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くじらが使用機材&ソフトを通してニュー・アルバムの制作を振り返る

くじら

ボカロPとして出発し、yamaやAdoをフィーチャーする作品、SixTONESやDISH//らへの楽曲提供でも知られる“くじら”。8月17日にリリースされた自身歌唱アルバム『生活を愛せるようになるまで』は、いかにして生み出されたのか? 使用機材やソフトと共に、その制作手法に迫る。

Text:Tsuji. Taichi Photo:TAKESHI YAO(アーティスト)、Takashi Yashima(スタジオ)

インタビュー前編はこちら:

弾き語り動画を見て“指の形”に学ぶ

くじらさんの楽曲は、6月に配信された「キャラメル」しかり、洗練された響きのコードが特徴的です。

くじら 「キャラメル」は、自分の中ではかなりおしゃれな感じに寄っていて、すごく気に入っています。コードの理論は全く理解していないのですが、コード進行って、ある程度のパターンがありますよね。だからキーを変えたり、コードの順番を入れ替えたり、テンション・ノートを加えたりするうちに、基本的なパターンから派生させることができるようにはなりました。まずはギターでコードを押さえて、一音ずつ鳴らして確かめながらピアノロールに打ち込んでいく。そこに足して奇麗な響きになる音を耳で探すんです。

 

耳で探っておしゃれなコードを1つ作ったとしても、次に来るコードはどのように決めるのですか?

くじら 僕は曲作りの際、最初に詞を書いて、それを歌いながらギター弾き語りの状態にするんです。弾き語りの段階で大枠のコード進行が決まるので、さっき話した方法でピアノロールに打ち込み、“このコードには何かを足したいな”とか“この音が目立ちすぎるから1オクターブ下げてみよう”という発想でボイシングを調整します。あと、自分の好きな曲って結構、コード進行が似ているんです。でもTAB譜付きのWebサイトとかで調べて弾いてみても原曲通りにならないことがあるので、そういうときは原曲のまま弾き語りしている人のYouTube動画を見ます。すると“指の形”から学べるんですよ。“こういう押さえ方をすると、おしゃれな響きになるんだな”といった知識が少しずつ自分の中にたまっていくんです。“丸サ進行”とかは、以前から大好きなコード進行ですね。好きな曲は大抵、この進行というほどに。

 

「アルカホリック・ランデヴー」でも使用されていますよね。グローヴァー・ワシントンJr.「Just The Two Of Us(邦題:クリスタルの恋人たち)」で有名なコード進行で、椎名林檎「丸の内サディスティック」などのJポップやボーカロイド曲にも散見されます。

くじら 僕はもともとベーシストだったし、ベースでもコードって弾けるじゃないですか。だから初期作のギターのコードは、ベースのコードの押さえ方になっているんです。1弦と2弦は、あまり使っていないはずです。

本チャンの歌録りは、レコーディング・スタジオでエンジニア選定のマイクを用いて行うが、プライベート・スタジオではBLUE MICROPHONES Bluebird SLを使用。ポップ・ガードは、メタル製でグース・ネック一体型のSTEDMAN Proscreen 101だ

本チャンの歌録りは、レコーディング・スタジオでエンジニア選定のマイクを用いて行うが、プライベート・スタジオではBLUE MICROPHONES Bluebird SLを使用。ポップ・ガードは、メタル製でグース・ネック一体型のSTEDMAN Proscreen 101だ

写真左上の機材はOZ DESIGN TTB(True Tube Buffer)。12AU7真空管やCARNHILL製トランスを備えるバッファーで、モデリング・アンプなどを実機のアンプ+マイクの音に近づけるという。くじらはKEMPER Profiler Stage(後述)とペダルの間につないでおり「デジタルっぽさが減って生音感が強まる」と効果を実感している

写真左上の機材はOZ DESIGN TTB(True Tube Buffer)。12AU7真空管やCARNHILL製トランスを備えるバッファーで、モデリング・アンプなどを実機のアンプ+マイクの音に近づけるという。くじらはKEMPER Profiler Stage(後述)とペダルの間につないでおり「デジタルっぽさが減って生音感が強まる」と効果を実感している

シンセは音作りより“探す”方を重視

「薄青とキッチン」には、イントロから印象的なギター・リフが入っています。ご自身で演奏を?

くじら はい、自分で。Cubaseの力を最大限に活用しながら(笑)。途中まで弾いて止めて、続きを弾いて止めて……というふうに部分ごとに録っていって、後から1本につなぐんです。ちなみに「薄青とキッチン」のフレーズは普通に弾けるんですけど、そうじゃない曲は細切れに録って、自然に聴こえるよう編集の段階で一本にしています。こういう編集スキルは“弾いてみた”をやっていた頃に培いました。ギターもベースも、そこまで演奏力が高くないので。DTMをやる中で、何が最も得意かと聞かれたら弦楽器の修正と言えるくらいです(笑)。“このテイクは単体で聴くと良くないんだけど、オケの中で鳴らしたらアラが打ち消されて、むしろ良くなる”といった判断もできるようになりました。

 

ギターは、どのようなモデルを使っていますか?

くじら EPIPHONE ES-335、TelecasterやStratocasterといったFENDERのギターをKEMPER Profiler Stageにつないで鳴らしています。KEMPERのプリセットをそのまま使用して、後段にペダルをかますか、かまさないかくらいの音作りですね。僕は機材のパラメーターをいじるのが、本当に苦手で。例えば、ベースは弾き始めて8~9年ほど経ちますが、ペダルを買ったのは先々月くらいが初めてなんです。シンセについても自分で音を作るのではなく、その時間をプリセット探しに充てています。XFER RECORDS Serumというソフト・シンセを愛用していて、そのプリセットがSpliceで大量に入手できるので、曲に合うものを探すのに時間をかけるんです。もしくは“好きかも”と思うプリセットをパソコンの中にためておいて、曲を作るときに選ぶようなやり方。最近のプリセットはよくできていて、“この音、聴いたことがある”みたいなのがたくさんあるから、必要に応じて内蔵のリバーブを切るとか、アンプ・エンベロープを調整するとか、そのくらいでいいと思います。

今回は、自らミックスまで手掛けたのでしょうか?

くじら いえ。曲ごとに、イメージする音像に通じるテイストのエンジニアの方を選んで、ミックスしてもらいました。そもそも音源制作を始めるにあたって、作編曲もままならないのに、エンジニアリングまでイチから勉強して自分でやるというのは無理があるだろうと思っていたんです。現役のプロに委ねる方がクオリティを担保できるし、僕は曲そのものの作り込みに時間をかけられます。ただ、昨今は曲作りからマスタリングまで一人で完結させる方が多く、それこそダンス・ミュージック系のサウンドは、自分の作品へ取り入れようとしたときに“これはミックスありきで作られている音楽なんだな”と痛感することがあるんです。

 

Adoさんに提供した「花火」などは、EDM以降のエッセンスを大胆に取り入れていますよね。

くじら ダンス・ミュージックの世界には、キックの音色をイチから作るような人がいます。それができるのは、最終的な音像があらかじめ見えていて、複数の音を組み合わせたときに、どう処理すれば全体がまとまり良く成立するか把握しているからだと思うんです。ミックスが終わった状態から逆算して、個々の音を作れるというか。習熟すれば音選びから変わってくるでしょうし、だからこそ音数が少なくても厚みや迫力が出せるのかなと。音一つ一つの質と配置、そしてマスタリングの音作りで聴かせるようなアプローチですよね。

KEMPER Profiler Stageは、ギター/ベース用アンプの特性をプロファイルしたデータ×100種類、マルチエフェクト、プリアンプなどを統合した一台。くじらはプリセットをフル活用しており、ペダルと組み合わせて音作りしている

KEMPER Profiler Stageは、ギター/ベース用アンプの特性をプロファイルしたデータ×100種類、マルチエフェクト、プリアンプなどを統合した一台。くじらはプリセットをフル活用しており、ペダルと組み合わせて音作りしている

手前からTAYLORのアコースティック・ギター114E、SUGIのエレキベース、YAMAHAのサイレント・ギターYCJ-SLG200

手前からTAYLORのアコースティック・ギター114E、SUGIのエレキベース、YAMAHAのサイレント・ギターYCJ-SLG200

EPIPHONE ES-335、FENDER Jazz Bass×2台、Precision Bass、Stratocaster、Telecaster、YCJ-SLG200なども所有。楽器はあまり台数を持ちすぎず、少数精鋭にしたいというのがくじらの考えだ

EPIPHONE ES-335、FENDER Jazz Bass×2台、Precision Bass、Stratocaster、Telecaster、YCJ-SLG200なども所有。楽器はあまり台数を持ちすぎず、少数精鋭にしたいというのがくじらの考えだ

歌メロにスウィングのリズム感が内在

くじらさんの楽曲はリズミックでありながら、音の質感というより積極的なアレンジで聴かせている印象です。

くじら Snail's HouseさんのようなKawaiiフューチャー・ベースのサウンドやローファイ・ヒップホップのビートが大好きで。そういうのを丸サ進行などと組み合わせてポップスに落とし込むとどうなるんだろう?……という発想で作っているのが自分の曲なんです。

 

例えば「うそだらけ」のサブベースやシンセ・リードにも、フューチャー系に通じるものを感じます。

くじら 「うそだらけ」や「キャラメル」は、エンジニアの染野拓さんにミックスしてもらいました。好きな音になって返ってくるのがうれしいし、染野さんのミックスを聴くとハイセンスな美術品を見ているような気持ちになります。ツヤがあってマイルドで、音の配置とかをすごく丁寧に作られていると思うんです。リバーブやディレイにしても、すべてがつややかに透き通っているから心が落ち着きますね。

 

今後は、ご自身の歌やフィーチャリング・シンガーなどの生身のボーカルを主体に曲を作っていくのですか?

くじら はい、そうすると思います。ボーカロイドのシーンでは“ダークで格好良い曲”が好まれる傾向にあるんですが、僕はダークな曲が作れないというか、どう頑張っても爽やかな色調になるので、“ワルの血が流れていないな”と思うんです(笑)。それにシンガーの方と制作したり、自ら歌ったりする中でより幅広い表現ができるようになってきました。僕の曲は譜割が難しいんですけど、歌える人がいるなら歌ってもらった方が人の耳になじみやすかなと思っていて。

 

なぜ歌メロの譜割が難しくなるのですか?

くじら 僕の曲には、スウィングしているものが多いんですよね。だから“跳ねたリズム感”を体の中に持たない人が歌うと、違和感が出てしまう。あるとき、曲をスクエアで打ち込んでいたらイメージと出音がどうしても一致せず、試しに3連系のクオンタイズをかけてみたんです。そしたら完璧に一致しましたが、自分以外の人にとっては歌うのが難しい場合もあるようで。だからシンガーの方を探すときは“この人なら技術的に歌える”という視点も込みなんです。

 

スウィングしたリズム感が自然と曲に内在しているのもブラック・ミュージック的ですね。

くじら 今回のアルバムは、いろいろなシーンにマッチする曲を収録していると思うので、まずは聴いていただいて、好きな曲や自分の生活に合う言葉を見つけてもらえたらと思います。聴くことで気持ちをリセットしたり、安らいでいただけるとうれしいですね。

 

 

Cubase Project
「うそだらけ」

「うそだらけ」の作編曲に使ったCubaseプロジェクトの一部。イベントを色分けしないのは、その分のカロリーをアレンジに費やしたいからだという。画面を見るに、シンセ・リードやコードなどの旋律系パートは、基本的にMIDIで作成している模様。音色のレイヤーにも余念がないようだ。ハイハットについては、オーディオ・ループとおぼしき素材がエディットして使われている。“特定のジャンルを象徴するようなドラム・パターン”が欲しいときにループを活用するという

「うそだらけ」の作編曲に使ったCubaseプロジェクトの一部。イベントを色分けしないのは、その分のカロリーをアレンジに費やしたいからだという。画面を見るに、シンセ・リードやコードなどの旋律系パートは、基本的にMIDIで作成している模様。音色のレイヤーにも余念がないようだ。ハイハットについては、オーディオ・ループとおぼしき素材がエディットして使われている。“特定のジャンルを象徴するようなドラム・パターン”が欲しいときにループを活用するという

ギターとベースのトラック。フレーズを通しで弾いて録音せず、“少し弾いて止めて、続きを弾いて止めて……”というのを繰り返し、録った後につないで一本にするという方法を採っている。こうしたギター/ベースのコンピング術は“弾いてみた”をしていた頃に培ったそう

ギターとベースのトラック。フレーズを通しで弾いて録音せず、“少し弾いて止めて、続きを弾いて止めて……”というのを繰り返し、録った後につないで一本にするという方法を採っている。こうしたギター/ベースのコンピング術は“弾いてみた”をしていた頃に培ったそう

くじらの手放せない一品、XFER RECORDS Serum。ウェーブテーブル・シンセで、何系統ロードしても重くならない軽快さ、音の明るさ、内蔵エフェクトの使いやすさをはじめ、パラメーターが多くない点やプリセットをインポートしやすいのも愛用の理由。「うそだらけ」で用いたシンセは、恐らくすべてSerumとのこと

くじらの手放せない一品、XFER RECORDS Serum。ウェーブテーブル・シンセで、何系統ロードしても重くならない軽快さ、音の明るさ、内蔵エフェクトの使いやすさをはじめ、パラメーターが多くない点やプリセットをインポートしやすいのも愛用の理由。「うそだらけ」で用いたシンセは、恐らくすべてSerumとのこと

Groove Agent SE4は、Cubase付属のドラム・サンプラー。現在はSpliceで入手したサンプルを読み込んで鳴らすことが多いそう

Groove Agent SE4は、Cubase付属のドラム・サンプラー。現在はSpliceで入手したサンプルを読み込んで鳴らすことが多いそう

音の立ち上がりが速く、きらびやかな感じが気に入っているというSPECTRASONICSのピアノ音源、Keyscape。画面でロードしているRHODESのエレピ音色は、実機に含まれる打鍵時のノイズなどもリアルに再現されるそう。「購入したとき、なぜもっと早く買わなかったんだろうと思いました」と、くじら

音の立ち上がりが速く、きらびやかな感じが気に入っているというSPECTRASONICSのピアノ音源、Keyscape。画面でロードしているRHODESのエレピ音色は、実機に含まれる打鍵時のノイズなどもリアルに再現されるそう。「購入したとき、なぜもっと早く買わなかったんだろうと思いました」と、くじら

SYNTHOGYのピアノ音源、Ivory II Grand Pianos。お気に入りのポイントは、音色が実際の生ピアノに近いところで、目立たせたいピアノ・フレーズにはKeyscape、背景のようにして使いたい場合はIvory II Grand Pianosというふうに使い分けているそう

SYNTHOGYのピアノ音源、Ivory II Grand Pianos。お気に入りのポイントは、音色が実際の生ピアノに近いところで、目立たせたいピアノ・フレーズにはKeyscape、背景のようにして使いたい場合はIvory II Grand Pianosというふうに使い分けているそう

WAVES GTR3はギター向けのアンプ・モデリング&エフェクトだが、「うそだらけ」のプロジェクトではSerumにインサートされている

WAVES GTR3はギター向けのアンプ・モデリング&エフェクトだが、「うそだらけ」のプロジェクトではSerumにインサートされている

 

インタビュー前編(会員限定)では、 今作で自身が歌おうと思った経緯を中心に、これまでに影響を受けた楽曲や過去の音楽活動など、くじらの歴史にも迫ります。

Release

完全生産限定盤(パッケージ)
完全生産限定盤(CD)
通常盤
左から、完全生産限定盤(パッケージ)、完全生産限定盤(CD)、通常盤

『生活を愛せるようになるまで』
くじら
ソニー:SRCL-12191-2(完全生産限定盤)、SRCL-12193(通常盤)

※完全生産限定盤(8,800円/税込):楽曲CD+浅野いにお描きおろしTシャツ(XL)/特殊パッケージ仕様
※通常盤(3,630円/税込):楽曲CD
※アートワークは漫画家の浅野いにお描きおろし

Musician:くじら(vo、prog、g、b)、関口シンゴ(g、prog、etc.)、サトウカツシロ(g)、渡辺裕太(g)、櫻井陸来(b)、中西道彦(b)、Matt(ds)、GOTO(ds)、望月敬史(ds)、坂本暁良(ds)、水槽(cho)、相沢(cho)、Ado(cho)、アユニ・D(cho)、菅原圭(cho)、yama(cho)、春野(p)、平畑 徹也(p)、Naoki Itai(prog、arrange)、モチヅキヤスノリ(p、arrange)、瀬恒啓(strings arrange)、Satoshi Setsune Strings(strings)、maeshima soshi(additional arrange)
Producer:くじら、関口シンゴ、Naoki Itai
Engineer:染野拓、照内紀雄、金子実靖、yasu2000、小森雅仁、釆原史朗
Studio:GIALLO PORTA、Aobadai

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