
独自のフィルタリング技術を採用し
高域から低域までシームレスに再生
IEMはここ10年、急速な進化を遂げていると思うのですが、その用途もスマートフォンの普及で音楽再生に留まらないというのが現状でしょう。とはいえ、良い音で聴けるからこそ、ハイレゾ再生機でなくとも良いIEMをお供にするのはメリットがあると思います。
昨今のIEMはひところのデジタル・カメラのようで画素数が多ければ多いほどいい!みたいにバランスド・アーマチュア(BA)ドライバーも各社競うようにどんどん増えているようです。さてこのBAとは一体何なのだという話からしていきましょう。ヘッドフォンなどのダイナミック型と呼ばれるものと違い、BAは簡単に言うと各帯域に専用のドライバーを持ち、音を鳴らす仕組みになっています。そのためイヤホンのような小型なものには都合良くドライバーも帯域をさらに細かくして増やすことができ、バランスの良いシームレスなサウンドが再現できるのです。そして今回紹介するオーストラリアのメーカーAUDIOFLYのフラッグシップ・モデル=AF1120もその一つ。こんな小さな筐体にドライバーが左右に6基ずつ! 数だけでなく近年BAドライバーの大きさも小ぶりになってきていますが、この製品も実に小さいです。
前述の通りAF1120のボディには高、中、低域に2基ずつびっしりと、6基のドライバーが組み込まれています。しかも独自のクロスオーバー・フィルタリング技術が使われており、高域から低域までシームレスに聴こえるため音はとてもナチュラル。もともとIEMは構造上低音の出し方が難しく色付けされているものが多いですが、AF1120はそういった色付けは感じませんでした。そして伸びの豊かな高音域は長時間聴いていてもまるで疲れなく、しかもこの大きさ、軽さ。音の解像度、分離は言わずもがな、小さくとも音の定位もしっかりとしていて、音楽再生もいいですがライブでも使えるレベルでしょう。音がフラットなところは好感が持てました。
各種イア・ピースを付属し
ファイバー・ケーブルでノイズをカット
AF1120でいろいろな音楽を聴いてみました。クラシックは、ホールの大きさまで想像できるくらいの奥行きを感じられ、ピアノの繊細なニュアンスや表現なども気持ち良く鳴ってくれます。再生性能の低いスマートフォンではあまりに音像の平面さが浮き彫りになってちょっと退屈しそうですので、ハイレゾ再生機やヘッドフォン・アンプなどで楽しむのがいいかと思います。ロックなどのスピード感のあるもの……最近のロックは音圧があり過ぎると感じてしまいましたが、リマスターなど古い作品は聴こえ方も違いスピーカーとは違う楽しみができたので、IEMの威力を遺憾なく発揮してくれました。あまり空気感の無いデジタルな音楽は、色付け感をチェックする際によく音を小さくするのですが、本機は音量の大小で印象はほとんど変わることはなく好感触。ジャズを聴くと、パキっとした分離感が新鮮に感じます。普段はあまり大きな音で聴かないようにしているのですが、演奏者の息遣いまで感じられたことは、移動しながら聴くことが多いIEM使いには少し新しく感じるかもしれません。
ライブでIEMを使う場合は、フラットな方が断然やりやすいのですが、AF1120なら問題ないでしょう。しかも、軽さコンパクトさも相まって長時間でも疲れないというのは大きな利点です。そして、周りの音に影響されないことも含め、耳の中に固定して定位をぶれないようにするためのイア・ピースの選択も大事になってきます。耳は頭部の一部ですので、口を開けたり閉めたりするだけで音質に影響します。その点AF1120にはイア・ピースが大きさも材質も各種そろっているので安心です。選び方としては、遮音性が高く一番フィットするもの、手で耳を抑えなくとも低音の豊かさを感じるものが良いでしょう。僕が普段聴くときは、低反発ポリウレタンのイア・ピースを使っていますが、意外に疲れにくくなじみやすいです。
また、ケーブルの根元を覆う硬質イア・フックも装着の良さに一役買っていると思いました。ヘッドフォンより選び方はシビアになりますが、ぜひ試聴することをお薦めします。特に耳の穴の構造は人それぞれなので、うわさだけではなかなか選べないのがIEMでもあります。また、AF1120のケーブルには、独自開発の1.6mのAudioflex SL TwistCableが採用されています(写真①)。登山用ロープの素材にも使われるファイバーをケーブルに編み込み、柔軟性と耐久性を実現。それをツイスト状にして外部からの電磁波ノイズを受けにくくしたり、擦れで発生するノイズなども抑制できるとのこと。

フラッグシップというだけあってさまざまな配慮がなされているAF1120。一度フィットすればきっとヘッドフォンを超える再現性も実現するでしょう。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2017年8月号より)