ダンス・ミュージックでありながらテンポが速過ぎて踊れない“スピードコア”を制作している特殊音楽家のm1dy(ミデイ)です。今回はガバ・キックをトリガーにした、サイド・チェインの手法を3つ解説していきたいと思います。よく使われる、キックが鳴るタイミングで上モノ全体のボリュームを下げる手法=ダッキングは、音のすき間が無くキックが鳴り続けるスピードコアには不向きです。そこで筆者は、ガバ・キックと周波数帯域が干渉しやすい上モノの低域のみをカットすることで対処しています。
Link to controllerを駆使して
マルチバンド・コンプの低域のみを活用
筆者はWAVESFACTORY Trackspacerで、キックが鳴った瞬間に上モノの低域をダッキングしています。Trackspacerは入力されたサイド・チェイン信号を分析し、インサートしたトラックがサイド・チェイン信号とかぶっている周波数帯域を内蔵EQでカットしてくれるプラグインです。Trackspacerが無くとも、この手法はFL Studioに付属されているプラグインで再現できます。それでは実践していきましょう。
まずは、マルチバンド・コンプを使った方法から紹介していきます。通常のサイド・チェイン・コンプレッションはFruity Limiterで手軽に行えますが、特定の周波数帯域にのみダッキングするにはFruity Peak Controllerを用いた一手間が必要になります。Fruity Peak Controllerは内部コントローラーの一つで、オーディオ信号をパラメーターの制御に使える便利なプラグインです。
それではキックのトラックにFruity Peak Controllerを立ち上げてみましょう。PeakセクションにあるVOLとDECAYのツマミを右いっぱいに回します。続いて、低域をカットしたい上モノのトラックにFruity Multiband Compressorをインサート。今回は低域のみにかけたいので、MID BANDとHIGH BANDはバイパスにしましょう。次にLOW BANDのスレッショルドを右クリックして、Link to controllerからRemotecontrol settingsを表示します。
Link to controllerはパラメーターを自動で制御できる機能。その詳細をRemote control settingsで設定します。それではRemote control settingsのInternal controllerでPeak ctrl - Peak(キックにインサートしたFruity Peak ControllerのPeak)を、Mapping fomulaでInverted(ノブが回る方向を反転)を選択して、Acceptをクリック。するとLOWBANDのみキックに反応するFruity Multiband Compressorが作動し、上モノの低域がばっさりカットされるようになりました。
Fruity Multiband CompressorのLOW BANDは、デフォルトの状態だと300Hzより下の周波数帯域にセッティングされているので、キックの周波数特性に合わせてバンド幅を調整しましょう。低域をばっさり切りたくなければ、Fruity Peak Controllerのボリュームを下げてみてください。
同様の手順を踏めば、FL Studioに標準で搭載されているMaximus Multiband Maximizerでも同様の効果を得ることができます。その場合はLOW BANDのPOST GAINをPeak ControllerとリンクさせればOKです。この場合に注意しなければならないのが、Fruity Peak ControllerのPeak/BASEノブを50%(センター)にする必要があること。Maximus Multiband MaximizerのPOST GAINはプラス側にもノブが回るので、この設定を忘れるとキックが鳴り止むと同時に上モノの低域が+18dBになってしまいます。
Fruity Parametric EQ 2で
周波数ごとにカットする値を変える
続いてEQを使った方法を紹介。まずはキックのトラックにFruity Peak Controllerを立ち上げて、先ほどと同じセッティングにしましょう。
上モノにはFruity Parametric EQ 2を立ち上げます。Band 1(ローシェルフ)のフィルター・スロープをSteep 8に、周波数帯域を100Hzにしてください。フェーダーは−18dBにセットしてみましょう。さらにBand 2で100~250Hz 辺りを少し下げます。最後にEQのMix Levelを右クリックしてPeak Controllerとリンクすれば完了。今回はノブを右に回したいので、Remote control settingsのMapping fomuraはデフォルトのままにしてください。これでキックが鳴っている間だけ、2バンドがカットされるようになりました。
この方法では−18dBまでしかゲインを下げられないので、Fruity Multiband Compressorのようにばっさりとカットすることはできません。しかし、周波数帯域ごとにカットする量を調整できるというメリットがあります。例えばスネアやボーカルを楽曲全体のバランスを損ねずに際立たせたり、と何かと応用の効く手法です。
3つのノブでダッキングを制御できる
Patcher のプリセットを使う
1画面で複数のインストゥルメントおよびエフェクトを制御できるPatcherを使えば、より簡単に低域のみをダッキング可能です。まず低域をカットしたいトラックにPatcherを立ち上げ、プリセットからCompression>Sidechain input tolow bandを選択。このプリセットは2バンドのコンプとリミッターで構成されていて、3つのノブでコントロールできます。Crossoverのノブを10時くらいの位置まで下げて、スレッショルドとリリース・タイムをゼロにしましょう。
次にトリガーとなるキックのトラックを選択した状態でPatcherを差したトラックの最下部を右クリックして、Side chain this trackを選択。これでキックを鳴らすと上モノの300Hzくらいから下の周波数帯域が12dBほどカットされます。バンド幅やスレッショルドを変えたい場合、Patcher 左上のMAPをクリックすると表示されるFruity Multiband Compressorから設定を調節しましょう。Patcherには即戦力となる100 種以上のパッチが用意されているので、今まで触れる機会が無かった方もぜひ使ってみてください。
今回の執筆中にFL Studioのバージョン20.8が公開されました。一度購入すればアップデートが無料のFL Studioですが、無料が故に新機能を見落としがちです。ということで、次は近年追加された便利な機能を紹介したいと思います。
m1dy
【Profile】1998年より活動する特殊音楽家。国内外でのライブ活動、多数のコンピレーションへの参加を経て、2003年に1stアルバム『SPEEDCORE DANDY XXX』をリリース。過激な速度と破壊的な音色で築くポップな音楽が、国内のみならず欧米でも好評を博す。2010年には北米最大の日本文化コンベンションAnime Expoの一環として、LAのCLUB NOKIAに出演。KONAMIの音楽ゲーム『beatmania IIDX』への楽曲提供も行う。
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