第2回
Studio Oneでボーカル録音する際の
便利な機能について
こんにちは、田辺恵二です。前回は筆者が数あるDAWからStudio One 2(以下S1)にいかにしてスイッチしたかを書きました。本当にあらゆるDAWをいじって来たのだとあらためて認識したのですが、二十数年前の作品を聴き直してみると、作風にあまり大きな変化もなく、ちょっとそこにウケました……あまり機材は関係ないのですかね。でも昔はレコーダーやミキサーがなければなし得なかったことをやっているのですから大進歩です。それでは今回は実制作でのS1の活用法をご紹介しましょう。
パソコンのスペックの飛躍的進化でコンパクトなシステムで制作可能に
まず筆者の機材環境から紹介したいと思います。プロの機材と言えば、ものスゴいタワー型のPCにハードウェアのラック、そして数台のキーボード……といった部屋を想像するかもしれません。筆者も十数年前まではそんな感じでしたが、現在はその跡形もなく、なんとラップトップがメイン・マシンで、ハードウェアの楽器は入力用の鍵盤だけ。あとは数台のアウトボードというアマチュアの人が見たら“こんなので?”と笑われそうなものです。
ただパソコンのスペックは飛躍的に進化しているので、自分的には全く問題ない環境なのです。そのメイン・マシンはAPPLE MacBook Pro(Retinaディスプレイ)/SSD 1TB/メモリー16GB/データ用HDD 2TBで、エフェクト用にUNIVERSAL AUDIO UAD-2 Satelliteを接続しています。ホントさっぱりしていますね。この環境で作業できているポイントとして、VIENNA Vienna Ensemble Pro5(以下VE5)というソフトを使っているのが理由かもしれません。前回の筆者の浅田祐介氏も使用していましたが、このVE5を使うことでCPU効率を最適化してくれて、パソコン本来のスペックを引き出してくれるのです、S1は完全64ビット仕様ですが、このVE5を使えば64ビット未対応の32ビットのプラグインも使えます。
メイン・マシンをなぜラップトップにしているかには理由があって、マシン・パワーの進化によってほとんどのプロセスを任せられるというのもありますが、いかなる場所でも家での作業と同じことができるからです。外作業をサブマシンでやっていたこともありますが、データの連携やライブラリーの有無、作業の制限があり過ぎてストレスの何ものでもありませんでした。それが現在のマシン・パワーをもってすれば我慢することなく進められるというのは楽曲制作に集中できるわけですね。これは大きいです。そんなワークフローにおいてS1のかゆい所に手が届く機能がマッチしています。まず挙げるとすれば、先月S1にスイッチした要因の一つであると紹介した、CELEMONY Melodyneの統合です。職業作家の主な業務である作曲の中で、コンペにおけるデモ制作があるわけですが、時間の制約を考えると、ワンクリックですぐにMelodyneが立ち上がりエディットできるS1は、時短に大貢献なのです。そしてデモ段階でコーラスを入れたいときにも、複製してささっとハモを作れます。このとき単純にリージョンをコピーしてエディットし始めると元のリージョンに影響するので、一度バウンスしてから作業するのがオススメです。
快適/機敏な動作のImapctフォルダー機能で視認性もアップ
現在筆者がプロデュースしている名古屋・大須の16人のアイドル・グループ、OS☆Uの制作においてラップトップのシステムは大活躍しています。例えば作曲の際に、筆者もほかの方と同じように、テンプレートを作り(シンセ・メロ、ガイド・コード用インスト)、それが立ち上がるようにしてあります。その後ジャンルにもよりますが付属のドラム・サンプラーのImpactにキックなど、ドラム・キットをアサインして基本となるリズムを打ち込みます。このImpactですが、見た目のシンプルさとは裏腹に良い仕事をしてくれます。何よりサンプルのアサインが分かりやすく、デスクトップ、アレンジメント・ウィンドウ、ブラウザー、どこからでもドラッグ&ドロップで可能です。
これって実はほかのDAWでちょっと制限があったりしますし、何よりサンプルの管理も楽。基本何もいじらなければセーブ時にサンプルはソング・フォルダーに保存されます。Impactはエフェクトこそ搭載していませんが、パラアウトさせる場合も各スロットのアウトを変えれば自然にミキサーに反映されるなど、かゆいところに手の届くインストゥルメントなのです! しかも動作は軽くS1の売りである“軽快、機敏”という言葉がまさに当てはまります。出音も他社のサンプラーと比べてもひけをとらないので、筆者はリズムものの本チャンのインストとして常用しています。ちなみに、一からキットを作ることも可能ですが、さまざまなジャンルのプリセット・キットが入っているので、そこから選ぶこともでき、初心者にも安心です。
その後、打ち込んだオケに歌のレコーディングをします。ただOS☆Uのメンバーは全員名古屋在住、筆者は東京なので、どちらかが移動しなくてはなりません。そんなときにコスト面を考えれば、筆者が移動した方が良いのです。さらに16人のメンバーで複数曲をレコーディングしていくことを考えると、商業スタジオでは待ち時間も含め効率が悪いので、ラップトップを軸にした簡易スタジオを作り上げてしまいました! そのレコーディングの過程において重要になったのがモニタリング環境ですが、S1には簡単ながらコントロール・ルーム側とブース内のモニター・バランスを個別に行うことができます。ほかのDAWにもありますが、S1はシンプルで分かりやすく、センド&リターンの所に別色で出てきます。もちろんコントロール・ルームとスタジオで同じバランスで聴くリンクという機能もありますので、シチュエーションに応じてバランスを取ることが可能です。
こうした簡易スタジオ構築においてちょっとした便利機能も重要ですよね! ちなみにPRESONUSのオーディオ・インターフェースを使うと、S1からダイレクト・モニタリングの切り替えもできるようです。これは他社のオーディオ・インターフェースでも対応できるようになってほしいな〜と誌面でお願いしてみます(笑)。
そして、大人数のトラックを整理するのもS1なら簡単で、トラック/チャンネルごとに見え方を変えることができます。ボーカル・レコーディング、アレンジ、ミックス、そのときの作業の状態において最適なビューにできるので、とかく多くなりがちなトラックの視認性が格段に上がります。これ以外にもフォルダーにパックという機能を使えば、“オケ”と“ボーカル・トラック”を簡単に分けることも可能です。
以上、筆者の基本的なボーカル・レコーディングまでの流れを説明しました。次回はもう少し突っ込んだS1ならではの使用方法を紹介します。