
“FLオンリー”で書き下ろした新曲
「Wild Growth」の制作工程を紹介
今回で僕の連載は最終回となります。締めくくりとして、FL Studioの標準搭載ツールや、デモ版として付属していてbeatcloudで単体販売が予定されているプラグインを使い、1曲書き下ろしてみました。その名も「Wild Growth」。仕上がりは本誌Webサイト(https://rittor-music.jp/sound/)にて試聴可能。ここでは制作のプロセスについて紹介します。
シンセはHarmorをメインに
3X OSCやHarmlessなども使用
「Wild Growth」は3分ほどの4つ打ち曲で、イントロ→Aメロ→サビ→ブレイク→サビという構成です。最初に作ったのはイントロのアルペジオ。音源は加算合成方式のシンセHarmorを使いました。音作りの手順はノコギリ波を生成して倍音を付加し、“Pluck”セクションのワンノブ・ローパス・フィルターをかけるというもの。前回も紹介した通り、原音のアタックを残しつつかけられるのが特徴です。アルペジオのパターンはMIDIキーボードを弾きながらイメージし、良いものが浮かんだら最初からマウスで入力していきました。

こうしてできたアルペジオに合うよう作ったのがコードのパターン。先と同じくHarmorのノコギリ波を用いましたが、8つのボイス・ユニゾンでデチューンさせ、スーパー・ソウっぽくしたのが特徴です。鳴らしているコードはE on FやA on D。コードは大抵手癖で作るんですが、オンコードやテンション・コードなどの複雑な響きが好きなので、自然とそうなることが多いですね。

このイントロで意外と凝った作りになっているのが、冒頭でフェード・インする効果音。手順としてはまず、3オシレーターを備えた減算合成方式のシンセ3X OSCのノイズを単音で鳴らし、ローパス・フィルターのカットオフとボリュームにオートメーションを描くことで“シュワ〜”と鳴るサウンドを作成。それに加算合成のシンセHarmlessによるパッド、FM+減算合成のToxic Biohazardで作ったアトモスフェリックなサウンド、リバース・クラッシュなどを重ねて仕上げているのです。


イントロからAメロに移る“節目”の部分には、ライズ(徐々に盛り上がりを作るような音)を入れています。Harmorのノコギリ波を使ったもので、まずはピッチが急速に下がるようエンベロープを調整し“ギューン”と鳴る音を作成。それから単音のパターンを打ち込み、時間の流れとともにピッチが上がっていくようオートメーションを描きました。このほか展開の節目の要素として、マスターにエフェクトのGross Beatをかけていますね。

FL-Keysの生ピアノで変化を付ける
ALTキーで音の長さを細かく調整
Aメロからは4つ打ちのドラムが入ってきます。キックは標準搭載のワンショット・サンプルを使用。音色のレイヤーなどは行っていませんが、Fruity Compressorをアタック・タイム長め/リリース・タイム1msでかけて打点を強調しています。コンプと言えば、Aメロ頭のホワイト・ノイズには、キックのタイミングでサイド・チェイン・コンプをかけています。そもそもこのホワイト・ノイズは、3X OSCのノイズにEQやリバーブ、フェイザーをかけて作ったもの。そこにFruity Limiterをインサートし、サイド・チェイン・コンプをかけているんです。“ホワイト・ノイズ×サイド・チェイン・コンプ”の音は、曲が展開したという印象を与えやすいのでよく使いますね。

リズム隊の上には2種類のアルペジオが乗っています。まずはピッチの低い方を作成しました。使用音源はToxic Biohazardで、FMシンセのような音にリバーブやディレイ、フェイザーをかけています。ただしこれだけでは高域の方が少しさみしい印象だったので、Harmorを使ってピッチの高いアルペジオを加えたわけです。
さらに空間の隙間を埋めるため、このAメロにHarmorで作ったパッドを入れました。しっかり聴こえる音ではないものの“空間を埋めて厚みを出す”という意味では結構大事で、あると無いとでは随分印象が変わります。
Aメロの次にはサビが登場。ここは急速にピッチが下がるベース音……いわゆるベース・ドロップから作り始めました。音源はHarmorで、まずはピッチ・ベンドで発音後すぐにピッチが下がるよう設定。その上でHarmorに内蔵されたディストーションやバンドパス・フィルターをかけ、カットオフをオートメーションで動かしています。ベース・ドロップと掛け合いするかのようにシンセ・リードが鳴っていますが、これと似たようなリズムで動いているコード・フレーズもHarmorで作ったものです。


サビの後のブレイクでは、それまでのエレクトロニックな雰囲気をガラっと変えようとFL-Keysの生ピアノを使用。コードを鳴らしていますが、頭の部分は構成音の発音タイミングをズラして打ち込み、手弾きのような感じを出しています。FL Studioでは、コンピューター・キーボードのAltを押しながらMIDIノートの長さを変えるとグリッドにスナップされず、より細かい設定が可能になります。これを利用し、発音のズレを微調整しました。


トータルの処理は、マルチバンド・マキシマイザーMaximusでのリミッティングのみ。レベルは±0dBを6dBほど超えていますが、聴感上のひずみは無いでしょう。

以上、今回は連載の集大成として“FL Studioだけでここまでできる!”というプレゼンテーションをさせていただきました。FL Studioは非常に使いやすいDAWだと思いますので、この記事を読んでユーザーが増えると僕もうれしいです!
FL Studio シリーズ・ラインナップ
FL Studio 12 All Plugins Bundle(92,583円)
FL Studio 12 Signature Bundle(パッケージ版のみの販売:31,000円)
FL Studio 12 Producer Edition(22,222円)
FL Studio 12 Fruity Edition(11,852円)
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