベロープでアタックを遅めに変更し、ディケイの時間を長くし、リリースも長くしてゆったりとした音色にしています。

音色がある程度形になったら、即興で思いつくままに演奏してみましょう。演奏が納得いくような形になったら、リアルタイム録音をオススメします。またこのときにテンポは気にせず、クリックも使わないようにしましょう。アンビエント・ミュージックの良いところは、ドラムなどのリズム楽器が無く、ビート感やBPMがあいまいな点です。これをベーシックのトラックにして、インサート・エフェクトで変化を加えていきます。ここでは内蔵のRoom Reverbを使います。

Room Reverbは細かい設定ができる上に癖のない透明感のあるキャラクターです。少し揺らぎを出したいときなどは、別途コーラスやピッチ・シフター、ディレイなどを使ってモジュレーションを加える場合もあります。今回は聖歌隊をイメージして、大胆に広めの空間を作ってみました。残響時間は16秒です。かなり長いと感じると思うのですが、アンビエント・ミュージックは通常の音楽とは違い、音の余韻や減衰を楽しむという面もあるので、12秒〜35秒あたりがこれまでの経験上合っています。
コンパクト・エフェクターのイメージで
リバーブなどを使用
2つ目のPresence XTではAhhsという音色を使用。これもエンベロープをChoir Girlsと似たような形に変更しています。そして一つ目のトラックを聴きながら即興で演奏します。Ahhsはサウンドから推測すると、女性の声のようです。こちらはキャラを変えるために内蔵エフェクトのOpen Airを使いました。

ここまでのリバーブなどのエフェクトの使い方はミックスというよりは、音色作りの観点から進めています。ギターのコンパクト・エフェクターを使うイメージでとらえてください。
最後に少し雰囲気を足すために、男性の声をKontaktで加えてみました。“アー”という女性の声に対して“イー”という男性の低い声を足すことで、バランスを取っています。さらにこちらにもRoom Reverbを使用。残響時間は33秒に設定しました。後ろの方で鳴っているドローンのようなイメージで全体を支えています。
以上駆け足でしたが、いかがだったでしょうか? 今回作ったのは曲のスケッチですね。こうやってストックしておけば、いざ曲を作ろうというときにすぐに引き出せて便利です。次回もまたアンビエント・ミュージックのサウンドメイキングを紹介できればと思います。
*Studio One 3の詳細は→http://www.mi7.co.jp/products/presonus/studioone/