4つのハードから成るVI7000/VI5000
渋谷/梅田/名古屋/広島の全4店舗を展開するクラブ クアトロ。名古屋クラブ クアトロ(以下、名古屋クアトロ)は1989年にオープンした店舗で、名古屋では中堅クラスのキャパシティを有している。
同店ではFOH用のコンソールとしてMIDAS Heritage 2000、モニター用としてYAMAHA PM4000の計2台のアナログ卓を使ってきたが、昨秋に前者をSOUNDCRAFT VI7000、後者をVI5000にリプレイス。デジタル卓メインの設備で新たなスタートを切った。
VI7000とVI5000は同社デジタル卓のフラッグシップ、VIシリーズの次世代モデル。Surface(コントローラー)、Standard Stage Box(I/O)、Local Rack(エンジン)、Active Breakout Box(PA席のためのI/O)の4つのハードウェアから成り、VI7000は32本、VI5000は24本のチャンネル・フェーダーを備えている。
名古屋クアトロのインプットは最大48ch。それらはマルチボックスにまとめられた後パッチ盤へと入力され、VI7000とVI5000のそれぞれのStandard Stage Boxに分岐している。Standard Stage BoxとPA席のLocal Rackは、CAT5のイーサーネット・ケーブルで接続。ステージからの信号は、卓の内蔵プロセッサーやActive Breakout Boxにつながったアウトボードで処理されている。
インプットの設備が明らかになったところで、名古屋クアトロのPAエンジニア富永充氏に、VI7000とVI5000の導入動機を聞いてみよう。
「リプレイスを考えたのは、Heritage 2000のリペア用パーツが入手しづらくなったからです。それにPM4000も生産完了品ですし、“そろそろ替え時かな”と思って。そんな折、VI7000とVI5000が発表されたわけですね」数あるデジタル卓の中からこの2つを選んだのは、なぜなのだろう?
尋ねてみると、梅田クラブ クアトロで使われている同社のVI6とVI4がきっかけとなったようだ。
「シリーズ機同士でショウ・データを共有できるので、何かと便利だろうと思ったんです。リプレイス後は“今度梅田に出るバンド、うちにデータがあるんだけど送ろうか?”といったやり取りが生まれたり、乗り込みのエンジニアの方がほかのライブ・ハウスのVI3000などで作ったデータを持ち込めるようになりました」
STAFF
Equipments その①
2台のクロック・ジェネレーターを常設
次に卓としての音質について尋ねると「デジタル、デジタルしていない印象です」との答えが返ってきた。
「デジタル卓とアナログ卓の大きな違いは、低域の出方だと思うんです。例えばキックの量感などは、アナログ卓を使った方がしっかりと再現されるイメージです。またそれよりも少し上の帯域……70〜80Hz辺りも出方が全然違うと思います。でもVI7000とVI5000なら、その辺りもアナログ卓に近い感じで出てくるんですよ。あとアナログの時代から分離にこだわって音作りしてきましたが、リプレイス後はさらに良くなりました。フェーダーをそこまで上げなくても音の一つ一つが抜けてくるし、例えばエレキギターの出音などはアンプの真ん前で聴く音とよく似ています。きっと再現性が高い卓なのでしょう。Heritage 2000の音を気に入っていたので、リプレイスの際は音質の変化が不安材料でしたが、見事に払拭されました」
VI7000とVI5000のAD/DA変換は、標準状態で40ビット/48kHz。名古屋クアトロもこのビット&レートで運用しているが、クロックについてはインターナルではなく外部のクロック・ジェネレーターで賄っている。VI7000の傍らにあるANTELOPE Isochrone OCXとBLACK LION AUDIO Micro Clock MKIIIがそれだ。
「デジタル卓を導入してから、クロックによって音が大きく変わることを実感しました。2台のクロック・ジェネレーターはいずれも音の押し出し感を強めてくれますが、名古屋クアトロにはMicro Clock MKIIIの方が合っていると思います。ライブ・ハウス向きの音になるというか、Isochrone OCXよりも重心が下がり、さらなる押し出し感が得られるんですよ。そういうわけで普段はMicro Clock MKIIIを使っていますが、選択肢の一つとしてIsochrone OCXも常設しています」
Equipments その②
ボーカル処理に有用なダイナミックEQ
ミキシングで重宝しているのは、コンソールの“ビストニクス・タッチ・スクリーン”や内蔵ダイナミックEQのDPR-901 IIだという。ビストニクス・タッチ・スクリーンとは、チャンネル・フェーダーやパン・ポットのすぐ上で、ゲインやチャンネル・エフェクト、AUXセンドなどの情報を映し出すディスプレイ。各種情報がフェーダーと対応するように縦割りで表示されるため、アナログ卓のチャンネル・ストリップさながらだ。またエディットしたいセクションにタッチすると、そのパラメーターがスクリーン直下のエンコーダーやスイッチにアサインされるので、視線を大きく動かすことなくオペレートできるのも特徴。富永氏は「アウトボードを触るのに視線を動かしていたことを思うと、視認性が高まったと言えます。またエンコーダーの反応速度や“これだけ回せばこのくらい上げ下げできる”といったゲイン構造もよくできていますね」と語る。
ダイナミックEQのDPR-901 IIに関しては、どのような印象を抱いているのだろう?
「使いやすいですね。特定の帯域を一時的に上げ下げできるので、声のピークを抑えるのによく用いています。最近は1曲の中でさまざまに声音を変化させるボーカリストが増えているため、場面場面に合わせてリアルタイムにEQ特性を変えられるのはとても便利です。全4バンドですが、気付けば全部使っていることもしばしばですね」
ステレオ・ミックスはActive Breakout Boxから出力された後、グラフィックEQなどを経てXTA ELECTRONICS DP224で低/中/高の3つの帯域に分割される。それらがパワー・アンプのL-ACOUSTICS LA24Aに送られ、同社のフル・レンジ・スピーカーArcsとサブローのSB218から客席へと出力される流れだ。
本文の中では紹介し切れなかったが、デジタル卓を導入した今もアウトボードの数々を残している名古屋クアトロ。卓の内蔵プロセッサーと組み合わせればまさに音作りの幅は無限大ということで、乗り込みのPAエンジニアにとってもイメージを具現化しやすい設備だろう。