
SSL G-Channelで中〜高域を強調
今回編集部からご依頼を受けて、まず思い浮かんだのはWAVES SSL G-Channelです。アナログ・コンソールSSL SL4000Gのチャンネル・ストリップを再現したプラグインで、4バンドEQやダイナミクス・エフェクトを装備。僕は中でも4バンドEQを愛用しています。
ご多分に漏れず僕もソフト・シンセをメインに曲を作っていて、例えばキーボード・ソロにはARTURIA Mini VやNATIVE INSTRUMENTS Massiveといった、アタック成分の強いモデルを使うことが多いです。MOOG Minimoog Voyagerなどのハード・シンセも所有しているのですが、それらに比べてソフトの音はコンプレッションしたときにアタックがハッキリと出てくるので、タイミング(グルーブ)を厳密にコントロールすることが可能。特にドラムが打ち込みの曲では、他パートをソフト・シンセで作ることでタイミングを調整しやすくなると思います。

そんなわけでソフト・シンセをよく使うのですが、幾らアタックが強いとはいえ、エレキギターなどの生音をオーバー・ダビングすると埋もれがちになるのが悩ましい。そこでSSL G-ChannelのEQです。キーボード・ソロであれ何であれ、中〜高域をほんの少し上げるだけで見事に前へ出てきます。ほかにはベース(SPECTRASONICS Trilianをよく使います)の“動き”を強調したいときに1kHz以上を持ち上げたり、スネアのスナッピー(ドラム音源はFXPANSION BFDなど)を効かせる際に3.5kHz辺りをブーストするなど、さまざまなパートに活用中です。
僕はSEGAで音楽を作っているころに、スタジオで実機のGシリーズの音をよく聴いていました。SSL G-Channelは実機の特性を高度に再現していて、音を引き締めて整理してくれる傾向です。だから音数が多い曲で、特定のパートを少し立たせたいときなどに効果的です。
脚色を感じないREQでミックスの下準備
SSL G-Channelは何を通してもSSLっぽくなるので、色付けしたくない場合はWAVES Renaissance EQ(6バンド・バージョン/以下、REQ)を使うことが多いです。僕はREQをコンソールのチャンネルEQのように扱っていて、楽曲内のほとんどの音源に挿しています。つまり基本的な音作りは“REQありき”です。カット方向で使うことが多く、その音のピーキーな帯域を切ってからミックスを始めるというやり方です。ピーキーな部分はどうやって見つけるの?と言われそうですが、方法は簡単。Q幅を極端に狭めてゲインを上げ、音を鳴らしながら低域から高域までスウィープさせるだけです(モニター音で耳を傷めないよう注意)。するとピーキーに聴こえる帯域が見つかるので、そこをQ幅狭めでカットする要領です。

ソフト音源には、モデルによって“たまりやすい帯域”があるため、そうした部分を切ってからミックスを始めることで全体が飽和しにくくなります。DAW完結のミックスでは、全パートが同一のデジタル・ドメインで処理されるため飽和しやすく、こうした下処理が大事になってくると思います。それでミックスしている最中に“このシンセ、もうちょっとパンチが欲しいな……”などと思ったら、そのときにEQでカットした帯域を戻せば良いのです。
ここまでEQを紹介してきましたが、CELEMONY Melodyne Studio(以下、Melodyne)で面白いことができるので解説しておきます。Melodyneはピッチ補正ソフトとして知られていますが、オーディオをインポートすると一つ一つの音のピッチやタイミング、ボリュームなどを調整できるという多機能ぶりです。DNA(Direct Note Access)というアルゴリズムを実装し、例えばコードのオーディオを読み込むと構成音の変更なども可能。また解析結果をスタンダードMIDIファイルに書き出せるので、工夫次第で面白い使い方ができるでしょう。
先日、とあるセッションでギタリストからワンコードのギター・トラックをもらったのですが、受け取った後で“ワンコードだとやっぱり面白みに欠けるから、クリシェ(和音の内声を半音ずつ動かして変化を加えること)させよう”という話になりました。普通なら録り直しになるところですが、Melodyneがあればその必要はありません。ギター・トラックを解析すればコード構成音のそれぞれをエディットできるようになるため、クリシェも自在です。

MIDI書き出しの機能も便利。例えば生ドラムをマルチマイクで録った後、キックだけをエレクトロニックなサンプルに差し替えたくなったとします。そうしたときはキック・トラックを読み込んで解析し、カブりを消すなどしてからMIDIエクスポートして、ドラマーのプレイ・タイミングだけを抽出。そのMIDIをDAWのトラックに張り付ければ、人間的なグルーブでサンプルを鳴らせるわけです。
GTR3 Ampでほんの少し特性を変える
ギターと言えばアンプ・モデリングのWAVES GTR3 Amps(以下、GTR)も有用。僕が打ち込みに使っているAPPLE Logicにもアンプ・シミュレーターが標準搭載されているものの、GTRの方が音のバランスが良いと思います。GTRには普通にエレキギターを通すことも多いのですが、実はソフト・シンセにも効果的。皆さんは“リズム・マシンを録音するときはアナログ・ミキサーなどでひずませてから録った方がいい”という話を聞いたことはありますか? 電子音をミキサーのヘッド・アンプなどでひずませるとおいしい帯域が上がったり、ガッツが出たりするんです。僕はこれと同じ効果をGTRで得ています。
アレンジにもよりますが、ソフト・シンセはクリーンな状態で鳴らしていると差が出にくくなります。しかし主役にしたいシンセをGTRで少しひずませるとキャラクターが変化し、オケ中で際立ってくるのです。僕なりの使い方のコツは、キャビネットを用いずにアンプ・ヘッドのみを使うこと。アンプのキャラを付けるためにGTRを使うのではなく、原音の特性をちょっと変える方向で用いるので、ヘッドだけで十分なのです。とは言え、ひずませるとガッツが出てくるので、この技は繊細な雰囲気の楽曲ではなくリズミックな曲で実践することが多いですね。

MaxxBassで低域の存在感を自然に強調
WAVES関連でもう一つ紹介しておくと、低域エンハンサーのMaxxBassもよく使う一品。これをベースに挿すと基音より少し上の帯域だけが持ち上がります。ベースと言えば低域成分が重要ですが、アレンジ全体を考えると中〜高域の成分に着目すべき場合もしばしば。例えばフレーズの動きが見えにくいときなどがそうです。こうした場合にMaxxBassを挿してみると音の輪郭が出てきて、ラインがよく分かるようになります。

輪郭を出すためにEQを使うこともありますが、MaxxBassの方がおいしいところがしっかりと出てくるイメージです。またEQだと特定の帯域しか上げ下げできませんけれど、MaxxBassはノートの動きに付いてくる感じがあるので、そこは大きなポイントですね。輪郭を立ててもギターや歌のおいしい帯域とかぶりにくいし、キックとの兼ね合いを見ながら調整すればベース音色の印象を変えることなく存在感を強めることができます。アレンジ中にドラムなどを差し替えたせいでベースの聴こえ方が変わってしまった……ということがあったりするでしょうが、そういうときにベースの重心をコントロールして“抜けるポイント”を探すのにも有用だと思います。
僕はWAVESに頼ることが多いんですが、それは最初に覚えたプラグインだからで、作業がスムーズに進められます。バンドルだけで済ませることなく、単体製品もバンバン買っているので、自分にとっての基準ですね。
【TOPIX】MaxxBassの仕組みについて
MaxxBassは、入力シグナルに倍音を付加することで、存在しないはずの基音を人の耳が補正して認識する、という音響心理学的な効果をもたらします。これにより、スピーカーが再生可能な周波数特性を、最大で1.5オクターブ下まで拡張して認知させることができます。
その仕組みは、まず入力シグナルをクロスオーバーによって2つの帯域に分割し、低域の方を分析して周波数に沿った倍音群を作り出します。ダイナミクスやラウドネスといった要素はオリジナルの低域成分を元にするため、非常に自然な倍音が生成されます。これらの倍音の帯域やダイナミクスをハイパス・フィルターやアップワード・コンプレッサー、ディケイなどのパラメーターでさらに調整。最初に分割されてできた低域&高域成分と再合成して出力します。
MaxxBassは、EQなどで低域をブーストする場合とは異なり、ほかの帯域への干渉を抑えつつ、低域の音像感を保ったまま量感を制御できます。このため、杉山さんの言葉通り他パートの“輪郭”に影響することなく、ベースの音像感や量感を調整することが可能なのです。
(解説:メディア・インテグレーションMI事業部 サポート岡田裕一)