坂東祐大×Tomggg×前久保諒×網守将平『17才の帝国』座談会【前編】〜気鋭作曲家たちの制作技法

坂東祐大×Tomggg×前久保諒×網守将平『17才の帝国』座談会【前編】〜気鋭作曲家たちの制作技法

今年5月にNHK総合で初回放送され、現在BS4K放送中のドラマ『17才の帝国』。数々のアニメを手掛ける吉田玲子による脚本で、政治AI“ソロン”を導入した実験都市“ウーア”を17歳の高校生、真木亜蘭(神尾楓珠)が統治していく様子を描くSF作品だ。劇中音楽は、作曲家の坂東祐大(写真右から2番目)、Tomggg(同右)、前久保諒(同左から2番目)、網守将平(同左)が共同で制作。大胆でスリリングな電子音や繊細な生演奏が見事に融合し、作品の世界を彩る。ここでは4人の座談会が実現! 前編では、物語のキーとなるシーンで使用された楽曲の制作手法に迫る。

Text:Kanako Iida Photo:Hiroki Obara

映像を見て作る“フィルム・スコアリング”という作業

ー今回の制作に至ったのはどのような流れだったのでしょうか?

坂東 『大豆田とわ子と三人の元夫』も手掛けたプロデューサーの佐野亜裕美さんから連絡をいただいて、チャレンジできる機会なのであまり劇伴をされたことのない若手の作曲家の方を紹介してくれないかと。ただ佐野さんの求めるクオリティはとても高いので、プロジェクトとしてとてもカロリーが高いんですね(笑)。初めて劇伴をやる方にすべてお願いするのはちょっとハードルが高すぎるのでは、というところでしばらく考え込んでいたんです。内容が“17才の帝国”ということで、10代のトラック・メイカーの方に、とかも考えたんですけど、映画『竜とそばかすの姫』の音楽を岩崎太整さん、Ludvig Forssellさんと共同で作曲したのがすごく良かったので、いろいろな作曲家が参加する形をドラマでもできないかなと思って僕が信頼している方、誘ってみたかった方に声をかけさせていただきました。今回はVFX(ビジュアル・エフェクツ、撮影後に作る映像効果)があるので作品の撮影後に映像を編集するポスプロの期間が結構長く、放送前に全話のラフ編集ができていたんです。脚本も5話(最終話)までできていて。

坂東祐大【Profile】作曲家/音楽家。1991年生まれ。 東京藝術大学、同大学院修士課程作曲科を修了。 多様なスタイルを横断しつつ、音楽の刺激と知覚の可能性などをテーマに、創作活動を行う。作品はオーケストラ、室内楽から立体音響を駆使したサウンド・デザイン、シアター・パフォーマンスなど多岐にわたる。映像作品の音楽に、ドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』(坂元裕二脚本)、日本アカデミー賞最優秀音楽賞を受賞した映画『竜とそばかすの姫』(細田守監督、 音楽:岩崎太整、Ludvig Forssellと共に )などがある。2022年、作品集CD『TRANCE / 花火』を発表。

ー皆さんは、坂東さんから最初にお話が来たときにどのように思われましたか?

網守 坂東とは付き合いが長くて腐れ縁なので、基本的には“やってやるよ”みたいな(笑)。

坂東 ありがとうございます(笑)。

網守 つまらない作品だったらどうしようと思ったんですよ。でもめちゃめちゃ面白くて。TVドラマでSFの表現をするというかなり果敢なことをやろうとしているのと、現実社会とつながる批評性も興味深かったので、結果的には友達だからやるというのを超えて、そういう作品に携われるのならぜひ、というアティテュードでしたね。

Tomggg 僕は劇伴を担当するのが初めてで、坂東さんからも初めて連絡をもらって、InstagramのDMで“こういうドラマの劇伴をやるのでぜひ仕事をお願いしたいんです”というので、秒で“やりたいです”とお答えして。そのときは中身を詳しく知らなかったんですけど、吉田玲子さんが脚本をされていたり、『大豆田とわ子〜』のチームがかかわっていたりと知って、結構すごいことなんじゃないの?とじわじわ感じて曲を作り始めました。

前久保 僕は坂東さんとEnsemble FOVEで4〜5年くらい仕事をさせてもらっていて。坂東さんは作曲で、僕はチームのマネージメントやプレイヤーを集めたりする制作を担当しています。でも去年僕がFOVEと別で演劇の自主公演を企てて、友達に脚本を書いてもらって僕が音楽を付けたんですけど、それを坂東さんに聴いてもらったら“いいね”と言ってもらい、そしたら急にこのお誘いを受けて。制作でなく作曲ということで“マジか”と(笑)。僕も劇伴は初めてで、チャレンジだと思って引き受けました。NHKドラマだとCMが入らないので、民放局のドラマのテンポ感とはまた違う感じで音楽を作り込める余地があるかなと。何か発見できるといいなと思ってプロジェクトに参加させていただきました。

 

ー劇伴制作が初めての方もいる中でどのように制作を進めたのでしょうか?

坂東 1、2話の映像がだいたいできた段階で、テーマ曲と僕がスケッチで作っていた何曲かを映像に貼った状態でシェアして、みなさんに“この部分をどうでしょう?”とそれぞれお願いして作っていただきました。TVドラマだと大体は映像が上がる前に音楽制作をスタートしないといけないのですが、今回は映像を見て作っていただく“フィルム・スコアリング”という作業ができたので当て書きしていただいて、3〜5話はその1〜2話で作った音楽を使いつつ、足りないところを追加で順次作っていきました。Tomgggさんは追加曲多かったですよね?

Tomggg と言っても3〜4曲とかです。

前久保 坂東さんが一番多いですよね?

坂東 特に強い印象は感じないけど、書き下ろさないと絶対にストーリーとしてつじつまが合わない曲、みたいなものをたくさん作っているので、20曲くらい追加しました。でもこれは海外の作品ではよくあることだと思います。

 

ーそれぞれの方にシーンを振り分けたのですね。

坂東 そうですね。例えばTomgggさんには各話ラストのシーン、網守さんには1話で重要な市議会を廃止にするシーン、前久保さんには2話のヤング・ケアラーについて取り上げるシーンというように、各話のキーとなるシーンを中心にお願いしました。

 

“生楽器なのか電子音なのか分からない音”で緊張感を演出

ー具体的にその各シーンの曲について伺いたいのですが、まず市議会廃止のシーンで使われた網守さんの「Cabinet Meeting」はどのように制作したのでしょうか?

網守 坂東と打ち合わせたときに面白くて共感したのが、“生楽器なのか電子音なのか分からない音”で緊張感を演出できないかと。確かにそれもアメリカではよくあるけど日本にはあまりないのでやってみました。結構高価なモックアップを導入したりして、だけどそれをエレクトリックに換骨奪胎していくというか、“生だと思ったら意外と電子音かも”みたいな“拮抗(きっこう)状態”が閣議の様子にも通じるよねと。

網守将平【Profile】音楽家/作曲家。 東京藝術大学音楽学部作曲科卒業。同大学院音楽研究科修士課程修了。 学生時代より、クラシックや現代音楽の作曲家/アレンジャーとして活動を開始し、室内楽からオーケストラまで多くの作品を発表。近年はポップ・ミュージックからサウンド・アートまで総合的な活動を展開。さまざまな表現形態での作品発表やパフォーマンスを行う傍ら、大貫妙子、原田知世、DAOKOなど多くのアーティストの作編曲に携わる。またNHK Eテレ『ムジカ・ピッコリーノ』の音楽監督を務めるなど、テレビ番組やCMの音楽制作も多数手掛ける。

ー具体的にはどのような音色を使ったのですか?

網守 SPITFIRE AUDIO Solo StringsやNATIVE INSTRUMENTS Session Strings、HEAVYOCITY Novo Pack 02 – Rhythmic Texturesに、EQ/フィルター・プラグインのUVI ShadeやOUTPUT Portalで変わったトレモロみたいな効果をかけたり、パーカッションのHEAVYOCITY Damageなども使いましたね。ピアノはSYNTHOGY Ivory Ⅱとニルス・フラームのピアノをモデリングしたNATIVE INSTRUMENTS Noireとか。

 

ー途中でビリビリする質感のサウンドがありますが、その正体が何の音か分からず……。

網守 それはうれしいですね。いろいろなループを重ねています。OUTPUT Analog Stringsなどでループを生成して、満足いかない隙間のようなところがあると、昔CYCLING '74 Max/MSPとかで作った膨大な素材の中から、16分音符単位で“パッ”という一音だけ突っ込んで補完したりもしていて。でもそういう音だけすごくハイファイになったりするので、その一瞬の音にKYLE BEATS Dripをかけてアナログ感を足したりもしています。それらがヒリヒリした緊張感につながればいいなというもくろみでバランスを取ったりしました。

 

ーDAWは何をお使いですか?

網守 僕は8割方APPLE Logicですね。たまに特殊な音が欲しいときとかラップトップでライブするときにABLETON Liveを使ったりはします。Liveでわざと変な音を生成してLogicに持って行くとかも元気があればやります(笑)。

Tomggg めちゃめちゃ分かります。

網守 やりますよね!

網守によるAPPLE Logicの画面。下部のトラック54からは“Loop”と名前が付いており、トラック65以降はその隙間を補完するようにCYCLING'74 Maxで制作された素材(青色)が並んでいるのが見て取れる

使用したプラグイン群。左上はループ素材に使用したOUTPUT Analog Strings。網守は“繊細な印象があって好き”だと語る。隙間はMaxで作った素材で補完。右上はパッドやチェロ音源として使用したSPITFIRE AUDIO Labs。右下のNATIVE INSTRUMENTS Massive Xは、ベースやキックに使用

左から時計回りに、HEAVYOCITY Novo Pack 02 – Rhythmic Textures(ストリングス)、OUTPUT Portal(サイド・チェイン・コンプをかけたストリングスに隠し味的なトレモロとして使用)、VALHALLA DSP ValhallaDelay(エレキギターのE-Bow用)、Logic内蔵のCompressor(ストリングスのサイド・チェイン用。サイド・チェインにはMassive Xで作ったキックを使用)

コントラバスの最低音“ミ”より低い“ド”を生でレコーディング

ーTomgggさんの「A sign of snow」は物語に欠かせない終盤の場面で流れますね。

坂東 プロデューサーと監督陣がこの曲がないと終われないと(笑)。今回監督が“アニメの質感を実写でやる”ことを意識していて、アニメが終わるときに定番で流れる曲みたいな感覚に陥るらしくて。4話でTomgggさんの別の曲に変えてみたんですけど、やっぱりあの曲じゃないと締まらないから変えてほしいと(笑)。

Tomggg【Profile】ビート・メイカー/音楽プロデューサー。1988年千葉県生まれ。 国立音楽大学大学院修士課程 作曲専攻修了。 Tomggg(とむぐぐぐ)というアーティスト名で“ものすごく楽しくなる音楽”をテーマに活動。kiki vivi lilyとのコラボ楽曲「License of Love」がAPPLE社のCMに起用され、Spotifyの月間リスナーが10万人を超えるなど、国内外のエレクトロニック・ミュージック・シーンに存在感を示す。2021年からは国立音楽大学にて非常勤講師を務める。

Tomggg これは1話をもらったときに作りはじめた曲でした。SEQUENTIAL Prophet Rev2 Moduleにテケテケ言っているような16分音符のパルスのMIDIデータを送って、それをアルペジオみたいな感じで使って、その上に打楽器系のビブラフォンやマリンバを入れたり、ストリングスの低音を重ねています。コントラバスの一番低い音って“ミ”なんですけど、ドとミを行き来する進行だったので、どうしてもその下の“ド”が欲しくなってプラグインのコントラバス音源をピッチ・ダウンして使っていたら、坂東さんに“生で録りませんか?”と言ってもらって。実際にNHKのスタジオでドロップCチューニングのコントラバスと、5弦のコントラバスと、エクステンドというか……。

坂東 一番下のE弦を延長できるコントラバスを持っていらっしゃる奏者がいるんです。

本作では3名のコントラバス奏者が参加。左から、地代所悠、Tomggg、篠崎和紀、布施砂丘彦、坂東祐大

Tomggg それでレコーディングして、倍音の下の方が鳴っているようなめちゃくちゃすごい生弦の低音を手に入れました。そのコントラバスの低音とハードウェア・シンセのサブベースを重ねて、さらにサチュレーションのBRAINWORX Elysia Karacterを入れた結果、すごくバリバリ言う低音を作れたので、盛り上がる展開の低域でずっと鳴らしています。あと、話しながら思い出してきたのですが、最初ストリングスと電子音だけで作っていたんですけど、ドラマに出てくるスノウ(女性のAI。姿は山田杏奈、声は塩塚モエカが担当)の冷たい印象がどうしても出せなくて。Prophet Rev2だと温かい音になってしまうので、ピアノ音源のNATIVE INSTRUMENTS Una Cordaをアルペジオで足したら良い感じになりました。サチュレーションを混ぜて少しとがった音にしています。

 

ー前半で使われている金属的な音も印象的ですね。

Tomggg OUTPUT Portalで作ったグラニュラーのようなディレイと、背景音を作るような音源のSPITFIRE AUDIOのPercussion Swarmを混ぜたらキラキラ降り注ぐような音になりました。

Tomgggが使用したプラグイン群。画面左上のSPITFIRE AUDIO Percussion SwarmとOUTPUT Portalのエフェクトでキラキラした雪のような質感を表現。画面中央のNATIVE INSTRUMENTS Una Cordaはメインのピアノ音源として使用された。右上はコントラバスにひずみを付加したBRAINWORX Elysia Karacter。右下のSOUNDTOWER Prophet Rev2 PlugSEはハードウェアのSEQUENTIAL Prophet Rev2 Moduleをコントロールするプラグインで、プログラムの保存とオートメーションの記録に使用した

1、2話まで当てられたら同じテンポ感で行けばハマる

ー前久保さん作曲の「My Vortex」は、1話でヒロインの茶川サチ(山田杏奈)が反対する家族を説得して実験都市ウーアに移住するシーンや、2話で真木が若くして祖母の介護をするヤング・ケアラーであった過去を回想するシーンなどで流れますが、これはどのように作られましたか?

前久保 僕は4人の分業体制の中だとアコースティック担当なので、スタジオ・レコーディングに向けて楽譜を書く作業が多かったんですけど、「My Vortex」は1、2話両方のシーンをにらみながら作った曲でした。転調してチェロなどが出てくる後半部分から作って、その後、1話でサチの弟の樹介(加藤憲史郎)が“海だ!”と言うところに合わせて後半部分が始まるように、前半を作ったんです。この曲はボイシングなどが勉強になりました。僕が書いたバイオリンやビオラはもっと音が低かったんですけど、その場で坂東さんが“2オクターブくらい上げた方がいいんじゃない?”と言ってくれて、やったら全体的にスケール感が出たんです。でも実際に番組に乗せたときはカットしていましたよね?

坂東 内容に対して音楽が“盛り上がり過ぎ”とプロデューサーから指摘があった部分は、その場でステムをいじって弦などのさじ加減を変えていきましたね。

前久保諒【Profile】作曲家。1991年生まれ、埼玉県出身。 東京芸術大学音楽学部作曲家を経て、同大学院修士課程修了。 作曲を西岡龍彦、原田敬子、小鍛冶邦隆に学ぶ。2019年第9回シアター・オリンピックスにて金森穣/原田敬子《still/speed/silence》チーム帯同(音楽オペレーション)。アーツアカデミー東京芸術劇場プロフェッショナル人材養成研修・令和3年度研修生(音楽制作)。Ensemble FOVEメンバー。

ー映像と合わせる段階でパートを抜き差ししたのですか?

坂東 はい。今回は選曲も全部させてもらってMAにも立ち会ったんですけど、試写で見てエモーションに対してオーバーなところは監督やプロデューサー含めみんなで差し引きしました。

 

ー「My Vortex」を使ったシーンは、1、2話とも“前半で苦悩して、後半で前向きな行動に移していく”という展開の作り方ではありますが、違う場面なのに同じ曲を使って同じタイミングで盛り上げられるのはなぜですか?

坂東 僕の経験上、脚本と監督と編集の方が一緒だったら展開のカット割りや組み立て方のテンポ感は劇的には変わったりしないので、1、2話まで当てられたら同じテンポ感で行けばハマることが結構あって。今回は全5話だし、脚本は吉田玲子さんが書かれていて、監督は2人体制でチーフの西村(武五郎)監督はずっとベタ付きでいらっしゃって、丁寧に考えなければいけない部分ではあるのですが、微細な調整でいけるかなというのは狙っていた部分ではありました。

 

 

インタビュー後編(会員限定)では、 Ensemble FOVEや岡田拓郎らによる生楽器のレコーディングの様子にフォーカス。SF作品の音楽トレンド分析も語ってもらいました。

Release

『土曜ドラマ「17才の帝国」オリジナル・サウンドトラック』
坂東祐大、Tomggg、前久保 諒、網守将平
日本コロムビア:COCP-41767

Musician:塩塚モエカ(vo)、町田匡(vln)、安達真理(viola)、小畠幸法(cello)、地代所悠(contrabass)、篠崎和紀(contrabass)、布施砂丘彦(contrabass)、大家一将(perc)、石若 駿(perc、vib)、岡田拓郎(g)、佐々木"コジロー"貴之(g)、ロー磨秀(p)、Kitri(p)、香田悠真(p)、坂東祐大(p)
Producer:坂東祐大、Tomggg、前久保諒、網守将平
Engineer:佐藤宏明、塩澤利安、藤巻兄将、前田洋佑、マイケル・パターソン
Studio:NHK、prime sound studio form、他

公演情報:坂東祐大「耳と、目と、毒を使って」2022年東京公演

    • 日時:2022年10月16日(日)18:00〜
    • 場所:浜離宮朝日ホール
    • 出演:坂東祐大(作曲・構成・指揮)、ほか
    • 価格:全席指定:一般 5,000円、学生券/当日引換券 3,000円
    • 主催:朝日新聞社/浜離宮朝日ホール/日本コロムビア
  • チケット申し込み:
    朝日ホール・チケットセンター
    TEL:03-3267-9990(日・祝除く10:00~18:00)
    イープラス ※一般発売後、ファミリーマート店内端末にて直接購入可能
    URL:https://eplus.jp/yutabandoh/
    ローソンチケット(Lコード:34154)※一般発売後、ローソン・ミニストップ店内端末「Loppi」にて直接購入可能
    URL:https://l-tike.com/yutabandoh/
    MITT TICEKT
    TEL:03-6265-3201(平日12:00〜17:00)

詳細は以下のWebサイトをご確認ください。

関連記事