高品質オーディオ・アクセサリーで有名なACOUSTIC REVIVE。リスニングに重きを置く製品の多かった同ブランドが、満を持して音楽制作サイドに向けた新ブランド=NAKED BY ACOUSTIC REVIVE(以下NAKED)を立ち上げた。第1弾製品はAVID Pro Tools│HD/HDX用カードとオーディオI/Oをつなぐ“DigiLinkケーブル”のNAKED Digi Cable。このケーブルによって効果的な音質改善が期待でき、既にプロ・エンジニアの間でも話題になっている模様だ。そんなNAKEDのケーブルの魅力を探るべく、開発者である石黒謙、氏のインタビュー。続くページでは、実際にH ZETTRIOのライブ・レコーディングでも同ブランドのケーブルが使われたとのことで、その使用感もレポートする。
PC-TripleCやフッ素絶縁へのこだわり
昨今はケーブル市場も確立され、各社から多くの製品がリリースされている。その中でもNAKEDは、ケーブル界の名匠とも言える石黒氏が打ち出した注目のブランドだ。まずはNAKEDケーブルの核とも言える導体の仕様について、石黒氏に解説していただいた。
「導体には“PC-TripleC”を使用しています。これは非常に画期的な製法で作られており、簡単に言うならば、銅線を全方向からたたく……刀鍛冶がカタナを鍛えるような感じですね。普通の線材は電流の流れに対して縦に結晶が並ぶ構造なのですが、この製法を行うことで内部のすき間がなくなり、横に連続する結晶構造になります。それによって電気がよりスムーズに流れ、音質も高密度なものになっていくのです」
この製法で処理された線材は、最終的には元の径の約80%まで圧縮されて高密度化するという。これによって作られる導体=“PC-TripleC”の特許は別の会社が持っているのだが、石黒氏もその開発にかかわり、いち早くNAKEDケーブルでの採用に至ったそうだ。続いて話は導線を覆う絶縁体に及ぶ。
「いくら導体が良くてもケーブルの性能が上がるわけではなく、絶縁材の種類によっても導通特性は変わってくるため、NAKEDはフッ素系の樹脂を絶縁に使っています。一般的なケーブルでは塩ビ(PVC)がよく使われていますが、それに比べてフッ素系は誘電率が低いんです。ケーブルの中には電気が流れていますから、それを引き付ける力=誘電率は低い方がいい。事実、誘電率は塩ビが5.6、フッ素系は2.1となっています。ただしフッ素絶縁にも帯電しやすいという弱点があって、いわば静電気を帯びる特性があるわけです。導体の回りに静電気が集まってくるというのは音質にとって良くないので、その対処法として緩衝材に天然のシルク(絹)を使っています。絹は帯電しにくく、なおかつプラス方向に帯電する特性があります。それに対してフッ素絶縁はマイナス方向に強く帯電するんですね。つまり、両者を組み合わせることで帯電が打ち消し合い、伝導特性が高まるわけです」
素材自体を吟味し、しかも絶妙な組み合わせでケーブルを作り出す石黒氏。今回のNAKED Digi Cableは、DigiLinkケーブルの仕様に沿って内部に26本の芯線が組み込まれているが、そこにも石黒氏ならではの美学があるようだ。
「芯線は、撚り線ではなく単線を使っています。細かい線を撚った芯線だと、線と線の間を飛び交う迷走電流が発生します。この現象が本来の伝送意図とは違う場所で起こるので、音質でいうと“チリチリ”“ザワザワ”といったノイズやひずみにつながっていくんです。しかし、単線ならば迷走電流の心配が無い。私が単線にこだわるのはそういう理由があるのです」
劣化の無い“原音忠実主義”を目指して
ここで一つ疑問に思った人もいるかもしれない。“Digi Cableのようなデジタル・ケーブルは情報が伝送されるだけだから、ケーブル自体が音質に関係するのか?”ということだ。これに対し、石黒氏が明解に答えてくれた。
「確かにデジタル・ケーブルは符号を送っているだけです。ですが、伝送状態はアナログですよね……電気ですから。そうなると、例えばケーブルの精度が悪ければデジタル伝送に反射が起こり、エラーやジッターにつながってしまいます。また、ケーブルのシールドが甘いと外来ノイズが飛び込んでしまい、デジタルの符号自体はちゃんと送られますが、デジタル伝送に乗っかったノイズが行った先で悪さを起こして、結果的に音質が劣化してしまうのです」
ここまででお分かりのように、石黒氏が目指すのは“原音忠実主義”。ケーブルでの情報劣化を防ぎ、いかに正確に伝えるかという点にこだわり続けているのだ。
「はっきり言って、ケーブルは無いに越したことはないと思うんですよ(笑)。ただ、つながないと機器同士の伝送ができないのでケーブルを使わざるを得ないわけですが、そこで情報のロスや変質が起こってしまうと各機材のパフォーマンスもフルに発揮されない。だからこそ、NAKED/ACOUSTIC REVIVEのケーブルはロスや変質を防いで、根本的なクオリティを改善するという方向で作っているんです。実は、こういう方向性を打ち出すケーブル・メーカーは意外と無いんですよね。極端に音を変えるケーブルが主流で、それらはどこかの帯域にピークを作ってそのインパクトで聴かせようとする。例えば、ちょっとハイを上げると、パッと一聴したときに鮮度が上がったと勘違いしてしまいますが、それはひずみやノイズ成分でできているピークなんですよね……いわばEQです。だったら最初からEQを使えばいい。“ケーブルで音作りをしよう”という発想がそもそも間違いだと思うんです。ケーブルで音が変わるというのはどこかにピークやディップができているわけですから、簡単に言えば品質不良ということになりますよね。オーディオ・メーカー製のケーブルをいろいろ試してみても、最後は業務用ケーブルに戻ってしまうのはこのためです。とにかく周波数特性はフラットで、伝送によるエネルギー・ロスが無いことが重要です」
別掲の価格を見ても分かるように、Digi Cableはケーブルとしては決して廉価ではないが、高級オーディオ・ケーブルのように手の届きそうにない価格でもない。
「価格に関しては頑張って可能な限り下げました。NAKEDケーブルは直売のみなのですが(naked-cable.com)、それも流通コストを削減するためなんです。それから、ケーブルの良さは実際に使ってみないと分からないものだと思うので、NAKEDではフリー・レンタルも行っています。実際に試してもらって、皆さん自身で良しあしを判断してから購入を決めてもらった方が良いと思うんです」と石黒氏。まさにフリー・レンタルは製品に対する自信の表れと言えるだろう。
「多くのクリエイターに、より良い状態で音楽を作ってほしい」という石黒氏の願いが元となっているNAKEDケーブル。なお、第2弾以降の製品としては、ギター/ベース・ケーブル(シールド)の先端に装着することで、ケーブルの途中で乗ってしまう余計な電気ノイズを除去するフォーン・プラグ型のノイズ・サプレッサー(除去装置)が発売されたほか、ベース専用ケーブルの発売予定があるなど、今後もラインナップを拡充していくとのこと。原音忠実主義のサウンドをぜひ一度味わってみてほしい。
<<User Comment>>
日下貴世志〜「他製品に無い“心地良い響き”」
「NAKED Digi Cableは知人に薦められて使ってみたのですが、音のすべてに余裕が生まれ、いろんなところに少しずつこびりついている“エグさ”が無くなったように感じます。どこかの帯域がブーストされたり特徴的になるという印象は無く、むしろストレートで素直にモニターできる……例えば、ミュージシャンが鳴らしている楽器をそばで聴いた音がそのまま表現されるような、他の製品では味わったことの無いような心地良い響きがあります。当然、モニター音がシビアになる分、出音/録り音が悪いとその部分もハッキリと出ます。金額的には、確かに純正のDigiLinkケーブルよりも高価だとは思います。しかしプロたるもの、最上の環境で最高のパフォーマンスを引き出して優れた作品を作るべきですし、良いと感じたツールはどんどん取り入れる方がいいと私は考えています。コスト・パフォーマンスを考えると十分期待に添えるものだと思いますし、実際に私もこのDigi Cableが使えない状況はもはや考えられないほどほれ込んでしまいました」