今をときめくトップ・クリエイター7組に、作品で使用する珠玉のオーディオ加工テクを伺う当特集。第3回はサウンド・プロデューサー/シンガー・ソングライターのESME MORIに披露していただきます。
その1:Piano 〜曲の流れを想定して演奏し自然な逆再生トラックを作成
参考楽曲
「UTSUROI」東方神起 (エイベックス)
【Time】0:09~
オーディオの逆再生はよく使われるテクニックだと思いますが、自分は曲の流れに合うよう、ある程度小節の長さやフレーズを計算して元のフレーズを演奏/録音しています。例えば逆再生したトラックを段々と高い音にしたい場合は、最初に高い音を弾いて、徐々に低い音で演奏する。強弱の場合も同様です。ピアノのサンプルなどを使うよりも、曲に合った逆再生トラックを作ることができます。
できたものが予測から外れてしまってもそれはそれで良くて、ルールをあらかじめ決めて弾いているかどうかがポイントです。予期せぬ面白さが生まれてくることも、逆再生の魅力ですからね。
その2:Vocal FX 〜ボーカル・サンプルからシームレスなメロディを作る
参考楽曲
「ハロー」(『POINT TO POINT』収録)松下洸平(ビクター)
【Time】2:50~
この曲の終盤では、ボーカル補正プラグインのSOUNDTOYS Little AlterBoyを使い、パラメーターのPITCHとFORMANTにオートメーションを設定し、曲の展開に合わせて書いていくというテクニックを使用しました。ソフト・サンプラーやカットアップでも新たなメロディを付けられますが、この方法だと途切れることなく、ピッチが上がったり下がったりする過程が見えるシームレスなメロディになるんです①。使用するサンプルは、自分でメロディを書くので単調な1ノートのもので構いません。
あとは、4つ打ちのタイミングでかかるサイド・チェイン・コンプをかけています②。ビートが4つ打ちの楽曲なので、そのダイナミクスに合わせてダッキングさせることで、よりカオスな感じも出しながらグルーブを出すこともできるんです。
その3:Piano 〜ピアノの減衰部分をカットしてグルーブを生み出す
参考楽曲
「血流」(『the meaning of life』収録)yama(ソニー)
【Time】0:01~
リアルタイムで演奏して打ち込んだピアノの減衰部分をカットし、余韻を無くしてカットアップ感をあえて出すことでグルーブを作ります。ピアノのMIDIトラックをオーディオ化した後に元のMIDIデータと比較して、打鍵部分よりも少し短くするイメージです①。ピアノのソフト音源によっては打鍵音やペダルの音などを加えることができますが、そういった“生っぽい”部分はあらかじめ鳴らないようにしておきましょう。
それから、サチュレーションやビット・クラッシャーをかけてカットアップ感を強調すれば、より音に勢いが出てきます②。余韻部分をカットしていることでピアノの音のみをひずませることができ、耳に残る良い違和感を演出可能です。切れ際に発生するプチプチしたノイズも大きくなるので、短いフェードを書いて鳴らないようにするのもお忘れなく。ここまでのアタック感はソフト音源のピアノのままでは出せないので、オーディオ加工ならではの部分ではないでしょうか。
その4:Lead 〜楽器が弾けなくてもOK!声をひずませてリードに加工
参考楽曲
「SHELTER」(『Ego』収録)アルバ・セラ(ソニー)
【Time】1:39~
声で録音したメロディを大きくひずませて、シンセやエレキギターに聴こえるようなリード楽器パートを作りました。元々はデモ的に録っていたのですが、結果的に面白い音が出来上がり、本テイクに採用されています。
ポイントは、ピッチ補正プラグインを使うこと。ここではAPPLE Logic Pro付属のPitch Correctionを使い、曲のキーから外れてしまう音が鳴らないようにしました。あとはコンプをがっつりとかけて、サチュレーションでかなり大きくひずませることで、主役となる楽器のような印象を持つ音色に生まれ変わります。ブレスがあるのは楽器としてはおかしいのですが、すごく楽器的な音像になっていたので、あえてブレスのみを上から重ねて強調しました。
楽器を弾けない方がMIDIで打ち込んで人間味を出すのは難易度が高いものですが、ぜひこのテクニックを使ってみて肉体的なソロを録音してみてください。
ESME MORI
【Profile】サウンド・プロデューサー/シンガー・ソングライター。ヒップホップ・サウンドに衝撃を受け、独学でトラック制作を始める。CM音楽、アーティストへの楽曲提供/プロデュース、劇伴など、多岐にわたる活動を行う。