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EDMの肝=キックを強化し
海外レベルの“足回り”をゲット
トラック・メイカーのJapaRoLLです。今回はクラブ・ミュージックで一番重要となるキックにスポットを当て、海外レベルの“足回り”の作り方を紹介します。
まずはEdisonでキーを調べ
曲のキーに合わせてピッチを設定
クラブ・ミュージック、特にEDMではキックとベース・ラインですべてが決まると言っても過言ではありません。今回テーマにするキックは、それほど重要なパートなのです。皆さんは普段、どのようにしてキックを作っていますか? 僕はオリジナルのサンプル・キックを幾つか持っているのですが、イチから作り始める場合は市販のサンプルなどをIMAGE-LINE FL Studioのプレイリストに並べるところから出発します。とりわけサード・パーティ製のVENGEANCE SOUND Vengeance Essential Club Soundsシリーズに収録されているサンプル・キックは優秀で、EDMに限らずハウス・ミュージックからヒップホップまで幅広いジャンルに対応可能です。
さてサンプルはプレイリストにそのまま張り付けてもいいのですが、そこはやはり自分の理想により近付けたいところ。そこで音作りが必須というわけですが、まずはサンプルを幾つか聴き比べ、自分の理想に近いキックを探しましょう。僕は今回、Vengeance Essential Club Sounds Vol.2に収録の“Bassdrum”を選びました。プレイリストに置いた波形を見てみると、アタックが強くてテール(余韻)の長いロング・キックということが分かります。
![▲本稿の題材として使ったキックのサンプル。画面は1拍分で、アタック(ピンク枠の辺り)が強く、リリースの方(青枠の辺り)まで音量が大きいロング・キックである](https://rittor-music.jp/sound/wp-content/uploads/sites/7/2017/08/1スクリーンショット-2017-08-02-13.33.58.jpg)
キックを並べたら、最初に“キー”を調べます。これは、曲のキーとキックのキーを合わせる必要があるためです。手順としてはまず、ミキサーにFL Studio付属のオーディオ・エディターEdisonを立ち上げ、キックをドラッグ&ドロップ。次にEdisonの画面で旗マークをクリックし“Detect Pitch Regions”をクリックするとキーが検出されます。このキックはアタックがA2、テールがG2と解析されました。僕はこのようにしてキックのキーを調べ、トラック制作をスタートさせることが多いです。そして今回テールはカットするので、“G2”は無視します。
![▲Edisonの旗マーク(ピンク枠)のメニューには、読み込んだオーディオのピッチを解析するメニュー(青枠)がある](https://rittor-music.jp/sound/wp-content/uploads/sites/7/2017/08/2スクリーンショット-2017-08-02-13.34.21-のコピー.jpg)
キーを変更するときは、Edisonの右上にある時計マーク(Time stretcher)をクリックし、出てきた画面の左上“Pitch coarse”を調整します。例えばこのキックの場合、メインのキーはAです。これをDに変えたい場合は、Pitch coarseを+5セミトーン(セミトーン=半音)上げます。どのくらい上げていいか分からない場合はピアノロールを立ち上げ、オリジナルのピッチから希望のピッチまで半音が幾つあるかを数えましょう。AからDまでは5つの半音があるので、+5セミトーン上げたわけですね。この方法はキックだけでなくほかの打楽器にも使えるテクニックです。キーを統一することで、全体のバランスがかなり良くなるのでぜひ試してみてください。
![▲EdisonのTime stretcher。Pitch coarse(ピンク枠)というパラメーターでオーディオのピッチを半音単位で調整できる](https://rittor-music.jp/sound/wp-content/uploads/sites/7/2017/08/3スクリーンショット-2017-08-02-13.34.44.jpg)
![▲Edisonでピッチを解析したところ。アタック成分にはA2、リリースの成分にはG2と表示されている(手前の画面はその部分を拡大したもの)。なおEdisonは、FL Studio 12 All Plugins Bundle(99,990円)、FL Studio 12 Signature Bundle(パッケージ版:31,000円)、FL Studio 12 Producer Edition(24,000円)に標準搭載されており、FL Studio 12 Fruity Edition(12,800円)には入っていない。また、Signature Bundle以外はbeatcloud(https://beatcloud.jp/)にてダウンロード購入できる](https://rittor-music.jp/sound/wp-content/uploads/sites/7/2017/08/4スクリーンショット-2017-08-02-13.35.02.jpg)
キックの無いところにベースを配置
Gross Beatで余韻の長さを調整
次はキックの長さを調整します。先ほど“テールはカットする”と書いた通り、今回は短めのタイトなキックを作成。ここで最初に注意していただきたいことがあります。長いキックを使用する場合は短いサブベースやベース・ラインを、短いキックを使用する場合は長めのサブベースやベース・ラインを用いるのが基本です。長いキックと一緒に長いサブベースやベースを鳴らすと、お互いの音域や特徴を打ち消し合ってしまいます。もちろんバランスも悪くなりますし、何よりミックスの際にかなり苦労すると思います。考え方としては、キックの空いたスペースにサブベースを入れる感覚が理想です。
![▲サブベースは、なるべくキックのタイミング(赤線)とぶつからないようフレーズ作りしよう。キックと重なったら、若干ベロシティを下げるとメリハリが付く](https://rittor-music.jp/sound/wp-content/uploads/sites/7/2017/08/5スクリーンショット-2017-08-02-13.35.45.jpg)
さて早速キックを短くしていくわけですが、やり方は幾つかあります。まずはボリューム・オートメーションでテールの音量を下げる方法。2つ目はFL Studio 12付属のプラグイン、Gross Beatを使用する方法です。そのほかサード・パーティ製のプラグインNICKY ROMERO Kickstartなどでも調整できますが、いずれも効果としては同じなので、自分に合ったやり方で臨んでください。ここではGross Beatでボリュームのカーブを描いて、キックを短くしてみました。
![▲Gross Beatは、トラックのボリュームとタイミングを自在に操れるエフェクト。画面ではキックの余韻が短くなるよう設定している](https://rittor-music.jp/sound/wp-content/uploads/sites/7/2017/08/6スクリーンショット-2017-08-02-13.36.03.jpg)
続いてはキックにEQやコンプをかけて理想のサウンドに近付けていきます。ただしキックを単体で調整するのではなく、サブベースと同時に鳴らしながら、バランスを見て音作りしていきます。まずは両者を鳴らしながら、キックの不要な帯域をEQでカット。250Hz辺りを削ると抜けてきて、サブベースとのバランスも取りやすくなります。またアタック感がもう少し欲しかったので、3kHzと10kHzの周辺はブーストしておきました。
![▲サード・パーティ製のEQ、FABFILTER Pro-Q2。アタック成分を強めるための設定で、250Hz辺りをカットし、3kHzや10kHzの周辺をブーストしている](https://rittor-music.jp/sound/wp-content/uploads/sites/7/2017/08/7スクリーンショット-2017-08-02-13.36.27.jpg)
次にコンプでアタックを強調し、しっかり前で鳴るように設定。ここで一つ、小技があります。皆さんは“適切なアタック・タイム”をどうやって把握していますか? 僕はスレッショルドを下げ切ってレシオをマックスに設定し、アタック・タイムとリリース・タイムを最短にした状態でキックを鳴らします。ここからアタック・タイムを徐々に伸ばしていくと、キックの“パツッ”というアタック音が非常に鋭く聴こえるポイントがあります。その辺りが理想のアタック・タイムになる場合が多いのです。今回はこの方法で8.3ms辺りが良いと感じたので、最終的にその値で落ち着かせました。
![▲キックのアタックを立てるために使ったFruity Compressor。アタック8.3ms、リリース74ms、レシオ3:1といった設定だ](https://rittor-music.jp/sound/wp-content/uploads/sites/7/2017/08/8スクリーンショット-2017-08-02-13.36.49.jpg)
次にキックの低音成分に着目。トラックにFruity Multiband Compressorをインサートし、サブベースとのバランスを見ながら低域と高域を調整しました。これでサブベースが鳴っていない部分でもキックの低域がしっかりと鳴るので、トータルのバランスが良くなります。最後にEQで不要な30Hz以下をカットし、サード・パーティ製のIZOTOPE OzoneのImagerでセンター配置=モノラルに設定すればキックの完成です。
![▲FL Studio 12の全グレードに標準搭載されているマルチバンド・コンプ/リミッター、Fruity Multiband Compressor。3つの帯域のそれぞれでスレッショルド、レシオ、アタック、リリース、ニー、アウトプット・ゲインを調整できる。この画面では中域はノータッチだが、低域と高域のゲイン・アップを図っている](https://rittor-music.jp/sound/wp-content/uploads/sites/7/2017/08/9スクリーンショット-2017-08-02-13.37.08.jpg)
FL Studio シリーズ・ラインナップ
FL Studio 12 All Plugins Bundle(99,990円)
FL Studio 12 Signature Bundle(パッケージ版のみの販売:31,000円)
FL Studio 12 Producer Edition(24,000円)
FL Studio 12 Fruity Edition(12,800円)
<<<Signature Bundle以外はbeatcloudにてダウンロード購入可能>>>