マイケル・ツィマリング〜音のプロが使い始めたECLIPSE TDシリーズ

EQをいじるときは必ずTD-M1で聴きながら行っている

タイムドメイン理論に基づき設計されたECLIPSEのスピーカー、TDシリーズ。2001年に最初のモデルがリリースされるやいなや、ミックスやマスタリングなど正確な音の再現が要求される現場で高い評価を獲得。その後モデル・チェンジやラインナップの拡充が続けられ、2014年に登場したTD-M1はアンプやDAコンバーターを内蔵し、これまで以上に幅広い層から人気を博している。そんなECLIPSE TDシリーズの魅力をトップ・プロにうかがっていくのがこのコーナー。今回登場していただくのは故・佐久間正英とともに多くの作品を手掛けたことで知られるエンジニアのマイケル・ツィマリング氏だ。9月9日に発売されるGLAYの『Beat out!』アンソロジー盤のリミックスを行うため、10年ぶりに来日したところをキャッチすることができたので、お話を伺うことにした。

この記事はサウンド&レコーディング・マガジン2016年9月号から編集・転載したものです。

大きな音を出して長時間聴いていても疲れない

ツィマリング氏はベルリンのハンザトン・スタジオでキャリアをスタートし、デヴィッド・ボウイのベルリン三部作など数多くの名盤の制作に立ち会っている。そのころハンザトンに常設されていたモニターはALTECやJBLのラージ・スピーカーだったという。

「ALTECのラージは、とにかくすべてがいい音で鳴るから好きだった。ただ、ラージを鳴らすと部屋中が音で満たされてしまうので、作業ではAURATONEの5Cを使うことも多かったね」

当時からフルレンジのスモール・スピーカーの利点に気づいていたツィマリング氏が、ECLIPSEのTDシリーズに出会ったのは2001年、初代モデルである512が発売されてすぐのときであった。

「512はとにかく快適なスピーカーだったんだ。普通のスピーカーはベースの確認をするくらいの大音量で鳴らすと、作業を終えて家に帰るころにはすごく疲れてしまっている。でも、512だと大きな音を出して長時間聴いていても疲れない。そうそう、512を手に入れたころ、スタジオで面白い使い方をしていたんだ。スピーカーを正面ではなく自分の両脇に置いて、ヘッドフォンのように左右のスピーカーからの音が左右の耳に直接届くようにしたんだ。そうすると頭の中で音像がパーフェクトに結ぶ。ベストなセッティングだったね」

モノラルでミックスを始めてバランスを取る

最近はTD-M1を使うことが多くなったというツィマリング氏。その理由についてこう語ってくれた。

「TD-M1は小さな音でミキシングをしたいときに便利なんだ。どんな楽器の音も聴こえるし、自分が何をしているのかが全部分かる。だからEQをいじるときは必ずTD-M1で聴きながら行っている。3ウェイのスピーカーでEQすると何をやっているのか分からなくなるのに対し、TD-M1だとすべてがクリア……まるで手術をしているように必要な個所にだけ適切な処置を施せるんだ」

フルレンジゆえの正確な再現というTD-M1のメリットがまさに生かされている場面だろう。一方、フルレンジである以上どうしても狭くなりがちな周波数特性についても「問題無い」とツィマリング氏は続ける。

「確かにTD-M1では25Hzの音は聴こえない。でも、フィルターで25Hzをカットしたとき、明らかにカットしたと感じることができる……サウンドが2m近くなったように聴こえるんだ。20~25Hz以下をローカットしたり、18~20kHzから上をハイカットするのは、マスタリング・エンジニアがよく使うテクニックのひとつで、そうするとサウンドが小さなスピーカーから飛び出てくるようになるんだけど、TD-M1だとその具合を確かめることができるんだ」

そんな彼がTD-M1に望むのは、意外なことに“モノラル・スイッチの装備”だそうだ。

「昔、ミキシングしていたときに片チャンネルが鳴らなくなったことがあって、仕方なく1本のスピーカーで仕上げたんだけど、後で聴いたら自分が手掛けたミックスの中でもベストなものに仕上がっていたんだ(笑)。それ以来、ミキシングはモノで始めるようにした。モノで始めるとバランスが取りやすい……最初からステレオでやっていたら絶対見つけられないバランスが見つかるんだ。バランスの見極め方はベースとボーカルを重視しつつ、すべてのサウンドが聴こえるようにすること。それができれば、後でギターなどパンが必要なパートを左右に振って3dB上げればグレイトなステレオ・ミックスになる。とてもシンプルだ。だから、私はみんなにECLIPSEのスピーカーを買って片方だけ鳴るように設定してミックスすることをオススメするよ。だからって1本だけ買うとか考えちゃだめだけどね(笑)」

【PROFILE】1970年代にベルリンのハンザトン・スタジオでエンジニアとしてのキャリアをスタート。1980年代には7年間を日本で過ごし、佐久間正英とともにBOOWYやGLAYなど数多くのバンドを手掛ける。1990年代以降はヨーロッパにベースを移し、ライブのレコーディングやPAまでを行っている。

TD-M1

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■スピーカー・ユニット:グラスファイバー製8cmコーン型フルレンジ ■方式:バスレフ・ボックス ■再生周波数:70Hz~30kHz ■定格出力:20W(T.H.D 1%/片チャンネル駆動時) ■最大出力:25W(T.H.D 10%/片チャンネル駆動時) ■高調波ひずみ率:0.08%(1kHz/10W出力時) ■S/N:90dB以上 ■分離度:60dB以上 ■入力感度:950mVrms(20W出力時) ■入力インピーダンス:10kΩ ■消費電力:10W ■待機電力:2.7W(ネットワーク・スタンバイ時)、0.5W以下(完全スタンバイ時) ■外形寸法:155(W)×242(H)×219(D)mm ■重量:約5.3kg(ペア) ■価格:125,000円(ペア)

問合せ:富士通テン http://www.eclipse-td.com/

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