宇佐美秀文が使う Studio One 第2回

 第2回 ライブ中の“X time”に対する
Studio Oneの活用方法について

4月より始まったゴスペラーズの全国ツアー。マニピュレーターとして参加するようになってからかれこれ17年になりますが、ここ5年ほどはStudio One(以下S1)を活用しています。軽快なレスポンス、ストレスの無い処理速度は、仕込みやリハーサルなどの準備期間だけに限らず本番中にも存分に発揮されています。今回もライブで使うS1のちょっとしたひと工夫、“X timeへの対応方法”をご紹介します。

キーボードショートカットを設定して
瞬間的にループ範囲を決める

 演者とお客さんとの間で行われるコール&レスポンスやバンドのソロ・タイムはライブの醍醐味。段々と会場の空気を温めていき、ここぞというところで次の展開へ!というように、その場の雰囲気でサイズを決めずに進行できればライブ感がさらに増しますよね。その“サイズを決めずに進行”するために、セクションの繰り返し回数が決まっていないこと、これがいわゆる“X time”です。

再生されるシーケンスの内容が変わらないのであれば、X timeにしたい範囲をあらかじめループ設定しておけばよいですが、S1のアレンジトラック機能とキーコマンドをうまく使うことで、X timeのバリエーションを増やすことができます。ここでは例として僕が不定期に活動を行っているベース/DJ/マニピュレーターのユニット“U.S.B.”で実際にやっている方法を挙げてみます。

須藤満(b)のアッパー曲「Hot Rod」では、リズム・パターンがテンポの半分で刻まれるソロ①と通常パターンのソロ②がそれぞれ16小節ずつあります。このとき須藤さんはステージから下りてオーディエンス・フロアでソロを弾き倒しながら練り歩くのが定例となっており、たまにライブ・ハウスの外に出て行ってしまうことがあるくらいその日その瞬間のノリでサイズが変わるので(笑)、ソロ①とソロ②はそれぞれがX timeとなっています。

ループさせるための範囲設定はトランスポート横の小窓に直接打ち込むか、メイン・ウィンドウ上部のルーラー部分で、カーソルがペイント・ツールマークに変わった後にドラッグして決めることができます。

▲トランスポート。ループのアイコンの隣にあるのがループのスタート/エンド欄(赤枠)。ここに直接打ち込んでループの設定できるほか、キーボード・ショットカットでも可能 ▲トランスポート。ループのアイコンの隣にあるのがループのスタート/エンド欄(赤枠)。ここに直接打ち込んでループの設定できるほか、キーボード・ショットカットでも可能
▲カーソルを小節番号付近に持っていくとペイント・ツールのアイコンに変わる(赤丸)。この状態にしてドラッグするとループ範囲を設定することができる ▲カーソルを小節番号付近に持っていくとペイント・ツールのアイコンに変わる(赤丸)。この状態にしてドラッグするとループ範囲を設定することができる

しかし「Hot Rod」のように、ループ個所が複数あって瞬間的に設定したい場合は、“選択をループ”というキーボード・ショートカットを使うことを強くお薦めします。それを自分の使いやすいコマンドにしておきましょう。やり方は、環境設定>一般>キーボード・ショートカットのタブで“選択をループ”という言葉で検索すると、同名のショートカットが2つ出てくるのですが、実はそれぞれ微妙にアクションが異なります(違いは後述)。

▲キーボードショートカットの検索欄(赤枠)で、“選択をループ”の言葉を検索すると、2つヒットする。上は“選択したポイント”、下は“選択ポイントが含まれる小節”をループ設定するという違いがある。表示名が同じなので気をつけよう。ちなみに筆者は上の“選択したポイント”はShift+Pに、“ループを切り替え”はテンキーの7に設定している ▲キーボードショートカットの検索欄(赤枠)で、“選択をループ”の言葉を検索すると、2つヒットする。上は“選択したポイント”、下は“選択ポイントが含まれる小節”をループ設定するという違いがある。表示名が同じなので気をつけよう。ちなみに筆者は上の“選択したポイント”はShift+Pに、“ループを切り替え”はテンキーの7に設定している

ここでは上の方を使いやすいコマンドに設定しましょう。また“ループを切り替え”のコマンドも設定しておくと、さらにスムーズに行えます。これらの準備をしておけば、“範囲ツール”もしくは⌘キー(WindowsではCtrl)を押しながらループ範囲を指定+“選択をループ”のコマンド入力で、すぐにループ設定ができるのです。

アレンジトラックを活用して
X timeに対応する

ソロ①ではコード進行の変化はないものの、13小節目からソロ②へ向けてのリズムの変化があるため、その前の8小節間(5〜12小節目まで)を1パックのループとして定義します。

▲「Hot Rod」のソロ①の個所。後半の13小節目以降は、ソロ②へ向けてパターンが変わるので、その前の5〜12小節の8小節間を最初のX time用のループ・ゾーンに設定している ▲「Hot Rod」のソロ①の個所。後半の13小節目以降は、ソロ②へ向けてパターンが変わるので、その前の5〜12小節の8小節間を最初のX time用のループ・ゾーンに設定している

ベース・ソロに入ったらループを有効にし、ころ合いを見計らってソロ②へ移るのですが……実はソロ②は前の小節から8分音符食って始まる進行となっているので、通常のループ範囲設定のやり方ではすごく大変! メイン・ウィンドウだとかなりズームしなければ選択しにくいですし、トランスポートだと入力欄が小さいのでとっさにアクセスするには誤打の可能性もあり危険です。ライブ本番中はスピードと正確性が大事ですから下手は打てません。そこでアレンジトラックの登場です。

構成の組み立てをアシストする制作用途として使われることが多いアレンジトラックですが、これをループ範囲設定用の“しおり”として使います。ここではソロ②の折り返し前の小節、4拍目8分ウラから、ソロ②の最終小節の同個所まで、都合8小節間をあらかじめアレンジトラックで範囲設定します。こうすると“最初のループを解除→次のループ範囲を作成→ループON”という3ステップが、ループを解除することなく次のループ・ポイント(アレンジトラック)を、“選択をループコマンドで指定”の1ステップで速やかに移行できるようになります! キーボード・ショートカットの説明で後述とした2つの“選択をループ”の違いは、1つは選択した範囲通り、もう1つは“選択した場所が含まれる小節のすべて”という差があります。今回のような8分音符食いのケースだと、後者の場合は望んだ結果にはならないわけですね。

▲アレンジトラックの“Loop 2”を指定した際の、2つの“選択をループ”コマンドのアクションの違い。画像は「Hot Rod」のソロ②におけるループの始まり個所で、98小節目4拍目の8分ウラに設定されている。上は、選択された通りにループが設定されるが、下は、小節のアタマから終わりまで、きっちり小節単位でループが設定される ▲アレンジトラックの“Loop 2”を指定した際の、2つの“選択をループ”コマンドのアクションの違い。画像は「Hot Rod」のソロ②におけるループの始まり個所で、98小節目4拍目の8分ウラに設定されている。上は、選択された通りにループが設定されるが、下は、小節のアタマから終わりまで、きっちり小節単位でループが設定される

アレンジトラックはこのほかにも曲スタートのキューや横一列にたくさんの曲のライブ用ステムを並べたときの曲名の管理など、視認性が良いのでメモ置き場としても優秀です(本来の使い方からは外れていますが)。

▲アレンジトラックをインスペクターで表示すると、縦にアレンジトラック・ネームが並ぶ(赤枠)。そのネームの左余白部分をクリックすることで、即座に再生位置を移動することが可能だ ▲アレンジトラックをインスペクターで表示すると、縦にアレンジトラック・ネームが並ぶ(赤枠)。そのネームの左余白部分をクリックすることで、即座に再生位置を移動することが可能だ

ライブでは瞬間的な判断が要求されることが多いので、自分がよく使うショートカットはどんどん使いやすいようにカスタマイズしていくとよいでしょう。それとS1に限ったことではありませんが、使い始めて間もない方はカスタマイズの有無はともかくとしてキーボード・ショートカットの一覧に目を通してみることをお薦めします。分厚い説明書を読み進めていくよりもそのソフトがどんなことができるのかのヒントがたくさん隠されているからです。これはなんだろうと思ったらとにかく試してみると、思わぬ発見があるかもしれません。もちろん、より詳しく知るために説明書も活用しましょう。

僕のライブ中の基本スタイルは、S1のステム・ミックスを立ち上げた外部ミキサーのフェーダーに左手を、プレイ/ストップ、ロケートやマーカー前後への移動がすぐできるようにコマンド設定したテンキーに右手を置いています。Bluetooth対応のテンキーがあれば持ち場から少しくらい離れてもS1を動かせますが、誰もいないのに突然シーケンスが走って周りの人にぎょっとされるので一声掛けてからにしましょう(笑)。それではまた次回!

*Studio One 3の詳細は→http://www.mi7.co.jp/products/presonus/studioone/