
1本のループを曲に膨らませるには
一体どうすればいいのだろう……?
前回まで紹介してきた通り、私は1つのループ(パターン)から楽曲を作っていきます。皆さんの中にも、ループをメインに作るのが好きという人が居るでしょうが、同時に“かっこいいループができても、曲に膨らませる方法が分からない”とお困りの方も多いのでは? そこで今回は、私が経験の中で培った“ループを曲に発展させるコツ”を解説したいと思います。作業のパートナーは、もちろんIMAGE-LINE FL Studio 12です!
各パートをミュートしたりソロにして
ループのバリエーションを作る
私はニューワールドアクアリウム「The Force」やフレデリック・ガリアーノ「Multiples Un」など多くの楽曲に出会い、ループ・ミュージックの魅力を知りました。例えば「The Force」は、緊張感のあるフレーズが約10分繰り返される曲なのですが、何かしらのパートのボリュームやフィルターが常にジワジワと変化し続けます。なので“展開を作る”のではなく“聴こえ方を工夫する”ことで変化を付けているというわけです。
それでは、私がどのような方法を採っているのか紹介しましょう。ステップ・シーケンサーでループ(パターン)を作ったら、“Clone”機能で幾つか複製して、1つのパターンに1〜2パートとなるようエディット。つまり元のループをバラすわけです。例えばパターン1はキックとスネア、パターン2はハイハットだけ、パターン3はミュージカル・パート(上モノなど)、パターン4は声素材/その他……といった具合です。こうすることで、プレイリスト上に並べた際、どの楽器がどのタイミングで鳴っているか一目で分かるようになり、構成を把握しやすくなります。
バラしたパターンの並べ方については、すべてのパターン(上の例で言えばパターン1〜4)を30秒分くらいでいいので、繰り返しになるようつなげて配置。それからプレイリスト左のミュート/ソロ・ボタンを付けたり消したりしてみます。キックだけを抜いて聴いてみたり、ミュージカル・パートとパーカッションだけの組み合わせで聴いてみるなど、各パートの組み合わせでどんな聴こえ方になるのかを確認しつつ、採用する組み合わせを決めていきます。このようにして、元のループに含まれていた音だけを使って、できるところまで展開を作ります。

“もうこれ以上広げられない”と思ったら、できているところを丸ごとコピーして、3〜10回ほどペーストします。私の場合は、この時点で全体が5分前後になるところまでペーストを続けます。何となくプレイリストが埋まって、いったん達成感を味わうことができます(笑)。

打楽器のサブループを作成し
エディットしながら使う
冗談はさておき、ここからが本題です。曲全体を見渡しながら変化を付けていく作業に入ります。と、コワイ言い方をしてしまいましたが、“変化”と言っても構える必要はありません。人間の耳は思いのほか敏感にできているらしく、少しの変化でも“あ、何かが変わって曲が展開したな”と感じ取ることができるからです。なのでループ・ミュージックにおいては、必ずしも突飛なこと/大変なことをして展開を作る必要は無く、少しの変化でも十分に曲が成立するものだと考えています。
では、どのような方法で手を加えるのでしょう? 私はまず、曲を大きく前半と後半に分けて考えます。そして後半の一番盛り上げたい部分に向けて、徐々に音色/音数が増えるようにします。その流れの中で、具体的に何をやっているのか一例を挙げてみましょう。
①リズムにバリエーションを付ける
リズム(打楽器)に変化を付けると、それだけで曲を展開させることができます。最も手軽なのはリズムのミュート。基本的に曲の始まり/ブレイク/終わりの3カ所は、リズムを抜くチャンスがあると考えてよいと思います。
とは言えリズムはほとんどの個所で鳴っているため、最初の方は打楽器の抜き差しで展開を付けられたとしても、後半には飽きてしまうことがあります。そうした場合は、初めのループで使ったのとは異なる音色でパーカッションの“サブループ”を作成。これを最初のループとともに鳴らすわけです。ボンゴなど軽い響きの素材で作ったり、小節の頭でライド・シンバルなどの少し華やかさが出る音を鳴らすなどします。

こうして作ったサブループは、そのまま使う必要はありません。あくまで変化のためのパターンなので、プレイリスト上でリージョンを4つくらいに分割して、そのうちのどれかを削除したり、順番を入れ替えるなどします。
②ディレイで変化を作り出す
続いてはディレイを使う方法です。タイミングは1/8もしくは1/8T(8分音符の3連)、送りレベルは最大が5割程度にすることが多いです。ハイハットやスナップなどに時折かけるだけで、バリエーションを出すことができますよ。また、盛り上げたい部分でホワイト・ノイズ混じりのパッドなどにかけると、ふくよかになってサビらしい感じになります。センド・レベルにはマウスでオートメーションを描きます。過剰にする必要はありませんが、少しで構わないので常にレベルが動くよう設定しています。


③コードの“転回”を使う
オシャレな転調がナチュラルに入れられたらとてもカッコ良いですが、和声の知識がとぼしい私は“転回”で変化を付けることがあります。転回とは、コードの構成音はそのままに、積む順序を変えることで響きの印象を変化させる手法です。不思議なもので、ルート音をオクターブ上に持ってきたり、構成音の順番を入れ替えるだけでもコード感に新鮮味を与えることができます。また、コードを転回させるときは、音色も別のものに変えるとさらに効果的だと思います。

どうやって展開させればよいのか分からなくなってしまったときは、焦らずに落ち着いて聴き直します。通して聴いてみて、この辺で変化が欲しいと思う部分を見つけることから再度始めてみると良いと思います。
さて私の担当連載は、今回で最後となります。4回にわたり、ありがとうございました。またどこかで!
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