
矩形波以外もシェイプの変更が可能 3種類のモジュレーションをすべて装備
音作りの基点になるVCOの基本波形は、ノコギリ波、三角波、矩形波の3種類。いずれも温かいサウンドで、和音で弾くと気持ちがいい。まさにポリフォニックのためのオシレーターだ。また、ノイズ・オシレーターのホワイト・ノイズ波形も、密度感が美しい。 VCOに矩形波を選んだ場合、パルスワイズ(パルス幅)が変更できるのは、ほかのアナログ・シンセと同様だが、Minilogueでは、ノコギリ波や三角波でも同じシェイプつまみを使って、波形の一部を折り返すような変形が行える。効果はパルスワイズの変更と似ていて、LFOによるモジュレーションも可能なので、ノコギリ波の明るいサウンドを保ったまま、にじんだようなゆらぎを作成できる。 2つのオシレーター間では、クロス、シンク、リングの3種類のモジュレーションが可能。クロス・モジュレーションは、オシレーター1で2の周波数を変調する機能。リング・モジュレーションは2つのオシレーターの周波数の和と差を取り出す機能。どちらも不規則な倍音が発生し、金属質な音色やノイジーなサウンドを作成できるのだが、効き具合が異なるので、両方を装備していると音作りの幅がぐっと広がる。シンク・モジュレーションは、オシレーター1のピッチに2を強制的に同期させる機能。この状態で、オシレーター2のピッチをエンベロープやLFOで揺らすと強烈にスウィープする音色になり、攻撃的なリード・サウンドが作り出せる。いずれも、アナログの高級機に装備されている機能だが、3つすべてを装備する例はあまりない(図①)。

オシレーター出力はミキサーからVCFに送られるのだが、ミキサーのボリュームを上げるにつれ柔らかいひずみが発生する。4和音を弾いてもひずみは過剰にならないが、シンク・モジュレーションで位相をそろえると、強くひずんだ迫力のあるサウンドも可能。今や不可欠とも言えるひずみのコントロールだが、Minilogueは実に適切に配慮されている。
効きがよく美しいサウンドのフィルター ディレイにはHPFも装備
VCFは、−12dB/octもしくは−24dB/octのスロープを持つローパス・フィルターを装備。−24dBの切れ味の良さももちろんだが、−12dBのサウンドが秀逸だ。温かいサウンドのオシレーターとよくマッチし、美しく抜けのよいサウンドを作成できる。つまみの可変範囲も広く、フィルターの開閉は、カットオフつまみだけでも、さらに、プラス/マイナス両方向にかけられるエンベロープ・モジュレーションだけでも完全に行えるので、非常に幅広いスウィープ・サウンドが作成できる。 レゾナンスもよく考えられていて、通常のシンセより早く、1時ぐらいのつまみ位置から発振を始め、そこからコンスタントにレゾナンスの音量が上がり、ひずみ感も増してくる。これほど大胆に発振し、しかもその量をコントロールできるシンセは少ない。また、3段階スイッチ式のキーボード・フォロワーを、最大の100%に設定すると、レゾナンス発振のみで完全な音階演奏が行える。 EGは標準的なADSRタイプ。アタックやディケイなどのタイムが比較的短めなのが特徴だ。あまり使われない極端に長い設定をやめることで、よく使うタイム領域を細かくエディットできる賢い設計となっている。シンセ・ベースのグルーブを左右するアタック感を細かく追い込むことができて、とても使いやすい。
LFOはシーケンサーとのリズム同期も可能。速度可変幅も非常に広いので、クロス・モジュレーションのような効果も得られる。また、LFOに対しても、EGでモジュレーションがかけられる。LFOの深さにかけるとディレイ・ビブラートのような効果になるのだが、それだけでなく、LFOの速さにかけることも可能なのがユニークだ。時間とともに、ゆらぎの速度が変化するオーガニックなサウンドを作成できる。 エフェクトは、シンプルなディレイのみを装備。といっても、ここにも独自の工夫がある。ディレイにはHPFを装備していて、ディレイ音から低域を削ることができる。ベースやパッドにディレイをかけたときの低域のもたつきを抑えられ実用的だ。このHPFは、原音とディレイ音の両方にかけることもできるのだが、フィードバックつまみを下げるとディレイが効かなくなるので、HPFのみを使った音作りも可能と、これまた実に賢い。
専用ボタンで操作できるユニークで 高機能なボイス・モード
Minilogueの4つのボイスを、どのように割り当てて発音するかを決めるのが、ボイス・モード。ポリフォニック・シンセではおなじみの機能だが、Minilogueでは、8種類ものモードを装備し、この楽器の大きな特徴となっている(写真①)。

モード切替には、8つの専用ボタンが用意され、デプスつまみで各モードに応じた設定を行う。Polyモードでは、弾いた順に4つのボイスを割り当て4和音で演奏できる。通常のポリフォニック・シンセの動作だが、デプスつまみがユニークだ。回すにつれてボイスの一部がオクターブ上がり、和音で演奏すると展開形のサウンドになる。演奏中に回しても面白いし、シーケンサーに打ち込んだ後にボイシングを調節することもできる。 Monoモードは1ボイスだけを使い、クラシックなモノ・シンセのように動作する。ポルタメントやシングル・トリガーを生かした演奏が行えるわけだ。このとき、デプスつまみを回すと、残りの3ボイスがオクターブ下や2オクターブ下に加わり、サブオシレーターのように動作する。シンセ・ベースなどに重低音を付加できるわけだ。Delayモードも、モノシンセとしての動作だが、残りのボイスを遅れて発音させる。デプスつまみはディレイ・タイムの設定。エフェクターのディレイと併せて、複雑なリピート効果を作成できる。また、Unisonモードでは4ボイスをまとめて、Duoモードでは2ボイスずつまとめて発音。デプスつまみはボイス間のデチューン幅になり、分厚いリード・サウンドに最適だ。Chordモードでは、1音押さえただけでコードで発音する。デプスつまみで、マイナーやメジャー、セブンスなどコードの種類を変更できる。Arpモードは、最大4音のアルペジエイター。デプスつまみで、アップ/ダウンの向きや、オクターブ幅を設定できる。 最もユニークなのは、Side Chainモード。基本的にはPolyモード同様、ポリフォニック・シンセとして動作するのだが、デプスつまみによって、既に発音中のボイスの音量を下げられる。リリースを長く設定した音で速いフレーズを弾いても、不要な音のにごりが発生しない。また、伴奏からリード・ラインを浮き立たせるようにも使える。ほかにない機能だが、実に音楽的で使い出すとやみつきになる。

音色も記録できるシーケンサーは モーション・シーケンスが可能
Minilogueには、アルペジエイターとは別に、シーケンサーも装備。最大16ステップでリアルタイムまたはステップ・レコーディングでフレーズを入力できる。シーケンスは、鍵盤での演奏に合わせて、4つまでのつまみの動き(ステップごとの位置)の記録も可能。フレーズとともに音色が変化するモーション・シーケンスが行えるわけだ。シーケンス・データは、音色とともに保存されるので、16ステップ×200音色分のメモリーになる。店頭などで、Minilogueを見かけたら、音色を選んで演奏するだけでなく、Playボタンを押してみてほしい。それぞれの音色用に作り込まれたシーケンスが演奏されるだろう。 また、Minilogueのほぼすべてのパラメーターには、MIDIコントロール・ナンバーがアサインされていて、つまみを回すとその位置が出力される。DAWに接続して使用している場合は、演奏中につまみを動かすと記録されるので、簡単にモーション・シーケンスや音色のオートメーションが行える。 また、ベンド・レバーにも、ピッチ・ベンド以外のデータもアサインできる。このレバーだが、微妙に傾いているのが、とても使いやすい。しっかりとしたスリム鍵盤も含め、コンパクトさからは想像できないほどプレイヤビリティは良好だ。
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Minilogueでは、すべての機能やつまみに工夫がある。伝統的なアナログ・シンセの構成を踏襲しつつ、効果的なパラメーターの追加が行われている。さらに、従来からの機能に関しても、効き方や操作に対する追従が上手に作られていて、とても気持ちよく使える。まるで、シンセサイザーを熟知した設計者が、“ほら、こうすると使いやすいだろ”と語りかけてくるような親密さが感じられ、触っていて実に楽しい。また、全くの新設計の楽器でありながら、温かくにじむような厚みのある音色は、KORGのDNAを強く感じさせる。まさに、新たなビンテージの登場と言えるだろう。

製品サイト:http://www.korg.com/jp/products/synthesizers/minilogue/
(サウンド&レコーディング・マガジン 2016年5月号より)