
第2回 Studio Oneにおける
METAFIVE「Luv U Tokio」制作方法
先月は、Studio One(以降S1)の導入のきっかけや全体的な活用方法についてお話ししましたが、今回は実際の曲作りをS1でどのように行っているかを解説していきたいと思います。曲はMETAFIVEの「Luv U Tokio」。この曲はTOWA TEIさんから“リード曲をよろしく!”という依頼を受け、ゼロからS1で作った曲です。
打ち込みやエディットがやりやすく
積極的にオートメーションを書くように
僕が作曲する際のスタートは、S1を立ち上げるところから始まります。テンプレートとして、前回話したNATIVE INSTRUMENTS BatteryやUVIなどのソフト・シンセが立ち上がるのですが、僕は大体リズムから作ることが多いです。Batteryには自分のオリジナル・サンプルのライブラリーがあって、その中の音でリズム・パターンを決めます。パターンが決まれループさせながらコード楽器を入れたり、シーケンス・パターンを作ったりして、アレンジを導き出すというスタイルが多いです。「Luv U Tokio」もそのやり方で、最初はリズムから作りました。
リズムの打ち込み方は、MIDIキーボードでリアルタイムに弾いて、それを整えるというやり方です。特別なことは何もしていません。また前回お話ししましたが、クオンタイズはだいたい16分符のジャストにして、ベロシティは打ち込んだままにしておくことが多いですね。リズムで大事なのは音色だと思っていて、僕は普段から良い音があったら自分のライブラリーにためておいて、それを使っているんです。昔のサンプリングCDやレコード、アナログ・シンセで作ったもの、古くは高校生のときにサンプリングしたスネアの音とかもあるんです。またS1付属のドラム・サンプラーImpactにも良い音色が入っているので、そこから採用することもあります。

「Luv U Tokio」はリズムができたあとに、コードを打ち込みました。ここで活躍したのはNote FXのChorderです。

僕は自分で手弾きする場合は3和音くらいのシンプルなコードになりがちなんですが、Choderを使って4和音以上の、ちょっとおしゃれなコードの積みを作ることができました。Choderが無かったらこの曲のコードも3和音のシンプルなものになっていたでしょう。また、このNote FXに入っているArpeggiatorも重宝しています。

曲の雰囲気をイメージするために鳴らしてみることが結構あるんです。あと音作りに活用しているのがMulti Instrument。

音作りの幅が広がりましたし、音色の表情を付けやすいので、いろいろ試してみようという気になるんです。
SampleOneに読み込んで
マッチする音を選んでいく
次に打ち込んだのはベース。ベースはやはり肉体的な感覚が欲しいので、一回体をリズムに合わせて、体が自然に動くようにしてからリアルタイムに演奏して打ち込み、それを整えていくという方法で打ち込みました。音色は、恐らくREFX Nexusのシンセ・ベースをプリセットでそのまま使ったと思います。僕はプリセットをそのまま使うカッコ良さを、クラフトワークを聴いたときに気が付いたので、常に取り入れようと意識しているんです。
ここまでである程度の形ができました。あとは細かいフレーズやSEなどを入れました。僕はドラムのフィル部分にSEを使ったり、別のドラム・キットの音で表現することをこだわりにしています。それはドラム・マシンは生ドラムとは違うものという位置付けと考えているからですね。そのときに役立つのが、内蔵のサンプル・プレーヤーSampleOne。音を決めるときは3〜4個立ち上げておいて、そこにサンプルを読み込んでどんどん再生して合う音を選んでいきます。そういったときにS1はすごく動作が軽くさくさく動くので、アイディアをすぐ形にできるのです。もちろん、外部のシンセを使って録音する場合もあります。そのとき、もしその音が良ければ、そのまま自分のライブラリーに加わるんです。そうやって、作曲と同時に新しいサンプルが更新されています。昔はライブラリーを作るのに時間がかかったのでやっていなかったんですけど、S1ならササッと保存できる。このように、頭でひらめいて、具現化して、さらに広げていくという循環がうまくいくんです。
すごくシンプルなことなんですけど、そこでソフトが重かったり、止まってしまうとかなりのストレスなので、曲作りにおいて動作が速いというのは、僕にとって優先順位はすごく高いですね。
ここまでで、「Luv U Tokio」の原型は出来上がりました。ここからはボーカル録音や、各メンバーの作業が加わっていきます。TEIさんが音ネタを足したり、小山田(圭吾)君がギターを入れたり。なので、ステム・データとして、それぞれのメンバーに送って、戻してもらうのです。
こういった作業を経て録音が終わると、ミックス・エンジニアにデータを渡しますが、その前に僕の方で問題のないレベルのラフ・ミックスを作ります。宿題を残したまま“スタジオで何とかなる”と思わないことですね。結局スタジオでも同じ問題に直面すると思うので。もし問題が起きている場合は、プラグインで解決するより、根本的にオーディオやMIDIに問題があることが多いので、そこまで戻って修正をして、ラフ・ミックスを仕上げます。もちろんプラグインも使っていて、ディレイは大体内蔵のAnalog Delay、Beat Delayを重宝。

あとひずみ系としてRed Light Distortionも使います。

こうしてエンジニアの高山徹さんにミックスをしていただき、「Luv U Tokio」は完成しました。
僕もまだまだ新しい機能などを発見しながら触っているS1ですが、何より動作の軽さが楽曲作りに与える影響が大きいことを常に実感しています。次回はミックスに焦点を当ててお話ししていきたいと思います。
*Studio One 3の詳細は→http://www.mi7.co.jp/products/presonus/studioone/