
“上モノとしても使えるボーカル”を
レコーディング&プロセッシングする
前回までは、私の楽曲制作の基盤となるループの作り方とそのブラッシュアップの方法について解説してきましたが、今月は楽曲を彩る“上モノ”としても有用なボーカルのレコーディングについて紹介します。
録ったそばから編集できるよう
Edisonに直接レコーディング
私は自分の声をIMAGE-LINE FL Studioに取り込んで、楽器のように扱うことが多いです。声を積極的に使うようになったのは、“どう転んでも個性的にできるから”。声のキャラクター(フォルマント)は十人十色なので、それを取り入れることで、曲を手っ取り早く自分らしい感じにできると思っています。
録音に使っているのは、コンデンサー・マイクのOKTAVA MK-319とポップ・ガードのSEIDE MPG-100、オーディオI/OのSTEINBERG UR22MKIIです。これらを準備したら、FL Studioの中にボーカル用のトラックとミキサー・チャンネルを作成し、インプットのメニューからオーディオI/Oのマイク・インを選びます。


次は声をどこに録るかです。私は普段、FL Studioに標準搭載のプラグイン・オーディオ・レコーダー/エディターのEdisonに録音しています。いわゆるサンプラー的なプラグインですが、そこに直接録っているわけですね。というのも、複数のコーラス・パートを細かく分けて録音することが多く、録ったそばからエディットして保存するようにしているからです。録り音の前後にできるブランク(無音部分)などをカットしたり、ノーマライズをかけるなどして下処理を済ませておくと、ボーカル・トラックを構成するときが楽ですよ。
チャンネルにはEdisonのほか、ミックス時にエフェクトを挿しておきます。完成形に近い音を聴きながら録音するわけですが、それだけでトラックへのなじみ方が大きく変わってきます。エフェクト・チェインの一例を挙げておくと、ローカット用EQ→“On input”モードのEdison→ゲート→サード・パーティ製コンプのPSP VintageWarmer2→リバーブやFL Studio純正のピッチ補正プラグインPitcherなど。Edisonの“On input”モードとは録音モードの一つで、Edisonに音声が入力された瞬間に録音が始まるというものです。出だしのブレスなど、弱い音を録り漏らさないように注意が必要です。

声を曲の中でどう使いたいかで
録り方を変えている
さて、ボーカルの録音は基本的に、トラックの大半を作った後でどんなふうに声を使ったら良いのか見極めてから開始します。一口に声と言っても、メイン・ボーカル、ハーモニーを重ねて響かせるコーラス、ビートに混ぜ込んで“変わり種のリズム素材”として使う場合など、いろいろな用途があります。なので、声を曲の中でどんな役割にしたいかによって録り方を変えているのです。
例えばマイクとの距離は、5〜10cmを基本としています。近付いて録るとメイン・ボーカルらしい“近い音”になりますが、近付き過ぎるとハイがこもってピッチが取りづらくなるので、注意しながら距離を調整しています。
録音に使っているコンデンサー・マイクは音を繊細に収めるので、距離だけでなく高さにも気を付けています。ツンと響くような“声の芯”を入れたくない場合は、ダイアフラム(収音部)の中心を外すようにやや下か上をめがけて歌います。こうすることで、ほかのパートになじみやすい録り音が得られるのです。ちなみに録音のときはリラックスしていたいので、いすに座ることにしています。高さを調整できるいすで、マイクを動かさずにポジションを変えられるため一石二鳥というわけです(笑)。
録り終えた声に物足りなさを感じたり、トラックとの混ざり具合が悪いときはダブルにします。方法は、録り音のクリップを別のトラックにコピーし、一方の発音タイミングを少しズラすだけ。ふくよかな音像になりますが、より自然な感じにしたいときは、同じフレーズを2回録って重ねます。マイクとの距離を1回目と2回目で少し変えると重ねたときの量感を調整できるので、オケとのバランスも考えつつ好きな響きに聴こえる位置を探しましょう。

歌のピッチを取るのが苦手な人には、FL Studio純正のピッチ補正プラグイン=Pitcherがお薦めです。先述の通り、録音時にチャンネルへインサートするのですが、Edisonよりも後段に挿すため、モニター音だけにかかって聴こえます。完成形に近い音をモニタリングすると気持ち良く歌えますし、ケロケロ具合を調整/確認しながら録音できます。ミックス時は補正のスピード(SPEEDノブ)をあえて“FAST”にして、深めにかけると楽曲の良いアクセントになると思います。

複数のハーモニー・パートは
パンニングを工夫して聴かせる
ここからは、声を楽曲の中でどう使っているか、事例を交えて紹介します。例えば「Face」という曲では、シンセ・パッドのように鳴らしています(https://soundcloud.com/flaurecords/noah-face?in=flaurecords/sets/noah-mood)。こうした“トラックの背景”になるようなパートにする場合はオフマイクで収めることが多く、サイド・チェイン・コンプなども思い切りかけて、楽器の音と同列で鳴らすイメージです。
ハーモニーを聴かせるときはパンニングを工夫します。ダブルと同じ要領でハーモニーをソプラノ/アルト/テナーといったパートごとに2回ずつ録り、それぞれを左右に振ってステレオ感を拡大。基本的には低音楽器が中央にあるので、ハーモニーは左右に配置することが多いです。一番低いものを振ると、よく聴こえて効果的ですね。またオクターブ違いの音や、地声と裏声を重ねるとさらに印象深くなります。「nemui pj」などの楽曲で実践しているので、聴いてみてください(https://soundcloud.com/flaurecords/nemui-pj-pumpkin)。

普段自分の声を使わない人も、声という一番身近な楽器を試してみてはいかがでしょう? 奥深くて面白いですよ。私の連載は次号でいよいよ最終回です。お楽しみに!
FL Studio シリーズ・ラインナップ
FL Studio 12 All Plugins Bundle(99,990円)
FL Studio 12 Signature Bundle(パッケージ版のみの販売:31,000円)
FL Studio 12 Producer Edition(24,000円)
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