
群雄割拠のヘッドフォン/インイア・モニター・シーンにおいて、注目を集めているオーストラリアのブランドがAUDIOFLY。中でも“In-Ear Monitors”ラインの製品は、デザイン性に優れた筐体やケースをまとう一方で、クリエイターやエンジニアがレコーディング/ミキシングで使用するに耐えうるスペックを誇っている。今回、本誌はこの気鋭デベロッパーに初の取材を敢行するとともに、国内で活躍するクリエイター4組にAF120/AF180の試聴レビューを依頼。新世代のインイア・モニターの実力を感じていただきたい。
CEOインタビュー|デイヴ・トンプソン
私たちの最終目的は人々の記憶に残る音楽体験を手助けすることだ
ゴティエやイギー・アゼリアなどの活躍により、近年大きな注目を集めているオーストラリアの音楽シーン。AUDIOFLYのCEOを務めるデイヴ・トンプソン氏の発言からは、そうした当地の音楽シーンの盛り上がりやミュージシャン目線の製品開発の姿勢がうかがえる。
AUDIOFLYは、“音楽と機材に対するノスタルジックな愛情”が詰まったヘッドフォンを作りたいという考えの基に設立された。大抵の人は自分が最初に聴いたCDを覚えているだろう? 私たちの最終目的は、人々の記憶に残る音楽体験を手助けすることだ。
現在AUDIOFLYには、大きく分けて“Premium In-Ear”、“In-Ear Monitors”という2つのラインがある。今回紹介するAF120/AF180はIn-Ear Monitorsに含まれる製品で、ミュージシャンや優れたリスニング環境を望むリスナー向けにデザインされている。もちろんステージ上でも有用で、軽量/コンパクトだが、ヘビーメタル・バンドが得意とする激しいヘッド・バンギングにも負けない強度と耐久性を備えているんだ。
In-Ear Monitorsはすべての機種でマルチドライバーが採用されている。AF120はダイナミック・ドライバーが低音にキャラクターと温かみを加える一方で、バランスド・アーマチュア・ドライバーがトップ・エンドに驚異的な透明感を与えている。一方のAF180はバランスド・アーマチュア・ドライバーを4基搭載しており、クロスオーバー回路がリッチさと誇らしく感じるほどのディテール・レベルを実現している。共にケーブルは耐摩耗性の“Cordura”アウター・シースと電磁波障害を防ぐためにヘッド付近に付けた自社開発の“Audioflex”を組み合わせた構造になっているが、AF180はケーブルが着脱式になっているので、より高品位なシルバー・コンダクター・ケーブルに付け替えることも可能だ。
▲AF180の分解図。パッシブ・クロスオーバーと4基のバランスド・アーマチュア・ドライバーを備え、15Hz~25kHzという優れた周波数特性を実現。ケーブルは着脱式となっている
インイア・モニターはフィット感が最も大事な機材でもある。耳にフィットしないモニターでは低域が欠如した貧相なサウンドになってしまうからね。その点、AF120/AF180には、シングル・フランジ/トリフランジ/Complyフォームという3種類のシリコン製ティップが、それぞれ3サイズずつ付属する。必ずベストの性能を引き出せるティップが見つかるはずだよ。
我々はスタジオやステージで演奏する厳しさや制限、そんな状況下でミュージシャンが求めるサウンドのクオリティも熟知している。その上で、ビギナーからプロまで、どんな音楽スタイルでも、どんな楽器でも使用可能なインイア・モニターを提供していくつもりだ。
AF120
オープン・プライス(市場予想価格:27,000円前後)
●ドライバー:ダイナミック&バランスド・アーマチュア・ドライバー
●周波数特性:20Hz~20kHz
●感度:108dB@1kHz
●インピーダンス:12Ω
製品ページ
https://www.roland.com/jp/products/af120/
AF180
オープン・プライス(市場予想価格:60,000円前後)
●ドライバー:バランスド・アーマチュア・ドライバー×4
●周波数特性:15Hz~25kHz
●感度:108dB@1kHz
●インピーダンス:18Ω
製品ページ
https://www.roland.com/jp/products/af180/
AUDIOFLYラインナップ
https://www.roland.com/jp/categories/accessories/audiofly/
クリエーターズ・レビュー
真鍋吉明(the pillows)
Profile ロック・バンドthe pillowsでギターを担当するほか、プロデューサー/ソロ・アーティストしても活動。ミュージシャンとしての才覚はもちろんのこと、ミキシングの手腕も高く評価されている
Release
『Stroll And Roll』 the pollows
DELICIOUS LABEL:QECD-10001
“ミュージシャン心”のあるインイア・モニター
最近の音楽聴取環境の変化に伴って、僕もミックスの確認をインイア・モニターで行う機会が多くなりました。その際は、やはり元音を脚色なく再生してくれるものを求めます。制作時は“この音がカッコいい!”と感じながら作っているので、そこと結果に誤差を生じさせたくないんですね。
AF120は、パッと聴きで音像バランスがとても良いと感じました。フラットで周波数のつながりが良く、音楽的。AF180はさらに良くて、目の前にも空間を感じられました。ルーム感が大きく、楽器がどこに定位しているか分かりやすかったです。制作者の意図がよく伝わってきますし、部屋でスピーカーで聴いているような感覚がありました。インイアで目の前に音を感じたのは、AF180が初めてです。
最近、レコーディングの現場にも自前でお気に入りのインイア・モニターを持ち込む人が増えてきました。遮音性も良好なので、今度レコーディングでも使ってみたいですね。そうした意味でも“ミュージシャン心”のあるモニターと言えます。
マイカ・ルブテ
Profile 日仏ハーフのシンガー・ソングライター/トラック・メイカー。アナログ・シンセ・カルテットHello Wendy!のメンバーとして活躍するほか、このほど新作ソロ・アルバム『Le Zip』を完成させた
Release
『Le Zip』 マイカ・ルブテ
AWDR/LR2:iTunes Storeほかで
ダウンロード販売
お医者さんの聴診器のように細部が見えます
私は普段、スピーカーと2種類のヘッドフォンを使って自作曲のミックスをチェックしています。ライブはハード中心の構成ですが、大音量で鳴らすと自宅では気付かなかった低域の暴れなどが耳につくこともあるので、その辺りが判断できるモニターがあると良いと思っていました。
まずAF120でエイフェックス・ツインの「Xtal」を聴いてみたのですが、マスターがカセットだけあって、“こんなにノイズが乗っていたんだ!”と気付かされました。それは自分の曲でも同様で、周波数的に飛び出ている個所などがよく“見える”のが良いと思いました。お医者さんの聴診器のような感じですね。AF180はもっと奇麗な印象。ザラッとしたテクスチャーがコーティングされる感もありますが、解像度は高く、音像全体がよく見えます。共に付け方によって低域の量が結構変わるので、まずティップを付け替えて自分に合うものを選ぶのが良いと思いました。ボディの質感やケーブルのしつらえも良く、モノとして愛着がわきそうです。
Licaxxx
Profile 1991年生まれ。ビート・ミュージックを中心に、ファンキーかつ骨太なDJスタイルであらゆるジャンルのパーティに出演。ビート・メイカー、ライター、ラジオ・パーソナリティなどの顔も持つ
Release
『夜明け前 feat. ZOMBIE-CHANG & SALU
(Licaxxx remix)』
YOSA OMAKE CLUB:iTunes Storeほかで
ダウンロード購入可能
音の動きの再現力にゾワッとさせられる
私はトラック・メイクの際、“空間”を意識しています。非現実的な空間の使い方も音色の一つと考えているので、音の配置と動きには常に気を配ります。ですから、低域も量感で押すよりはキックとベースのすみ分けなどを重要視しています。それはクラブのサウンド・システムなど、きちんと鳴るスピーカーでないと分からない。誰がどこで聴いても楽しいというよりも、現場主義というか、クラブで聴いて“面白い!”という感覚を呼び覚まされるトラックを作っていきたいです。
そうした経緯もあって、普段の制作では空間がきっちり見えるオープン型のヘッドフォンを使っています。本格的なインイア・モニターを使うのは今回が初めてだったのですが、普段よりも耳に近いところで音の動きが精度高く見えるので、良い意味でゾワっとさせられました。AF120/AF180どちらも音の定位は優秀ですが、AF180の方が低域の解像度に優れているように感じました。音に立体感と生っぽさがあるので、これでムッチリした音像のビート作ると気持ち良さそうです。
Fumitake Tamura(Bun)
Profile 質感豊かな音色を綿密に構成し、さまざまな音楽を横断するアーティスト。国内外のレーベルからのソロ作に加え、コラボレーションも多くこなす。http://fumitaketamura.com
Release
『Amber / Purple 7”』
Fumitake Tamura (Bun)
DIRTY TAPES:DIRTYBUN001
モニター機材として好感が持てるフラットさ
僕が普段プライベート・スタジオで使っているモニター・スピーカーは定位や解像度という意味では申し分ないのですが、低域がやや弱いキャラクターなので、制作時はそれをフォローする意味で、インイア・モニターで40Hz近辺のローエンドを確認する機会が多いです。
AF120/AF180は共にフラットな音の印象。AF120は音が前に出てくる感覚があり、AF180はリカルド・ヴィラロボスなどのクラブ・ミュージックの定位やレイヤー感がよく見えました。色付けが無くタイトな音で、フルレンジの小型スピーカーのような印象。一方、現代音楽などビートが入っていない音楽は音の輪郭が見えて、とても気持ちよく聴けました。
僕は音楽を作る際、複数のモニターを使い分けて細部を詰めるようにしています。昨今は低域を強調した製品が多いですが、そんな中でAUDIOFLYのフラットなキャラクターは好感が持てました。これでチェックしておけば、ミックスの仕上がりがちょっと寂しい、という事態には陥らないでしょう。
問合せ
ローランド お客様相談センター
TEL 050-3101-2555
http://www.roland.co.jp