第5回 スターテック
コンパクト・ボディや本体のタッチ・パネルによる直感的な操作性を特徴とするYAMAHAのPA用デジタル・ミキサー、TFシリーズ。今回は、ラック・マウント型モデルのTF-Rackを所有しているPAカンパニー、スターテックを訪れた。同社は、中小規模イベントのメイン・ミキサーや大規模な現場のサブミキサーとしてTF-Rackを活用している。導入の動機や使い方の詳細について、サウンド・エンジニアの高田義博氏に聞いてみよう。
使いやすい設計で価格もリーズナブル
スターテックは、CLシリーズやQLシリーズといったYAMAHAのDante対応コンソールを使っており、それらを中心とするDanteネットワークに組み込みやすい点が、TF-Rack導入の決め手だったという。
「オプションのDante入出力カード、NY64-Dを装着すれば簡単にネットワークへ接続でき、オーディオの長距離伝送にも対応します。また、TF-Rackは音響のプロでない人にも使いやすく設計されていて、TF StageMix(後述)をはじめとする便利なアプリケーションもそろえている。それでいて26万円ほどという価格ですから、コスト・パフォーマンス抜群だと思い導入を決めました」
スターテックがTF-Rackを持ち込む現場は、大きく分けて2つある。一つは、イベントの運営者など、音響のプロでない人たちにオペレートを委ねる現場。もう一つは、同社のサウンド・エンジニアがオペレートする現場だ。
「一番多いのは、我々がTF-Rack主体のPAシステムを持ち込み、セットアップとリハーサルだけを行うパターン。オペレートはイベントの運営の方々にお願いし、会期が終わればシステムを引き上げにいくような現場です。例えば、何かの展示会や季節限定のイベントなどですね」
TF-Rackのパネルには、任意の機能をアサインできる6つの“USER DEFINEDキー”と、任意のパラメーターを割り当てるための4つの“USER DEFINEDノブ”が装備されており、これらがとても役に立っていると言う。
「最近、とあるアミューズメント・パークのイルミネーション・ショウにTF-Rackを入れていて、運営の方々にオペレートしてもらっているんです。PAシステムからはMCやBGMを出すわけですが、土日の夜は観客が多いので音量を上げる必要があり、昼間はパーク内でくつろいでいる来場者のためにも少し下げた方がいい。ただし運営の方々は音響のプロではないため、特別なスキルが無くても音量調整できるようにしておく必要があります。そこでUSER DEFINEDキーです。例えば“土日用”や“昼間用”といったシーンを作ってアサインしておけば、キーを押すだけで音量調整が完了します。これなら誰にでも簡単ですよね。USER DEFINEDノブにはマイク・チャンネルの音量などをアサインしていて、司会者が“自分の声をもう少し大きくしたい”と思った場合などに、すぐに調整できるようにしています。このように、エンジニアでなくても簡単に使える上、我々も“土日はこのキーを押してくださいね”と簡潔に説明できるので、助かっています」
クローズアップ・ポイントその① USER DEFINEDキー&ノブ
トークバック専用のミキサーとしてDante接続
スターテックのエンジニアがTF-Rackを操作するのは、CL/QLシリーズを用いた大規模現場が主だ。
「CLやQLのI/Oボックスに入力したトークバックをTF-RackにDanteでパッチして、FOHやモニター、各ローディの持ち場など、さまざまなセクションへ送っています。これまではラック・マウント可能なサーフェス型ミキサーで同じことをやっていましたが、スペースを取ったり、操作時にラックから引き出す必要があったりと大変でした。その点TF-Rackは3Uとコンパクトで、ラックから引き出さずにオペレートできるため機動性が高い。タッチ・パネルでのセットアップもスピーディで良いですね」
時として、そのタッチ・パネル以上に素早いオペレートを実現するのが専用のAPPLE iPadアプリ=TF StageMixだ。スターテックでは、TF-RackとiPadをWi-Fiでつなぐこともあれば、市販のケーブルを組み合わせて有線接続することもあるという。TF StageMixについては、「GUIが考え抜かれています」と高田氏。
「AUXバスを一覧表示しながら選べるのが気に入っています。TFシリーズのサーフェス型モデルには“AUX1”や“AUX9/10”といったキーが備わっていて、パネル上でAUXバスを選べるようになっています。しかしTF-Rackでは、スペースの都合からかそのキーが省略されているので、アプリでのフォローはうれしいですね」
6月にはファームウェアがVer. 3.5にアップデートするTFシリーズ。DAN DUGANのオートマティック・ミキサーが実装され、レベルを管理しやすくなるため、プロのエンジニアが常駐しない現場や、ラックに据え置きのスペースなどでもさらに使い勝手が向上するだろう。