Ableton認定トレーナーの宮川です。前回に引き続き、Max for Live(以下、M4L)を含むLive Suite付属デバイスを活用したランダマイズ・テクニックを紹介します。前回は比較的エレクトロニカ的な落ち着いた雰囲気の楽曲に相性の良い内容が中心でしたが、今回は、よりダンス・ミュージック的なテンポ感の楽曲でも使用できるものをピックアップしてお届けします。
Simpler&Vocoderで意外性のあるコード・バッキングを得る
私はコード・バッキングのリズムを考えるとき、いかに手癖から離れ意外性のあるパターンを作れるかを重視します。その際によく使うのが、Live Standard以上で付属するオーディオ・デバイスのVocoderで、コード・バッキングの音程とリズムを別のトラックで連動させる手法です。
まずMIDIトラックに好きなインストゥルメントを読み込み、音色を決めます。このトラックはVocoderの入力ソースになるので、倍音の多い音色が良いでしょう。例として、ここではWavetableでノコギリ波をユニゾンさせた“Super Saw”を使用します。MIDIノートは、リズムを付けずにロング・ノートでコード和音を入力。
別トラックにSimperを立ち上げ、楽曲のテンポにマッチしたドラム・ループをインポート。MIDIノートを打ち、ループが再生されるようにします。次にVocoderをインサートし、CarrierをExternal、Audio Fromを先ほど作成したコードのトラックに設定して再生すると、ドラムのリズムに連動したコード・バッキングが作れます。
もちろんSimplerに読み込むドラム・ループを差し替えることで異なるパターンを作ることができますが、ここではドラムの演奏自体をランダムにすることで、さらに予測できない刺激的なバッキング・パターンを作ります。その場合、SimplerをSliceモードに変更します。その前段にArpeggiatorをインサートし、StyleをRandomに設定。スライスした中から使用したいサンプルのMIDIノートを和音になるように入力して再生すれば、ランダムなリズムでコード・バッキングを作成できます。VocoderのBW(バンドパス・フィルターの帯域幅)を最大にし、Depthの値を下げることで、元のシンセ・トラックにサウンドを近づけることが可能です。
さらに、ここからドラムのリズムに連動させてシンセ・プラックのような表現をすることが多いのですが、その場合はVocoderの前後にAuto FilterとEnvelope Followerをインサートし、入力された音量に応じてフィルター・カットオフが動くようマッピングします。
なお、前回も紹介しましたが、ランダムで生成したフレーズや音色は、再生ごとに内容が変化するので、演奏内容を固定できません。ベストなテイクを確定させるためには、一度オーディオ・トラックでループ・レコーディングし、後からテイクレーンで使用するテイクを選んでいくとよいでしょう。
SimplerをArpeggiatorでランダムに再生するテクニックは、ドラムのフィルを含む複雑なパターンが欲しい場面でもよく使用します。先ほど同様に演奏させるだけでも十分面白い効果を得られますが、フィルを作る場合は、よりアグレッシブな印象を持たせるため、エフェクトで音色にもランダマイズを加えることが多いです。
LFOをRandomに設定し、フィルのタイミングに合わせてRateを設定します。あとは好きなエフェクトの任意のパラメーターをマッピングするだけ。私がよく使用しているのはPhaser-Flanger内PhaserのAmountやReduxのRate、EchoのTimeなどです。これらのエフェクト後段にUtilityのWidthでステレオ感にもランダマイズを加えると、楽曲の中でより強く耳を引くドラム・トラックを作ることができます。エフェクトによって音量感にムラが出てしまう場合は、最終段にLimiterを用いてピークを抑えておくとよいでしょう。
Emitでグリッチ・サウンドを自在に生み出す
トラックに過激なグリッチ・サウンドが欲しいとき、私が最初に立ち上げるM4Lデバイスの一つが、『Inspired by Nature』に収録されているグラニュラー・シンセのEmitです。Emitは、読み込んだサンプルを縦軸が周波数、横軸が時間軸のスペクトログラムとして表示し、Emitterと呼ばれる枠内から排出されたパーティクル(球体)が通過した部分の音色を鳴らします。
Emitter Positionと呼ばれるx/y/w/hの4つのパラメーターでは、Emitterの位置=球体のスタート範囲が指定できます。Forceは球体の初期速度、Frictionは減速度合い、Angleでは再生方向の角度を調整でき、Bipolarはマイナス方向の動きを加えられます。Speedは球体の基本移動速度の制御です。MIDIモードのMIDI Note Pitchをオンにすると、入力するMIDIノートに応じて音程をコントロールできます。例えばSpeedとForceを最大値、Frictionを0、Emitter Positionをループ全体に設定すると、ループ全体が細かく刻まれることでランダムにグレインが散り散りに発音され、アカペラのようなシンプルなループも過激なグリッチに変化します。
コードやメロディなど複数の要素が混ざったファイルを使用し、ForceやFrictionで球体の動きを制限すれば、よりメロディックでグリッチほど破壊的ではないサウンドを作ることも可能です。
Emitで作成したサウンドは、ランダム要素が強いためビートになじまない場合もありますが、その場合はM4LデバイスのShaperで音量を制御する方法もお勧めです。ShaperはLFOと同様にほかのデバイスの任意のパラメーターを変調するデバイスですが、より自由なカーブで周期的な変化を作り出します。今回は16分音符で連打するニュアンスを加えるため、減衰するカーブを書いてRateを1/16に設定。これをEmitのGainにマッピングすることで、16分音符で刻まれ続けながらもランダムに変化し続けるサウンドが作られます。
今回もLFOやShaper、Envelope Followerなど、ほかのパラメーターに対しモジュレーションを行うデバイスがたくさん出てきました。オートメーションだけでなく、さまざまなパラメーターに対し変調し動きを与える手法は、新しい音楽表現を生み出すのに最適と感じています。Liveならではの制作スタイルとも言えますので、ぜひ活用いただき、ご自身のスタイルを模索してみてください。
宮川智希
【Profile】15歳の時、たまたまシンセサイザーという存在を知り音楽の面白さにのめり込む。自身のバンドやサポート・キーボーディストなど主にプレイヤーとしての活動後、2010年にL75-3というユニットでボカロPとして音楽制作を開始する。その後、作編曲家としての活動を経て、現在は制作業と並行しDTMスクール・メディア・サイトSleepfreaksの講師として指導を行っている。
【Recent work】
『アタタタ』
L75-3
(Sleepfreaks Records)
ABLETON Live
LINE UP
Live 11 Lite(対象製品にシリアル付属)|Live 11 Intro:10,800円|Live 11 Standard:48,800円|Live 11 Suite:80,800円
*オープン・プライス(記載は市場予想価格)
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS X 10.13〜12、INTEL Core I5以上またはAPPLE M1プロセッサー
▪Windows:Windows 10 Ver.1909以降、INTEL Core I5以上またはAMDのマルチコア・プロセッサー
▪共通:8GBのRAM、オーソライズに使用するインターネット接続環境