Petit Brabancon『Automata』 ~ yukihiroが新EPに込めた機材愛とプチブラの未来を聞く

Petit Brabancon

京(DIR EN GREY/vo)、yukihiro(L'Arc-en-Ciel/ds)、ミヤ(MUCC/g)、antz(Tokyo Shoegazer/g)、高松浩史(The Novembers/b)からなる5人組バンド、Petit Brabancon。これだけの豪華メンバーが集まるとなるとワンショットのスペシャル・バンドと思ってしまうかもしれないが、昨年8月発表の1stアルバム『Fetish』を皮切りに初の全国ツアーを行い、今年1月のワンマン・ライブ“Petit Brabancon EXPLODE -01-”を経て、さらに7月からは早くも2nd全国ツアーとなる“Petit Brabancon Tour 2023 INDENTED BITE MARK”を敢行するなど、持続的なバンドというスタンスを明確にしている。

そのツアー直前のタイミングで、1st EP『Automata』が届いた。ラウドな音楽性を核にしながら、メロディアスなナンバーから流麗な打ち込みトラックまで多彩な表情を見せる全6曲。本作のうち2曲の作曲を手掛けたyukihiroにインタビューする機会を得たので、トラック制作やレコーディングの話はもちろん、yukihiroの最新機材情報についても聞いていくとしよう。

“ミニ・アルバム”ではなく“EP”にした

──1月のライブ“Petit Brabancon EXPLODE -01-”の後、yukihiroさんはどのように過ごされていましたか?

yukihiro このEPのレコーディングがメインでした。あとは、常にやっているACID ANDROIDの制作ですね。

──今回のEPリリースについては1月にアナウンスされていたので、そこに向けて作り始めたわけですね。

yukihiro そうです。リリースは細かい日にちまでは決まっていませんでしたが、Petit Brabanconの次のツアー(編注:7月からの“Petit Brabancon Tour 2023 INDENTED BITE MARK”)の前に出すということが決まっていました。

──シングルでもアルバムでもなく、EPという形態を選んだのはメンバーのどなただったのですか?

yukihiro 最初にどのくらいの曲数を入れるかを話し合って、5〜6曲に決まったんです。時間的にアルバムを作るのは難しそうだったので、“その曲数だったらミニ・アルバムだね”という流れになったんですが、“ミニ・アルバム”という言葉に僕はあまりピンと来ていなくて。最終的に“EP”という呼び方でリリースすることにしました。

──このEPを制作するにあたり、何かコンセプトはあったのでしょうか?

yukihiro 特に何か決めてって感じではなかったですね。

──Petit Brabanconはソングライターが複数居ることも魅力ですが、1stアルバム『Fetish』のときと同じように、それぞれが曲のデモを作り、各メンバーが差し替えや肉付けをしていくプロセスだったのですか?

yukihiro そうです。デモをみんなに送って、それぞれがレコーディングしていくという形でした。

──このEPではyukihiroさん2曲、ミヤさん2曲、antzさん2曲という配分ですね。

yukihiro 誰が何曲作るといった配分は全く決めていませんでした。みんなで持ち寄った曲をEP用にセレクトしたら、自然とこういう形になったんです。

yukihiro


──yukihiroさん作曲の1曲目「mind-blow」は2分ほどのノイズ/インダストリアルな質感のインストですが、いわゆる“EPのイントロダクション”というような存在ではなく、しっかりと作り込まれた曲になっていますね。

yukihiro “ライブのSEとして使える曲をEPに入れたい”という話を京君がしていたんです。なので、それを想定して作りました。

──抽象的な音が飛び交いますが、それらのサウンド・ソースは?

yukihiro あれは自分がストックしている素材を加工して作ったものなんです。

──シンセ好きのyukihiroさんだけに、素材加工ではなく、シンセのオシレーターから作っていったのかなと推測しましたが、そうではないのですね。

yukihiro シンセは一つも使っていないと思います。

──素材の加工はどのように行ったのですか?

yukihiro サンプラーでピッチを変更したり、フィルターをかけたりして、さらにミックスで手を加えていくという形でした。サンプラーはAKAI PROFESSIONAL MPC4000です。

──ハード・サンプラーなのですね。しかも2000年代の名機です。

yukihiro 僕はAKAIのサンプラーが好きで、S1000から歴代のSシリーズを使っていて、MPC4000の前はS6000でした。そういえばS6000はストレージにJAZドライブを使っていましたね……今使っているMPC4000もバックアップはMOですね(笑)。

──この2023年にMPC4000を使いたくなるほど、ハードのサンプラーがお好きなわけですね。

yukihiro そうですね。ハードのサンプラーでサンプリングしてサンプルをエディットする作業が好きですね。ソフト・サンプラーだったらワンクリックで出来るようなサンプルの切り出しなども、一つ一つ手動でやっています。

MPC4000

yukihiroの所有するAKAI PROFESSIONAL MPC4000。2002年の発売当時には“24ビット/96kHzで高品位なサンプリングができる!”とビート・メイカーの間で話題となった名機だが、yukihiroは内部シーケンサーやパッド類は一切使わず、サンプラーとして外部MIDIで鳴らしている


──そうした地道な作業がお好きというのもハード機材を使う理由でしょうか?

yukihiro シーケンサーを使ってハード・サンプラーからMIDIでサンプルを鳴らすという感覚が好きだからですね。

──この曲は抽象的なサウンド・コラージュという印象ですが、構成もMPC4000内で組み立てていったのですか?

yukihiro MPC4000のシーケンサーは使っていなくて、AVID Pro Toolsで打ち込んだMIDIデータで鳴らしています。MPC4000はサンプラーとして使っています。

──そうやって作ったMPC4000の音をPro Toolsに取り込んでいくわけですよね。現在はオーディオ・インターフェースに何を使っているのですか?

yukihiro 今はAVID HD I/Oですが、次はPRISM SOUND Dream ADA-128に替えたいと思っていて。発表をずっと待っています。

──HD I/Oに取り込む際にはプリアンプを経由させているのですか?

yukihiro そうです。AMS NEVE 1073 DPXを通して、録音は32ビット・フロート/96kHzでした。

──この曲はyukihiroさんがミックスもしていますよね。歌モノと異なり、SEのミックスは明確な正解が無い分、なかなか難しそうです。

yukihiro 作り始めたときから頭の中にイメージがあって、素材選びからそこを目指して作業してました。メロディや音程がハッキリ見えるのは違うかなと思って……昔、ノイズ/アバンギャルド系のCDを大量に聴いていた時期があったので、そのイメージがありました。

──この曲は完成までどのくらいの時間をかけたのですか?

yukihiro 取り掛かりからミックスまで3日間でした。自分としては速かったですね。意外とすんなり完成したと思います。

Pro Toolsセッション

yukihiroが作曲&ミックスした「mind-blow」のPro Toolsセッション画面。MPC4000上で加工した素材をPro ToolsのMIDIトラックから鳴らして録音しており、画面のトラックを見ても分かるように、一部分のコピペをせずに録っているのがyukihiroらしい。使用プラグインはEQのFABFILTER Pro-Q3、ひずみ系のSOUNDTOYS Devil-Loc、空間系のSOUNDTOYS Crystaliizer、UNIVERSAL AUDIO UAD-2 Lexicon 224リバーブなど

Nord Rack 3はイメージ通りの音が出せるシンセ

──もう1曲、yukihiroさんが作曲した「surely」は打ち込みをベースに各メンバーの演奏が加わったトラックとなっています。そういえば、1stアルバム『Fetish』収録の「come to a screaming halt」はyukihiroさんのソロ・プロジェクト=ACID ANDROIDのストック曲を使ったということでしたが、もしかしてこの「surely」も元はACID ANDROID用の曲だったりしますか?

yukihiro いえ、この曲はPetit Brabancon用に書いています。ただ、『Fetish』を作るときに既に書いていたもので、1年前は“アルバムには入っていなくていいかな”という感じで収録を見送った曲なんです。

──アシッドなシンセや金属音がyukihiroさんらしい一曲ですが、どんなツールを使ったのですか?

yukihiro イントロから聴けるシンセはNORD Nord Rack 3で鳴らしています。それからパッド系にSEQUENTIAL Prophet-6、最後の方に出てくる16分音符のシーケンスはNORD Nord Lead 4R、リフっぽいバッキングはROLAND MKS-80かJupiter-6、それから初代のDOEPFER Dark Energyも使ったと思います。アシッドなフレーズには途中からROLAND TB-03をユニゾンさせたりもしていますが、実機のTB-303は使わず、結果的に一番使ったのはNord Rack 3でした。

──yukihiroさんはMOOG OneやSEQUENTIAL OB-6などのニュー・シンセも導入していたと思いますが、それらは?

yukihiro 今回は使っていないですね。

──そうしたシンセよりも、Nord Rack 3の使用頻度が高かったのですね。

yukihiro Nord Rack 3はずっと使ってきたので、“Nord Rack 3でこういう音を出したい”と思ったらすぐ作れるんです。慣れているのでつい手が伸びるというか。あとマルチティンバーで便利なのもありますね。

Nord Rack 3

yukihiroが今なお絶大な信頼を寄せるバーチャル・アナログ・シンセ、NORD Nord Rack 3。イメージ通りの音作りがしやすいということで、yukihiroが手を伸ばす頻度の高い一台。写真ではMOOG Sirin(上)、NORD Nord Lead 4R(左)、ギョーザ男(右上)なども見える


──それらのシンセもAMS NEVE 1073 DPXを通して、Pro Toolsに取り込む形ですか?

yukihiro そうです。僕の感覚では、自分が所持しているヘッド・アンプからだとシンセは1073 DPXが合っていて、リズム・マシンはビンテージのNEVE 1073を通しています。過度にひずませたりとかはあまりしないです。このレコーディングが終わった後ですけど、そのビンテージの1073のノックダウンを4ch分やり直しました。ちょっと調子悪くなってきたなと感じたので、シャーシをBAKU PRO AUDIOに変えてメインテナンスをお願いしました。それからコンピューターも大根おろしみたいなMac Proにしました(笑)。スタジオ環境は常に少しずつ手を入れています。

──金属音についてはどんなサンプルを使ったのですか?

yukihiro 以前録りためたメタル・パーカッションの素材です。この曲はシンセも含めて、意図的に僕が普段使っている音色を入れています。

マイク・スタンドを変えて劇的に音が変わった

──この「surely」について、デモからレコーディングまでのプロセスを教えていただけますか?

yukihiro デモはほとんど打ち込みで作っていて、メロディ・パートはピアノ音源で入れて、ギターは自分で弾きました。そのデモをメンバーに渡すのですが、どの曲でも最初にアプローチするのは大体は京君で、ボーカル・パートを送り返してもらって、そこから京君と少しやり取りをしました。

──京さんの歌入れは“仮歌は存在せず、本チャンのみ”という話を以前お聞きしました。つまり、ほぼ完成形のボーカル・トラックが早い段階で出来上がるということでしょうか?

yukihiro そうです。その後、僕のスタジオでドラムを録音して、その次に高松君が僕のスタジオに来てベース録りです。高松君は完ぺきに練習してからスタジオに来るので、現場でリクエストすることほとんど無いですね。“ちょっとミュートを早く止めてみよう”とか“そこでブラッシング入れてみようか”とか、その程度です。

──この曲のベース・パートは非常にシンプルですよね。フレーズというよりも点で置いていく感じです。

yukihiro シンセ・ベース的な感じなんですが、それを高松君に弾いてもらいたくて、今回のデモ作りで初めてソフト音源のベースを使いました。使ったのはNATIVE INSTRUMENTS Kontaktのライブラリーだったと思います。

──その後は、ほかのスタジオでミヤさんとantzさんがギター・パートを入れる作業ですか?

yukihiro そうです。ギターは2人で一緒に録音して。この辺は『Fetish』のときと同じ流れです。

──この曲のミックスはエンジニアの原(裕之)さんが手掛けているそうですね。

yukihiro ドラムに関してはほとんどリクエストを出す必要も無く、基本的にお任せでした。シンセまわりはエフェクトも含めて音作りして渡しています。

──yukihiroさんのドラム・レコーディングはどのようなマイキングでしたか?

yukihiro エンジニアの原さんが、僕が所有しているマイクからセレクトしてセッティングしてくれました。スネアの裏がAKG C414なのは、原さんで初めて経験したかもしれないです。

──聞くところによると、yukihiroさんはマイク・スタンドで新たな発見があったそうですが。

yukihiro TRIAD-ORBITのスタンドをトップ・マイクに使い始めたんですが、スタンドを変える前に比べて劇的な変化を感じました。ACID ANDROIDのボーカルを録るときもTRIAD-ORBITのマイク・スタンドを使っています。

──スネアのリムの響きが非常に気持ち良いと感じたのですが、ひずんだギターの中でアタック感を出したいという演奏意図があったのでしょうか?

yukihiro 無意識に“こういう曲調だからこういうショット”というのは頭にあるんでしょうけど、考えながらプレイはしていないです。ドラムってアナログで原始的な楽器なので、僕だけじゃなくて、割と無意識にやっているドラマーの方が多い気がしますね。もちろん理論も大事ですけど、自分の場合は良い音が鳴ったらそれを何度も出したい、今のこのノリが良いからそれを続けたい、という気持ちでたたいています。

──yukihiroさんが特徴的なのは、そうしたドラマーとしての感覚的な面と、クリエイターとしてのロジカルな面を併せ持つ点ですよね。

yukihiro 自分は打ち込みの音楽が好きで、そういう曲で生ドラムを使うリズム・パートに関してはドラマーとしてアプローチするわけですが、そこでシーケンサーと一緒に演奏することの格好良さや面白さを知ってから、追求し続けていますね。

──極端な話、格好良いワンショットのスネアがたたけたら、それを繰り返し貼っていけばいいとも言えますが、そういう制作の仕方はせずに、あくまで生のドラムをシーケンスに合わせたいわけですね?

yukihiro エディットすると決めているプロジェクトなら貼ってもいいんです。でも、そういう決まりがない中で生ドラムを演奏するんだったら、エディットを前提にしたくないという気持ちはあります。

バンドの完成度をもっと上げていきたい

──ほかの曲に目を移すと、「Common destiny」はantzさんの作曲トラックですが、リズム・マシンの音色も聴こえます。これはyukihiroさんが入れたものですか?

yukihiro そうです。antzのデモに打ち込みのドラム・サンプルを使ったトラックが入っていたので、それをリズム・マシンの音にしてもっと分かりやすくするために、実機のROLAND TR-909に差し替えました。この曲はシンセも全部差し替えさせてもらっています。今回は僕のスタジオにあるモノシンセを総動員していて、ROLAND SH-01Aなども使いました。

──ブレイクビーツっぽいサウンドも聴けますね。

yukihiro これは僕がたたいたものをもう一度重ねているんです。ツイン・ドラムになっている感じですね。ループっぽく聴こえると思うんですが、僕が実際にたたいたものです。

──今回、収録曲のタイプがミヤさんはメロディアス系、antzさんはラウド系、yukihiroさんは打ち込みという形で、見事にキャラクターが分かれていますが、そこは意図していたことですか?

yukihiro きっとミヤ君とantzはいろいろ考えながら作っていると思うのですが、僕はそのときにできた曲を提出しています。

──バンド発表から1年半、作品制作やワンマン・ライブを経てメンバー間の距離感に変化はありましたか?

yukihiro バンドは特に変わらないというか……結成したときから良い空気なので。変に気を遣うとか、そういうことは無いですね。

──高松さんは“京さんに話しかけられると緊張する”というようなエピソードを以前語っていましたが、それは変わらず?

yukihiro どうだろう(笑)。高松君は基本的に口数が少ないんですけど、こちらから話しかけると普通にしゃべってくれて、結構盛り上がるんですよ。なので、僕ももっと話しかけていこうと思います(笑)。

──このEPを出して“Petit Brabancon Tour 2023 INDENTED BITE MARK”ツアーへ突入となりますが、どのような意気込みで臨まれますか?

yukihiro 完成度を上げたいということは常に考えています。このバンドにもっと先があると感じているので……でも、完成はしないと思うんです。音楽だけじゃなくて、何事もそうじゃないですか。やっているうちに“これをやってみたい、あれもやってみたい”という気持ちが出てくるし、Petit Brabanconは“ラウドな音楽”という考え方が基本にありますが、アプローチに制限は無いので。もっとバンドの完成度を上げていきたいと思います。

 

『Automata』
Petit Brabancon

【完全限定盤(CD+Blu-ray)】DCCA-116/117(※CD特殊パッケージ仕様)
・Blu-ray(Petit Brabancon EXPLODE -01- 収録)
・キャンバスアート風特殊パッケージ仕様
・完全限定盤 購入者限定オリジナルTシャツ(購入サイトページアクセスコード封入)
※完全限定盤はMAVERICK STOREもしくはGALAXY BROAD SHOPのみで購入可能

【一般流通盤(CD)】DCCA-118
※商品予約:https://www.petitbrabancon.jp/

Musician:京(vo)、yukihiro(ds)、ミヤ(g)、antz(g)、高松浩史(b)
Producer:Petit Brabancon
Engineer:原裕之
Studio:プライベート、aLIVE RECORDING STUDIO、Studio Sound Valley、Sixinc Studio2

 

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