![](https://rittor-music.jp/sound/wp-content/uploads/sites/7/2017/04/スクリーンショット-2017-04-05-21.30.32解像度72幅800.png)
“FLオンリー”で書き下ろした新曲
「Wild Growth」の制作工程を紹介
今回で僕の連載は最終回となります。締めくくりとして、FL Studioの標準搭載ツールや、デモ版として付属していてbeatcloudで単体販売が予定されているプラグインを使い、1曲書き下ろしてみました。その名も「Wild Growth」。仕上がりは本誌Webサイト(https://rittor-music.jp/sound/)にて試聴可能。ここでは制作のプロセスについて紹介します。
シンセはHarmorをメインに
3X OSCやHarmlessなども使用
「Wild Growth」は3分ほどの4つ打ち曲で、イントロ→Aメロ→サビ→ブレイク→サビという構成です。最初に作ったのはイントロのアルペジオ。音源は加算合成方式のシンセHarmorを使いました。音作りの手順はノコギリ波を生成して倍音を付加し、“Pluck”セクションのワンノブ・ローパス・フィルターをかけるというもの。前回も紹介した通り、原音のアタックを残しつつかけられるのが特徴です。アルペジオのパターンはMIDIキーボードを弾きながらイメージし、良いものが浮かんだら最初からマウスで入力していきました。
![▲Harmorの“Pluck”(赤枠)では、アマウント・ノブ1つで原音のアタックをとどめたままローパス・フィルターをかけられる。なおHarmorと後述のToxic BiohazardはFL Studio 12においても追加購入が必要](https://rittor-music.jp/sound/wp-content/uploads/sites/7/2017/04/1!スクリーンショット-2017-04-26-21.05.0472RGB800.jpg)
こうしてできたアルペジオに合うよう作ったのがコードのパターン。先と同じくHarmorのノコギリ波を用いましたが、8つのボイス・ユニゾンでデチューンさせ、スーパー・ソウっぽくしたのが特徴です。鳴らしているコードはE on FやA on D。コードは大抵手癖で作るんですが、オンコードやテンション・コードなどの複雑な響きが好きなので、自然とそうなることが多いですね。
![▲イントロのピアノロール。E on Fの後、経過的なコードを挟んでA on Dにつないでいる。明るいとも暗いとも言えない中間的な響きが特徴](https://rittor-music.jp/sound/wp-content/uploads/sites/7/2017/04/2!Harmor_chordDpi72RGB800.jpg)
このイントロで意外と凝った作りになっているのが、冒頭でフェード・インする効果音。手順としてはまず、3オシレーターを備えた減算合成方式のシンセ3X OSCのノイズを単音で鳴らし、ローパス・フィルターのカットオフとボリュームにオートメーションを描くことで“シュワ〜”と鳴るサウンドを作成。それに加算合成のシンセHarmlessによるパッド、FM+減算合成のToxic Biohazardで作ったアトモスフェリックなサウンド、リバース・クラッシュなどを重ねて仕上げているのです。
![▲3X OSCは“channel setting”というモジュールの中で使用するシンセで、そこに備わっているフィルターをオートメーションで動かすことにより出音(ノイズ)に変化が加えられている](https://rittor-music.jp/sound/wp-content/uploads/sites/7/2017/04/3!channelsetting72RGB420.jpg)
![▲3X OSCのノイズにはHarmlessのパッドをはじめ、さまざまなサウンドをレイヤー。画面のピアノロールはパッドのノートを打ち込んだもので、F#m7を鳴らしている](https://rittor-music.jp/sound/wp-content/uploads/sites/7/2017/04/4!スクリーンショット-2017-04-26-21.23.26Dpi72RGB800.jpg)
イントロからAメロに移る“節目”の部分には、ライズ(徐々に盛り上がりを作るような音)を入れています。Harmorのノコギリ波を使ったもので、まずはピッチが急速に下がるようエンベロープを調整し“ギューン”と鳴る音を作成。それから単音のパターンを打ち込み、時間の流れとともにピッチが上がっていくようオートメーションを描きました。このほか展開の節目の要素として、マスターにエフェクトのGross Beatをかけていますね。
![▲マスターにインサートしたGross Beat。グリッチやスタッターなどさまざまな効果を生み出せるが、イントロとAメロの節目では出音が一瞬だけリバースするよう設定。とりわけキックの音色変化が目立って聴こえる](https://rittor-music.jp/sound/wp-content/uploads/sites/7/2017/04/5!GrossBeatDpi72RGB800.jpg)
FL-Keysの生ピアノで変化を付ける
ALTキーで音の長さを細かく調整
Aメロからは4つ打ちのドラムが入ってきます。キックは標準搭載のワンショット・サンプルを使用。音色のレイヤーなどは行っていませんが、Fruity Compressorをアタック・タイム長め/リリース・タイム1msでかけて打点を強調しています。コンプと言えば、Aメロ頭のホワイト・ノイズには、キックのタイミングでサイド・チェイン・コンプをかけています。そもそもこのホワイト・ノイズは、3X OSCのノイズにEQやリバーブ、フェイザーをかけて作ったもの。そこにFruity Limiterをインサートし、サイド・チェイン・コンプをかけているんです。“ホワイト・ノイズ×サイド・チェイン・コンプ”の音は、曲が展開したという印象を与えやすいのでよく使いますね。
![▲キックにかけたFruity Compressor。アタック・タイムを長めに取って打点を残すよう設定。リリース・タイムは1msと非常に短いので、余韻の部分がすぐに立ち上がってくる](https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/s/snrec/20220901/20220901220242.jpg)
リズム隊の上には2種類のアルペジオが乗っています。まずはピッチの低い方を作成しました。使用音源はToxic Biohazardで、FMシンセのような音にリバーブやディレイ、フェイザーをかけています。ただしこれだけでは高域の方が少しさみしい印象だったので、Harmorを使ってピッチの高いアルペジオを加えたわけです。
さらに空間の隙間を埋めるため、このAメロにHarmorで作ったパッドを入れました。しっかり聴こえる音ではないものの“空間を埋めて厚みを出す”という意味では結構大事で、あると無いとでは随分印象が変わります。
Aメロの次にはサビが登場。ここは急速にピッチが下がるベース音……いわゆるベース・ドロップから作り始めました。音源はHarmorで、まずはピッチ・ベンドで発音後すぐにピッチが下がるよう設定。その上でHarmorに内蔵されたディストーションやバンドパス・フィルターをかけ、カットオフをオートメーションで動かしています。ベース・ドロップと掛け合いするかのようにシンセ・リードが鳴っていますが、これと似たようなリズムで動いているコード・フレーズもHarmorで作ったものです。
![▲ベース・ドロップのピアノロール。ノートはF一発だけだが、ノート入力画面下のセクションでピッチ・ベンドを設定し、“ギューン”と鳴る音を作っている](https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/s/snrec/20220901/20220901220239.jpg)
![▲サビのシンセ・リードを支えるようなリズム・パターンのコード・バッキング。頭からDM7→A on E→Fm……といった進行になっており、ほぼワンコードで進むAメロとコントラストを付けている](https://rittor-music.jp/sound/wp-content/uploads/sites/7/2017/04/8!スクリーンショット-2017-04-26-21.38.14Dpi72RGB800.jpg)
サビの後のブレイクでは、それまでのエレクトロニックな雰囲気をガラっと変えようとFL-Keysの生ピアノを使用。コードを鳴らしていますが、頭の部分は構成音の発音タイミングをズラして打ち込み、手弾きのような感じを出しています。FL Studioでは、コンピューター・キーボードのAltを押しながらMIDIノートの長さを変えるとグリッドにスナップされず、より細かい設定が可能になります。これを利用し、発音のズレを微調整しました。
![▲アコースティック・ピアノの音色を出すために使用したピアノ音源、FL-Keys。オーガニックな音色としては、このほかベルのサウンドなども使っているが、それはHarmorの“Prism”セクションを活用し作ったものだ](https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/s/snrec/20220901/20220901220248.jpg)
![▲FL-Keysのパターンは、発音のタイミングをズラして打ち込むことによりヒューマンな雰囲気を演出している](https://rittor-music.jp/sound/wp-content/uploads/sites/7/2017/04/10!Piano_NoteDpi72RGB500.jpg)
トータルの処理は、マルチバンド・マキシマイザーMaximusでのリミッティングのみ。レベルは±0dBを6dBほど超えていますが、聴感上のひずみは無いでしょう。
![▲マスターにインサートした3バンド+マスターのマキシマイザー、Maximus。低域は緩め、中域はしっかりとリミッティングした結果、50Hz辺りに最も大きなエネルギーのある2ミックスに仕上がった](https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/s/snrec/20220901/20220901220252.jpg)
以上、今回は連載の集大成として“FL Studioだけでここまでできる!”というプレゼンテーションをさせていただきました。FL Studioは非常に使いやすいDAWだと思いますので、この記事を読んでユーザーが増えると僕もうれしいです!
FL Studio シリーズ・ラインナップ
FL Studio 12 All Plugins Bundle(92,583円)
FL Studio 12 Signature Bundle(パッケージ版のみの販売:31,000円)
FL Studio 12 Producer Edition(22,222円)
FL Studio 12 Fruity Edition(11,852円)
<<<Signature Bundle以外はbeatcloudにてダウンロード購入可能>>>