第3回
楽曲にグルーブ感を与える
Studio Oneのプログラミング
皆様こんにちは、中土です。今月はStudio One(以降S1)におけるアレンジに効く処方せんです。個人的には楽曲のクオリティを上げるために最初に意識すべきは、アンビエント・ミュージックでもない限り、リズムやグルーブ感だと思います。打ち込みでグルーブ感を出すには、特にドラムとベースのコンビネーションが大事。闇雲にデータにランダム性を与えて人間味を出せば良いというものではありません。しかしちょっとした工夫で手っ取り早く、それっぽいグルーブ感が出せる方法があります。方法論はジャンルによって異なるので、今回はハウスやEDM系の4つ打ち系にフォーカスして紹介していきましょう。
ウラ拍を揺らして
気持ちの良いフィールを
まずはリズムから。キックとスネアはクオンタイズして、しっかりグリッドに合わせて良いでしょう。ハイハットはクオンタイズしつつも8分ウラの音符にヒューマナイズ(低)をかけ、微かに揺れた状態を作ります。打ち込み時のノリが良ければそのまま使ったり、クオンタイズ50%で補正する程度にとどめる場合もあります。

その際、4小節程度のループを設定し再生しながら音を聴いて気持ち良いところを探りましょう。ここから僕の場合はクラップをスネア(2/4拍)に重ね、必要であればタイミングをずらします。突っ込んだ印象が欲しければ前に、逆に溜めたノリが欲しければ後ろに数msずらしてみましょう。この際、ナッジ機能をショートカットに割り当てるとやりやすいです。今回は、前へ前へとプッシュする感じが欲しかったので、数ティックだけスネアを前へ、ルーズなクラップを32分音符程度前へずらしてあります。

次にサイド・チェイン・コンプでうねるベースを作っていきましょう。ハウスやEDMっぽい踊りたくなるようなベースと言えば、ウラ拍を強調したサイド・チェイン・コンプがかかったベースをイメージする方も多いと思います。“ちょっと待って、サイド・チェイン・コンプって何?”って方もいらっしゃると思うので、軽く説明を。サイド・チェイン・コンプとは、コンプのかかり具合を、実際にインサートしたトラックではなく別の音でコントロールするテクニック。例えば、キックの音量がスレッショルドを超えるとコンプレッションされベースの音量が下がる→キックの音量が下がるとコンプレッションされなくなりベースの音量が上がる……と言うように、ただベースを打ち込んだだけでは演出できない躍動感を得ることができます。ちなみにキックとベースが同時に鳴らないことで低域のすみ分けができ、ミックス的なメリットもあります。
さて、S1でのサイド・チェイン・コンプのかけ方は、ほかのDAWよりも簡単! まずベースのトラックにS1純正のCompressorをインサート。そして“Sidechain”をクリックして有効にします。そうするとトラックのセンドの項目やアウトプットの項目でサイド・チェインが選択できるようになるので、キックの音をコンプのサイド・チェインに送ります。ルーティングはこれだけです!(簡単ですよね!?)。そして、Compressorのパラメーターを最初はざっくりと設定します。

そこから拍アタマにパンチが欲しければアタック・タイムを遅く、音量差が欲しければスレッショルドを下げ、ウラ拍で音量が上がるタイミングが遅ければリリースを速く……というふうに調整してください。S1のCompressorは、ミキサーのレベル・メーターの横にリダクション・メーターが表示されるので、キックからのセンド量を視覚的に確認しつつかかり具合を調整できます。コンプのウィンドウを開かずに補正することが可能なのです!
実際に打ち込んだキックでサイド・チェイン・コンプをかけると不便なこともあります。例えばキックがシンコペーションしていたり、連打していたりなどいろいろ考えられますが、そんな場合は、別にサイド・チェインをコントロールするためのダミー・トラックを用意して、そこにキックを用意しましょう。僕がダミー・キックを作る際はMIDIプログラミングせず、オーディオ・ファイルを直接S1のアレンジ画面に張り付けています。長さを4分音符程度に調整し、後はショートカットキー”D”で複製して作っているのですが、この方が何十倍も速いですよ!
Shiftキーを活用して
デュレーションを手なずける
次はベースの打ち込みです。音の長さ(デュレーション)をコントロールしたり、グライドを使ってベース・フレーズに粘りを出したり、ゴースト・ノートを入れることでさらに気持ち良いグルーブ感を演出しましょう。


ゴースト・ノート打ち込みは面倒に思われがちですが、S1は、MIDIノートやリージョンの長さを調整する際、Shiftキーでグリッドへのスナップのオン/オフを一時的に切り替えられるので、スマートかつ視覚的に長さをコントロールできます。ゴースト・ノートのテクニックはジャンル問わずベースを“よりグルービー”にしてくれるので、いろんなジャンルやほかの音色でも活用できます! ちなみに、手弾きで打ち込んでクオンタイズしてデータをトリートメントしている人は、“エンドをクオンタイズ(ショートカット=Q)”を使うか、シンセなどの上モノとベースを同時にピアノロールに表示して選択し、コマンドを押しながらノート・エンドを調整すると選択したノートの長さがすべてそろいます。コマンド・キーでそろえるのは非常に便利なので、ぜひ覚えておいてくださいね! 余談ですが⌘+Optionキー(WindowsはCtrl+Option)を使うと、ノート・エンドのタイミングのみをそろえることができ、ギター・アルペジオの打ち込みなどに有効です)。
さて次号は新しくリリースされたS1のバージョン3.2の新機能にも触れたいと思います! お楽しみに!
*Studio One 3の詳細は→http://www.mi7.co.jp/products/presonus/studioone/