小林武史が語るReborn-Art Festival 2017×BOSEスピーカー

宮城県石巻市を中心に、“人の生きる術(すべ)”をテーマにアート/食/音楽を楽しむフェスティバルとして7月22日から9月10日まで開催されたReborn-Art Festival 2017。音楽プロデューサーで実行委員長の小林武史氏は、3日間の“フェス内フェス”と呼べるap bank fesのみならず、“51日間、毎日どこかで音楽が鳴っているプログラム”と題したイベントも企画した。アート作品が展示されている自然の中や、石巻市街地の店舗内、あるいは学校など、さまざまな場所を臨機応変にライブ会場へと設定。氏自身はもちろん、Salyuや藤巻亮太(レミオロメン)などプロデュース・ワークを通してなじみ深いアーティスト、さらにはこのフェスティバルの趣旨に賛同してくれた多くのミュージシャンが集い、会期中さまざまなスタイルでライブを行った。この“51日間、〜”を実現するために、大きな役割を果たしたのが、大小さまざまなBOSEのライブ・サウンド・システム群だ。“ミュージシャン自身が楽器用アンプとモニター、PAを兼ねた出力装置を持ち歩く”というコンセプトの同社L1 Compactをはじめ、フレキシブル・アレイを持つコンパクトなF1 System、さらには最新のアレイ・テクノロジーを搭載したShowMatchまでが導入された。このレポートではこのReborn-Art Festivalの会場となった石巻を訪れ、小林氏に、BOSEスピーカー導入の経緯や使用感を聞いてみた。

“一期一会”の音楽を現実化するために

“51日間、毎日どこかで音楽が鳴っているプログラム”はReborn-Art Festival 2017の開催期間中、その会場エリアのどこかで何かしらのライブが行われるというもの。小林氏のソロ演奏もあれば、ボーカリストとのコラボ、パーマネント・バンドはもちろんスペシャルなセッションも行われた。野外アート作品の前や石巻市内のカフェなど、場所もさまざまだ。なぜこのような形式のイベントを思いついたのか。小林氏にそう尋ねると、フェスティバル全体の開催趣旨と密接な関係があると言う。

「都市が合理性や経済性の中心になっているのと並行して、都市でのエンタテインメントも、より便利に、効率的になっています。僕自身は東京で過ごす時間がやはり多いけれど、サスティナビリティや循環、あるいは“響き合う”ということを考えるとき、都市とは異なる地域のことも大事だし、魅力があると僕の目には映るんですよね。特に、東日本大震災があったことで、計画や予定を立てて自分たちの身を守ろうとしていても、あっという間にそれが崩れてしまうことも目の当たりにした。そこで生きていくための、“人の生きる術”としてのフェスティバルとして、都市ではできない、“地域”のアートや音楽の在り方……中からエネルギーが出てくる“場作り”を思いついた。それがReborn-Art Festivalの出発点なんです」

震災で多くの人や物を失った場所だからこそ、新たな出会いの場所になり得る……そう考えた小林氏。細部まで細かく演出されたアリーナ・クラスでのライブに出演する経験も豊富な氏だからこそ、それとは真逆のアプローチに魅力を感じたとも言える。

「決められたプログラムに沿ったものではなく、一期一会みたいなことを招き入れたり、そういうことを起こす仕掛けを作っていきたいと考えました。つまり、大枠は決めているけれど、その中身は場所も演目も細かく決めないでやってみたい。でもそれを実現するには、どういうやり方がいいんだろう……そう思っていたら、BOSEのスピーカーに巡り合ったんです」

小林氏が最初に着目したのは、ピラー型アレイとサブウーファーを組み合わせたパワードのポータブル・ラインアレイ・システム、L1 Compactだ。L1シリーズは、もともとミュージシャン自身が楽器用アンプとPA兼モニターとして持ち歩くスピーカーとして誕生したもの。つまり、設置した場所がライブ会場になるわけだ。そのコンセプトを見抜いた氏はL1 Compactをはじめ多くのBOSEスピーカーをReborn-Art Festivalに導入する。

「BOSEは僕がやろうとしていたことと同じ視点で、10年以上も前にL1を作り出していた。つまり、世界的にそういうニーズがある……パーソナルな動きが実現できるんだということだと思うんです」

石巻市指定文化財“旧観慶丸商店”内のアート作品展示の前での演奏(7月31日)。左から四家卯大(vc)、藤巻亮太(vo、g)と小林武史氏(k)。藤巻の後ろにL1 Compactが置かれている 石巻市指定文化財“旧観慶丸商店”内のアート作品展示の前での演奏(7月31日)。左から四家卯大(vc)、藤巻亮太(vo、g)と小林武史氏(k)。藤巻の後ろにL1 Compactが置かれている
牡鹿半島中部エリアの入口となっていた、牡鹿ビレッジ芝生広場でのGAKU-MC(rap)のライブ。左右にL1 Compactを1台ずつ設置。電源が確保できれば、どこでもライブができるのがL1 Compactの強み 牡鹿半島中部エリアの入口となっていた、牡鹿ビレッジ芝生広場でのGAKU-MC(rap)のライブ。左右にL1 Compactを1台ずつ設置。電源が確保できれば、どこでもライブができるのがL1 Compactの強み
『Music × Alive Painting LIVE in 塩竈市杉村惇美術館』(8月19日、20日)。メインのPAスピーカーはL1 Compactで、市の有形文化財である会場の壁面に投影した中山晃子(左)によるAlive Paintingパフォーマンスを遮らない会場作りが行えた。Salyu(中央)、小林氏(右)のほか、片平里菜、曽我部恵一、Poralisが出演 『Music × Alive Painting LIVE in 塩竈市杉村惇美術館』(8月19日、20日)。メインのPAスピーカーはL1 Compactで、市の有形文化財である会場の壁面に投影した中山晃子(左)によるAlive Paintingパフォーマンスを遮らない会場作りが行えた。Salyu(中央)、小林氏(右)のほか、片平里菜、曽我部恵一、Poralisが出演
会期中は随時トーク・イベントも行われおり、小林氏(中央)は周辺エリアを奔走していた。この石巻市街地の会場では、F1を使用 会期中は随時トーク・イベントも行われおり、小林氏(中央)は周辺エリアを奔走していた。この石巻市街地の会場では、F1を使用

解像度の高いサウンドを手軽に

“51日間〜”のフットワークの軽さに最も貢献しているのは、もちろんL1 Compactだ。

「100人くらいまでならL1 Compactで十分。こんなにコンパクトなのにすごく奇麗で、解像度がすごく高いです。会期の最後に、高低差50mくらいある崖下に持っていってライブをやる計画もありました。これだけの期間と場所を使ったイベントをやっているので、音響に慣れたスタッフが必ずしも居るわけではないから、セットアップが簡単だという点も重要でした」

数十人を前に演奏するという機会は、ほとんど無かったという小林氏。L1 Compactがそうした環境を実現したことに「ちょっとドキドキした」と言う。

「こういう演奏の場を僕らが自分で作ったということもあるけれど、すごく自由ですよね。僕の仕事のほとんどは歌モノだったけれど、クラシックやジャズ、僕のオリジナルなどを織り交ぜて弾いていると、また違ったそれぞれの良さも感じます。僕がプロデュースしている代々木VILLAGEで演奏したいとずっと言っていたのに、どうも腰が重かったんです。でも石巻で日常的にこんなことをしていたら、代々木に限らず、こうした演奏がだいぶ気楽にやれそうです」

もう少し規模の大きな会場では、F1 System(F1 Model 812+Subwoofer)を活用しているとのこと。

「F1は400〜500人規模まで賄えるし、ビートがあるものにマッチしますね。最終日に“リボーンまつり”という催しを企画して、僕が作った新曲にコンドルズが振り付けをして、森本千絵が地域の子どもたちと一緒に作ったやぐらで盆踊りをやりました。地域の和太鼓の人やレミオロメンのドラマー神宮司治にも参加してもらい、F1に活躍してもらいました」

さらに小林氏はコンパクト・スピーカーにとどまらず、最新のアレイ・スピーカーShowMatchも導入。Reborn-Art Festival 2017の会期後半では、石ノ森萬画館に隣接する中瀬公園にライブ・テントを設置し、そこにShowMatchを据え付けた。

「僕は農業に関する活動もやっているので、そこでの音楽のこともそろそろ考えようと思って、千人規模でも対応できるShowMatchを購入してここに持ち込んでみたんです。L1 Compact、F1、ShowMatch……それぞれ個性はあるけれど、コスト・パフォーマンスと解像度の良さは共通していると思います」

今年のReborn-Art Festival 2017は盛況のうちに終了したが、今年限りのイベントではない。さらなるアップデートを目指して、小林氏は動き始めている。今後もBOSEのスピーカーとともにフットワークの軽さを生かした活動で、我々を驚かせてくれるだろう。

中瀬公園音楽ライブテント

旧北上川の中洲にある中瀬公園内に設けられたテント。石ノ森萬画館に隣接していた 旧北上川の中洲にある中瀬公園内に設けられたテント。石ノ森萬画館に隣接していた
メイン・スピーカーには、BOSE ShowMatch DeltaQスピーカーを用意。垂直/水平の指向性をアコースティックにコントロールして、カバー・エリアに均一なサウンドを提供する メイン・スピーカーには、BOSE ShowMatch DeltaQスピーカーを用意。垂直/水平の指向性をアコースティックにコントロールして、カバー・エリアに均一なサウンドを提供する
テント内のインフィル(手前)もShowMatchのモジュールSM20(垂直20°)を使用。サイド・モニターとしてF1 System(奥)も導入された テント内のインフィル(手前)もShowMatchのモジュールSM20(垂直20°)を使用。サイド・モニターとしてF1 System(奥)も導入された
取材当日は“あらかじめ決められた恋人たちへ”が出演。ディーブなダブ・サウンドを基調としながら、サウンド一つ一つがはっきりと聴こえるのが印象的だった 取材当日は“あらかじめ決められた恋人たちへ”が出演。ディーブなダブ・サウンドを基調としながら、サウンド一つ一つがはっきりと聴こえるのが印象的だった

L1 Compact System

L1_Compact 148,000円
軽量かつポータブル性に優れ、楽器用アンプとPA、モニター・スピーカーを兼ね備えたシステム。6基の50mm小型ドライバーを縦に配置したスピーカー・アレイは水平180°の広範囲に均一なサウンドを提供可能。パワー・アンプとミキサーを備えたパワー・スタンド部には200mmウーファーも内蔵する。入力はダイナミック・マイク用のch1、ライン用のch2を用意。フロア設置とテーブル設置のどちらにも対応する。重量は13.3kgで、付属キャリー・バックで持ち運びも容易だ

L1 Compact System製品情報 https://probose.jp/product/l1-compact-system/

F1 System

SR_BOSE_F1Report_F1 2.25インチ・ドライバー×8基のアレイを、会場の形状に合わせて4つの指向性パターンに変形させるフレキシブルアレイ・テクノロジーを搭載したパワード・スピーカーF1 Model 812を軸に、そのパッシブ・タイプや10インチ×2基のパワード・サブウーファーをラインナップ。パワード・モデルのアンプ出力は1,000W。F1 Model 812本体のウーファーは12インチで、単体でフルレンジ再生に対応する。専用スタンドをサブウーファーに格納できるのもポイントだ

■パワード・モデル

F1 Model 812 Flexible Array Loudpeaker 230,000円/1本
F1 Subwoofer 230,000円/1本

■パッシブ・モデル

F1 Model 812 Passive Flexible Array Loudpeaker 170,000円/1本

F1 System 製品情報 http://probose.jp/cat_product/f1_system/

※L1 CompactおよびF1 Systemは、防滴対応ではありません。屋外での使用時はご注意ください

Presented by BOSE
問合せ:ボーズ プロシステム事業部 http://probose.jp/

サウンド&レコーディング・マガジン2017年11月号より転載

●関連リンク
Reborn-Art Festival http://www.reborn-art-fes.jp/