「ZOOM LiveTrak L-12」をPAの現場でチェック!

【Check & Report for Live Mixing】生音+打ち込みトラックのライブPAに使用

ZOOMから新しく発売されたデジタル・ミキサー=LiveTrak L-12。今回は本機をPAの現場で試してみたので、その実力をレポートしていこう。

【チェックに参加したメンバー】 PROFILE

ユーザー視点に立った設計の入力部

LiveTrak L-12が手元に届いてまず驚いたのは、その軽さだ。重量は2.53kg(本体のみ)なので、片手でも持つことができる。早速電源を入れてみよう。筆者は機材を試すとき、まずはマニュアルを見ずに触ることにしている。本機はデジタル・ミキサーなので、さすがに見ないと難しいかと思っていたが、機能の大半を把握するまでにそれほど時間はかからなかった。録音やオーディオI/Oの機能についてはマニュアルを参照したものの、PAに使う部分はアナログのコンパクト・ミキサーとさほど変わらない手軽さだ。

モノラル・チャンネルは、マイク/ライン・インの真下にHi-Zボタン(ch1/2)もしくはPADボタン(ch3〜8)とゲイン・ツマミを装備。コンパクトなデジタル・ミキサーにはアサイナブル・ツマミでゲインをコントロールしなければならない機種もあるが、その点LiveTrak L-12の入力部にはユーザーの視点が反映されていると感じる。直感的に触れるので、ストレスが無いのだ 。

ゲイン・ツマミの下にはコンプ・ツマミがあり、さてリバーブは?と思ったら、パネル右のCHANNEL STRIP部からアクセスできた。ここに内蔵マルチエフェクトへのセンド・ツマミが用意されているので、リバーブをかけたいチャンネルをセレクト・ボタンで選び、CHANNEL STRIP部の隣にあるTYPEツマミで任意のリバーブ・タイプを選択。エフェクトをエディットするためのツマミはTONE/TIMEとDECAY/FEEDBACKの2つだけだが、簡単に使うにはこれだけで十分だ。業務用のデジタル卓には、エフェクトにアクセスするまでが煩雑なモデルも多い。しかしLiveTrak L-12ではスムーズにアクセスでき、セレクト・ボタンでアクティブになるのはローカットと3バンドEQ、パン、エフェクト・センドだけであるが、実際にはそれで事足りる

①すぐにアクセスできる内蔵プロセッサー

▲チャンネル・セレクト・ボタンを押すだけで、3バンドEQやローカット、マルチエフェクトといった内蔵プロセッサーを使えるようになる。マルチエフェクトには、さまざまなアルゴリズムのリバーブやディレイが計16種類用意され、写真右のSEND EFXセクションにあるTYPEツマミで選択可能。TONE/TIMEツマミではリバーブの明るさやディレイのタイムが調整でき、DECAY/FEEDBACKツマミではリバーブの残響の長さやディレイのフィードバック量を変えられる ▲チャンネル・セレクト・ボタンを押すだけで、3バンドEQやローカット、マルチエフェクトといった内蔵プロセッサーを使えるようになる。マルチエフェクトには、さまざまなアルゴリズムのリバーブやディレイが計16種類用意され、写真右のSEND EFXセクションにあるTYPEツマミで選択可能。TONE/TIMEツマミではリバーブの明るさやディレイのタイムが調整でき、DECAY/FEEDBACKツマミではリバーブの残響の長さやディレイのフィードバック量を変えられる

特に面白いと思うのは、3バンドEQのオフ・スイッチ。これがあることで“今はEQを切っている状態だ”という意識が働くからだ。スイッチがEQをオンにするためのものである場合、“イコライジングして音を変えた気になっていたが、実はオフになっていた”ということが起こりがち。しかしオフにするときに意識させるというのは、これもまたユーザー視点に立った設計だと感じる。

シーン(セッティング保存)の数は9種類に限定されていて、名称入力なども特に無いが、保存/呼び出し共に2ステップで完了ゲインやコンプに関してはその都度マニュアルで設定しなければならないものの、大半のパラメーターを保存できるのは作業効率が良い 。

②2ステップで保存/呼び出しできるシーン

▲ミキサー・セッティングを保存/呼び出しするための機能、シーン。9種類まで保存できるので、出演者の多いイベントにも対応しやすい。保存する際は、保存先のシーン番号をボタンで選び、SAVEボタンを押すのみ。呼び出しについても番号ボタン→RECALLボタンの2ステップだ ▲ミキサー・セッティングを保存/呼び出しするための機能、シーン。9種類まで保存できるので、出演者の多いイベントにも対応しやすい。保存する際は、保存先のシーン番号をボタンで選び、SAVEボタンを押すのみ。呼び出しについても番号ボタン→RECALLボタンの2ステップだ

保存されたフェーダー位置を示すLED

本機では、最大5系統のモニター・ミックスを作成できる。A〜Eの5つのボタンで各モニター・ミックスを呼び出す仕様となっており、チャンネルごとのフェーダー位置も保存可能だ 。

モーター・フェーダーではないので最初は戸惑うが、任意のモニター・ミックスを呼び出すと各チャンネルの音量(フェーダー値)がLEDインジケーターの点灯によって示される。チャンネルの音量を変えたくなったら、点灯しているポイントまでフェーダーを持っていくと、それまでの設定値がクリアされ、新しく音量を決められる。インジケーターが点灯しているときはフェーダーが無効になっているので大きな事故は起こらないし、操作に慣れてしまえば大変ではない。モーターを付けずに全体の軽さを維持したところを評価したい。

③5種類の“返し”を作成可能

▲LiveTrak L-12では5種類のモニター・ミックス(返し)を作成/保存でき、写真左のFADER MODEセクションのA〜Eボタンで呼び出すことができる。フェーダーは、保存された音量に合わせて動くモーター式ではないが、隣接するLEDインジケーター(ピーク・メーター)の点灯によって最後に保存した音量が示される ▲LiveTrak L-12では5種類のモニター・ミックス(返し)を作成/保存でき、写真左のFADER MODEセクションのA〜Eボタンで呼び出すことができる。フェーダーは、保存された音量に合わせて動くモーター式ではないが、隣接するLEDインジケーター(ピーク・メーター)の点灯によって最後に保存した音量が示される

くっきりとして存在感のあるサウンド

今回は、ライブのリハーサル時にLiveTrak L-12を試してみた。場所は東京・吉祥寺のSTAR PINE’S CAFE。今年で20周年を迎えた老舗のライブ・ハウスだ。当日はLiveTrak L-12を肩かけバッグに入れ、電車で会場を訪れたが、重量が負担になることは全く無かった。

協力してくれたアーティストは“安来のオジ”ことノグチアツシ氏。島根県を中心に、30年以上も活動しているベテランのシンガー・ソングライターである。ライブは2デイズで、“TOSHIKI KADOMATSU Presents”の冠が付いていることからも分かるように、マニピュレートとギターを角松敏生氏が務めている。

テストは2日目に敢行。LiveTrak L-12をメインのミキサーとして設置し、ノグチ氏にピックアップ付きのアコースティック・ギターで弾き語りをしてもらいつつベーシストの中村雅雄氏にも参加していただいたLiveTrak L-12へ入力したのはギターとベース(共にHi-Zインへ直接接続)、マニピュレート・セクションのDAWソフト→オーディオI/Oから送った計6chのバック・トラック(キック、リズム、上モノ)とクリック、ボーカル用のマイク。出力は、マスター・アウトL/Rをライブ・ハウスのパワー・アンプへ直接つなぎ、客席用のメイン・スピーカーから送出した。モニター・アウトは、ステージ上のサイド・スピーカーとノグチ氏のフット・モニター(TSフォーン・ケーブルを使えばモニター・アウトをモノラル化できる)、中村氏のヘッドフォンに接続。ヘッドフォンにはクリックも返した。

準備には30分もかからなかった。まずはノグチ氏のギターをチェック。“低域まで出ていて、なおかつクリア。ストレートで素直な感じの音ですね”とは本人の弁だ。声に内蔵リバーブをかけたところ、やはりくっきりしていて存在感がある。ベースはたっぷりした量感で響き渡った。ここまでチェックしてみて、個人的には“え……?”という印象。それは“こんなにコンパクトなデジタル・ミキサーなのに十分に成り立っている!”という驚きでもある。

④チェック中の光景

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▲STAR PINE'S CAFEのステージにミュージシャンとPAのための席を設け、カフェ・ライブのようなシチュエーションに。ノグチアツシ氏がLiveTrak L-12の操作系に感心し、山寺氏に使い方を尋ねるシーンも見られた ▲STAR PINE'S CAFEのステージにミュージシャンとPAのための席を設け、カフェ・ライブのようなシチュエーションに。ノグチアツシ氏がLiveTrak L-12の操作系に感心し、山寺氏に使い方を尋ねるシーンも見られた

続いて打ち込みのバック・トラックを再生。これは角松氏がスタジオで作り上げた音だが、そのまま素直に出力されている。それから、ベーシスト中村氏に好みのモニター・バランスを作ってもらい、トラック+生のベース&ギター+ボーカルという編成でチェック。吟味した機材群と時間をかけた調整によって成り立つものがPAだとしたら、こんなにも簡単にできてしまうのは想定外だ。STAR PINE’S CAFEのベテラン・エンジニアも“ちょっとびっくりしますよね”と、そのクオリティについて目を丸くした。

⑤ミュージシャンにもやさしい設計

▲中村雅雄氏が自らLiveTrak L-12を操作し、モニター・ミックスを作成しているところ。エンジニアだけでなくミュージシャンにも扱いやすい ▲中村雅雄氏が自らLiveTrak L-12を操作し、モニター・ミックスを作成しているところ。エンジニアだけでなくミュージシャンにも扱いやすい

ミュージシャン側にもやりづらさは無く、気持ち良く演奏できている。中村氏に至ってはワンノブ・タイプの内蔵コンプに関して“かかり具合を示すメーターなどは付いていないが、レコーディングで使うコンプのような質感で好印象”とコメント。“僕は機材が得意じゃなくて……”と話すノグチ氏にも少し触ってもらったところ“メニュー画面の階層に入っていくような操作が無く、直感的に使えていいですね”との評価をもらった。氏いわく、小規模な現場では自分たちでPAまでこなさなければならないこともあるとのことで、同行していた事務所の社長も“買おうかな?”と検討し始めることに。

色付けを感じないレコーダーの音質

最後にレコーダー機能をテスト。扱いは全く簡単で、録りたいチャンネルのREC/PLAYボタンを押して赤色に点灯させ(録音待機状態)、レコーダーのRECボタンを押すのみ。これでSDカードにマルチトラック録音が行える。演奏を録って再生してみたところ、それまで聴いていたものとほとんど同じ音がスピーカーから鳴り始めた。最後にオーバーダブ機能を試すのに、録音済みのサウンドへコーラスを乗せてもらった。チェック中にマニュアルを一切見ることなく、ここまでできてしまったのだ!

⑥簡単操作のレコーダー機能

▲本体にスロット・インしたSDカードへ最高24ビット/96kHzのマルチトラック録音が行えるレコーダー機能(SDXC規格対応カードなら512GBのものまで対応)。まるでハンディ・レコーダーのように、簡単に操作できるよう設計されている。ベーシックを録音した後、写真右下のOVERDUBボタンを押せば追加パートを重ねられるようになる ▲本体にスロット・インしたSDカードへ最高24ビット/96kHzのマルチトラック録音が行えるレコーダー機能(SDXC規格対応カードなら512GBのものまで対応)。まるでハンディ・レコーダーのように、簡単に操作できるよう設計されている。ベーシックを録音した後、写真右下のOVERDUBボタンを押せば追加パートを重ねられるようになる

LiveTrak L-12を手にして僕が何度も口にしたのは、自分が学生のころに本機を手にしていれば一日中触っていただろうなということ。

総合的な印象としては、ミュート・ボタンよりもREC/PLAYボタンの方が大きかったり、モニター・アウトがヘッドフォン向けであることなど、エンジニアを兼ねたミュージシャンが使うことで機動力をさらに発揮できると思った。特に打ち込みのトラックと生楽器のバランスは、エンジニアとミュージシャンの間で解釈が分かれてしまうことが多いので、制作者自身がバランスを取って自らモニター・チェックする……という使い方なども良いだろう。

エンジニア不在の簡単なイベントなどでミュージシャン自らがPAをこなす場面に重宝するのと、アイディア次第で作品をクリエイトしたり、記録したものを活用したりすることもできそうだ。

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