【音響設備ファイルVol.29】ビルボードライブ東京

東京を代表するライブ・レストランの一つ、ビルボードライブ東京が10周年を迎え、開業以来初めてとなるスピーカーの入れ替えを行った。新規導入されたのはJBL PROFESSIONALのフラッグシップ・モデルVTXシリーズ。ラインアレイのみならず、フィルやモニターもVTXで統一されたという。導入経緯やそのメリットを聞いた。

10年先を見据えて先進のスピーカーを選択

 2007年、東京ミッドタウンの開業直後にオープンして以来、国内外のアーティストが名演を繰り広げてきたビルボードライブ東京。スティーリー・ダンがオープニングを飾って以来、桑田佳祐やエリカ・バドゥ、ローリン・ヒル、ベイビーフェイスなど、アリーナ級のアーティストを迎えた公演も多数行い、国内屈指のライブ・レストランに数えられる。そんなビルボードライブ東京は、10周年を迎えた2017年8月に、スピーカーの入れ替えという大幅な改修を行った。もともとPAエンジニアとしてのキャリアを持つ企画制作担当の大門慶太氏は、オープンから現在に至るまでの経緯をこう語る。

 「ビルボードライブ東京は、劇場のように客席がステージを取り囲む階層構造になっていて、ライブ・レストランとしてはかなり特殊な形状です。ですから開業前からずっと、オペレートを担うエンジニアと意見をすり合わせて音響調整をしてきました。その形が見えて、まとまってきたのが数年前でしょうか」

 そしてスピーカーのリプレースに至った理由を、こう続ける。

 「やはりこの10年のスピーカーの進歩は目覚ましいものがありました。ただ、この先の10年まで見据えたスペックのスピーカー導入となると、簡単ではありませんから、機種選定や予算など条件が整ったのが、この10周年のタイミングとなりました」

 そこで導入されたのが、JBL PROFESSIONALのフラッグシップ・モデル、VTXシリーズだ。

 「VTXは、リリースされた当時から気になっていました。ほかの会場で聴いて、ビルボードライブ東京が求めているサウンドに最も近い存在かなとイメージしていたんです。この10年で、ビルボードの公演内容も広がっていった……先進的なアーティストもあれば、1970〜80年代からキャリアを重ねている方の出演もあり、アコースティックな編成もある。ですので、アコースティックの雰囲気を保ちつつ、シーケンスを多用するようなエレクトロニックな音楽や、ヒップホップ、ロック、ポップス、R&B……どんなものにも対応できるレスポンスとポテンシャルを持ったスピーカーとして、VTXが一番フィットするんじゃないかと感じていたんです」

▲正面からステージを見たところ。アレイ下部が客席最前列までカバーしているのが分かる ▲正面からステージを見たところ。アレイ下部が客席最前列までカバーしているのが分かる
▲Rch側のアレイ。最上部にサブウーファーのVTX-G28、3ウェイ・フルレンジのVTX-V20×2に続いてサブウーファーのVTX-S25×2、その下にVTX-V20×6でJアレイを構成する。サブウーファーが上部や中間に位置するのは、階層構造の客席全体にローの量感を届けるための工夫 ▲Rch側のアレイ。最上部にサブウーファーのVTX-G28、3ウェイ・フルレンジのVTX-V20×2に続いてサブウーファーのVTX-S25×2、その下にVTX-V20×6でJアレイを構成する。サブウーファーが上部や中間に位置するのは、階層構造の客席全体にローの量感を届けるための工夫
▲ビルボードライブ東京で企画制作を担当する大門慶太氏(左)と、サンフォニックス所属エンジニアの奥出幸史氏(右) ▲ビルボードライブ東京で企画制作を担当する大門慶太氏(左)と、サンフォニックス所属エンジニアの奥出幸史氏(右)

モニターやアウトフィルもVTXで統一

 実際にVTXを導入して、大門氏は「音の密度が濃くなったと感じました」とその印象を述べる。

 「最初の使用が葉加瀬太郎さんのイベントだったのですが、アコースティックで静かに音を出していても、空気感や息遣いが表現できる。密度と音の速さが秀逸だと思います」

 サンフォニックスに所属するビルボードライブ東京担当のサウンド・エンジニア、奥出幸史氏がこう続ける。

 「VTX-V20は3ウェイで高域ドライバーも3基入っているので、余裕があってハイにひずみが少ないですね。このサイズのラインアレイをこれだけ近いところで鳴らす会場はあまりないので、音量をあまり出し過ぎないような設定にしています。それと、ここはステージの内部にアレイが来るような設定で、従来のスピーカーからモジュールが2本下に増え、水平指向性が75°から110°に広がった分、ステージへのカブリも考慮しなければならなかったのですが、そこは音量調整でフォローしました。最前列は以前はインフィルだったのですが、今はラインアレイでカバーできるようになりました」

 ビルボードライブ東京では、ステージのほぼ真横にも客席がある。そのため、VTXラインアレイが水平110°の指向性を持っていると言えども、カバー・エリアを補うアウトフィル・スピーカーは欠かせない。今回、これもポイントソース・モデルのVTX-F12を採用。なんと、ウェッジ・モニターもVTX-M20を使用し、ほぼすべてのスピーカーがVTXでそろうことになった。奥出氏はこう説明する。

 「導入前にVTX-M20のパッシブとバイアンプの違いを検証したんですが、バイアンプにしたら音が素直で良かったんですね。なのでぜいたくですがモニターもバイアンプ仕様にしました。ドライバーが同じなので、メイン・スピーカーのカブリとも奇麗に混ざってくれるんです。特性もフラットなので、調整もわずかにローカットするだけで済みました。それによってハウリング・マージンが稼げ、アーティストからも好評ですね」

 なおパワー・アンプは、VTXシリーズの推奨機であるAMCRON(現CROWN) I-Tech HD Seriesを使用。モニター用も含めすべて200Vで駆動しているそうだ。こうした大々的な刷新は、観客からも好評。「スピーカーが替わって音が良くなった」という声が多いという。最後に大門氏がこう語ってくれた。

 「音楽ジャンルもミクスチャーになってきた今、ワールドワイドでニーズのある音、安定的かつ新しいものという選択をした結果です。海外アーティストからのライブ会場へのオーダーも、時代に応じて目まぐるしく変わってきています。我々としては、ビッグ・ネームの来日にも耐えうるクオリティを常にアップデートしていきたいですし、フードやサービス、照明を含む演出でお客様の期待に対する新しい提案をしていきたいと思っています」

▲D2デュアル・コンプレッション・ドライバーと10インチ・ウーファー×2基を備えたウェッジ・モニターVTX-M20をバイアンプで使用。ラインアレイと同じVTXなので、ステージにかぶるラインアレイの音と奇麗に混ざり、ハウリング・マージンも高いという ▲D2デュアル・コンプレッション・ドライバーと10インチ・ウーファー×2基を備えたウェッジ・モニターVTX-M20をバイアンプで使用。ラインアレイと同じVTXなので、ステージにかぶるラインアレイの音と奇麗に混ざり、ハウリング・マージンも高いという
▲ステージ両サイドにサウンドを届けるアウトフィル用には、VTX FシリーズのVTX-F12を2基使用。仮設のインフィルにも同じものが2基用意されている。VTXシリーズと同じD2デュアル・コンプレッション・ドライバーを採用するため、メインのラインアレイの印象を保ったまま、カバー・エリアを広げることができるそうだ ▲ステージ両サイドにサウンドを届けるアウトフィル用には、VTX FシリーズのVTX-F12を2基使用。仮設のインフィルにも同じものが2基用意されている。VTXシリーズと同じD2デュアル・コンプレッション・ドライバーを採用するため、メインのラインアレイの印象を保ったまま、カバー・エリアを広げることができるそうだ
▲ステージ前方のコーナー。以前はここにインフィル・スピーカーが置かれていたが、ラインアレイのカバー・エリアが広がったため、インフィルが不要に。客席からステージが見えやすくなった。ケースに応じて設置できるよう、設置位置のマークと回線は残してあるが、ほとんどの場合インフィル無しで対応できる ▲ステージ前方のコーナー。以前はここにインフィル・スピーカーが置かれていたが、ラインアレイのカバー・エリアが広がったため、インフィルが不要に。客席からステージが見えやすくなった。ケースに応じて設置できるよう、設置位置のマークと回線は残してあるが、ほとんどの場合インフィル無しで対応できる
▲AMCRON(現CROWN)のDSP内蔵パワー・アンプが並ぶマシン・ルーム。4ch仕様のIT4x3500HDが計10台と、2ch仕様のIT12000HDが4台並んでいる。その上にあるのはMUTECのAES/EBUディストリビューターMC-2×4で、コンソールのAES/EBUアウトを分配し、各アンプへデジタル接続するために用意されている ▲AMCRON(現CROWN)のDSP内蔵パワー・アンプが並ぶマシン・ルーム。4ch仕様のIT4x3500HDが計10台と、2ch仕様のIT12000HDが4台並んでいる。その上にあるのはMUTECのAES/EBUディストリビューターMC-2×4で、コンソールのAES/EBUアウトを分配し、各アンプへデジタル接続するために用意されている
▲モニター卓のそばのアンプ・ラックは、VTX-M20用やVTX-F12用として7台のIT4x3500Hがスタンバイ。これらのスピーカーはバイアンプで駆動しているので、コンパクトに多チャンネルがまとまるメリットは大きい ▲モニター卓のそばのアンプ・ラックは、VTX-M20用やVTX-F12用として7台のIT4x3500Hがスタンバイ。これらのスピーカーはバイアンプで駆動しているので、コンパクトに多チャンネルがまとまるメリットは大きい

■関連リンク
ビルボードライブ
http://www.billboard-live.com/

JBL PROFESSIONAL VTX Vシリーズ 製品情報
http://proaudiosales.hibino.co.jp/jblpro/3925.html

サウンド&レコーディング・マガジン2018年1月号より転載