原摩利彦〜音のプロが使い始めたECLIPSE TDシリーズ

自分にとって一番気持ちのいいスピーカー

タイムドメイン理論に基づき設計されたECLIPSEのスピーカー、TDシリーズ。2001年に最初のモデルがリリースされるやいなや、ミックスやマスタリングなど正確な音の再現が要求される現場で高い評価を獲得。その後モデル・チェンジやラインナップの拡充が続けられ、2014年に登場したTD-M1は、アンプやDAコンバーターを内蔵したことで、これまで以上に幅広い層から人気を集めている。そんなECLIPSE TDシリーズの魅力をトップ・プロに語っていただくこのコーナー、今回登場していただくのは作曲家の原摩利彦氏だ。自身のアルバムやインスタレーション作品を発表するほか、ダムタイプの高谷史郎、そして野田秀樹といった大御所の舞台音楽も手掛け、その活躍ぶりは昨年暮れに放映されたTV番組『情熱大陸』で大々的にフィーチャーされるほど。そんな氏の京都にあるプライベート・スタジオを訪ね、TD-M1の魅力をたっぷりと語っていただくことにした。

この記事はサウンド&レコーディング・マガジン2018年5月号から編集・転載したものです。

音像に奥行きがあり音の質感がつかみやすい

以前よりTDシリーズに興味を持っていたという原氏が、実際にTD-M1の音を聴く機会を得たのは、本コーナーにもご登場いただいたエンジニアのzAk氏のスタジオ=st-roboでのことだった。

「NODA・MAP『足跡姫~時代錯誤冬幽霊~』のミックスをzAkさんのスタジオで行っていたときに聴かせてもらったんです。音像にすごく奥行きがあってとてもいいと思ったので、すぐに注文しました。届いて最初に使ったのはアンリアレイジ2017秋冬パリ・コレクションのための音楽でした。ロールにしたデニム生地をドリルで削っている音をハンディ・レコーダーで録り、それをもとに曲を作ったんですが、音の質感がつかみやすかった。現場の音を使うのが自分の芸風なんで(笑)、とても助かりましたね」

自身の作品制作に使うのはもちろん、原氏はTD-M1をリスニング用途にも使っているという。

「他社のモニター・スピーカーだと、どうしても仕事をしている感じに聴こえてしまうので音楽を楽しめなかったんですが、TD-M1だと楽しめるんです。SpotifyやAppleMusicなどのストリーミング・サービスを使うことが多いんですが、アンビエントからクラシック、そしてボーカル曲まで全部きれいに聴こえます」

その奇麗に聴こえる感じは高域によるものだと原氏は分析する。

「高域が明るく、クリアで、音の輪郭がちゃんと見える。“そこで鳴っているかのように”というだけじゃなく、“音楽的なフィクション”とでも言うような輪郭が見えてきます。モニターって正確さが大切なのはもちろんですけど、プラス、自分がいかに気持ち良く制作できるかも大事。自分にとってTD-M1は今、一番気持ちがいいスピーカーです」

オーディオI/Oを介さずUSBでMacと直結

原氏はTD-M1をオーディオI/Oを介さず、APPLE MacBook ProのUSB端子に直接つないでいる。これまで本コーナーにご登場いただいたアーティスト/エンジニアのほとんどが、オーディオI/Oとアナログで接続していたのと比べると対照的だ。

「楽だからというのもありますが、コンピューターとスピーカーの間に要素が少ない方がいいと思うのでそうしています。本当の音って何だろうって考えたとき、バイオリンやさっきのドリルの音は本物が分かりますけど、僕が作っているような電子音の場合、オリジナルの音はコンピューターの中に入っているのでよく分からない。なのでできるだけそのままを取り出せたらいいなと思って、USBで直接つないでいます。僕が若いころはいいオーディオI/Oは価格が高くて、かといって安いのを買うと全然駄目で困っていたんですが、そのときにTD-M1があったら、オーディオI/Oは買わずにTD-M1だけで始めていたかもしれません。何か生音を入れたいと思ったらハンディ・レコーダーで録って、そのファイルを移せばいいわけですしね」

前述したように舞台の音楽を多く手掛けるだけに、原氏はマルチチャンネルについても造詣が深い。そこで今回の取材の前に、神戸にあるECLIPSEのスタジオにご足労願い、9.1chのマルチチャンネル……いわゆるイマーシブ・オーディオを体験していただいた。

「ものすごい音場でした……5.1chサラウンドの上層に4つのスピーカーを加えると、こんなにすごいことになるんですね。エンターテインメントとアートが共存できる可能性を感じたというか、それこそ音楽家や演奏家がもっとがんばらないといけない。ライブ収録をミックスする際も自由度がものすごく上がって、“体験の再現”でなく、“体験そのものの所有”になっていく……“再”という字が薄れていくんじゃないかと思いました」

今年の前半はオーストラリアやイギリスなど、海外での舞台上演に帯同する機会が多い原氏。それこそさまざまな土地での体験を所有し、それをもとにまた新たな音をTD-M1で鳴らしてくれるに違いない。

【PROFILE】作曲家。ソロとして『Landscape in Portrait』(2017)などのアルバムをリリースするかたわら、室内楽曲「Night-filled Mountains」やサウンド・インスタレーション「Copyright #1 : Showcase」を発表。また、高谷史郎のパフォーマンス『CHROMA』『ST/LL』にメンバーとして参加したほか、ダミアン・ジャレ+名和晃平『Vessel』、NODA・MAP『足跡姫~時代錯誤冬幽霊~』の舞台音楽も担当。

TD-M1

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■スピーカー・ユニット:グラスファイバー製8cmコーン型フルレンジ ■方式:バスレフ・ボックス ■再生周波数:70Hz~30kHz ■定格出力:20W(THD 1%/片チャンネル駆動時) ■最大出力:25W(THD 10%/片チャンネル駆動時) ■高調波ひずみ率:0.08%(1kHz/10W出力時) ■SN比:90dB以上 ■分離度:60dB以上 ■入力感度:950mVrms(20W出力時) ■入力インピーダンス:10kΩ ■消費電力:10W ■待機電力:2.7W(ネットワーク・スタンバイ時)、0.5W以下(完全スタンバイ時) ■外形寸法:155(W)×242(H)×219(D)mm ■重量:約5.3kg(ペア) ■価格:125,000円(ペア)

問合せ:デンソーテン http://www.eclipse-td.com/

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