Check1:充実のMIDI打ち込み & 豊富な付属VSTiラインナップ

サウンド&レコーディング・マガジン2015年1月号 掲載Text by SUI 作家/プロデューシング・エンジニアとして、トラック・メイクからボーカル・ディレクション、ミックス・ダウンまで手掛ける。ロック~ダンス・ミュージック 全般に精通。もともとは他のDAWユーザーだったが、Cubaseのクリエイティビティに魅せられた乗り換え組の一人。<INDEX>
Introduction:Cubase Pro 8オーバービュー
Check1:充実のMIDI打ち込み & 豊富な付属VSTiラインナップ
Check2:即戦力の作曲アシスト機能
Check3:卓越したオーディオ編集機能
Check4:MixConsoleの進化でプロのミックス・ダウンに対応
Special:Cubaseユーザー・アンケート!
 

Check1:充実のMIDI打ち込み & 豊富な付属VSTiラインナップ


用途ごとに選べる打ち込みエディター
新搭載のレンダリング機能もトピック


早速、MIDIプログラミングとVSTi(インストゥルメント)に触れていきましょう! Cubas
eは数あるDAWの中でもMIDIに強いと定評があります。MIDIは楽曲制作において非常に重要なため、発音のタイミングがズレないことや、各ノートその他の情報を視認/編集しやすいことが強く求められます。少なくとも筆者が使用したことのあるDAWの中で、Cubaseは最も自由で簡単に打ち込みができ、そのときどきで求めるものを的確に具現化できます。MIDIプログラミングはキー/リスト/ドラム/スコア・エディターと、考えられるすべての方法が用意されています

❶打ち込みエディター


editor

▲ピアノロール形式のキー・エディターはもちろん、伝統のリスト・エディター、ドラム・エディター、スコア・エディターまで打ち込み方法に死角無し


またMIDIエディットに欠かせないクオンタイズでは、スウィング、ランダム、抽出したグルーブの反映、またクオンタイズ具合の感度指定もできるなど、必要と思われる機能が網羅されています。MIDIトラックは無制限に作成でき、ノートごとにモジュレーションなどのオートメーションも書き込め(対応するのはVST3インストゥルメントとなります)、特に管弦/オーケストラなどをプログラミングする方々が重宝しそうなVST Expression 2機能も搭載。音楽制作にかかわるほとんどの人に“アレが無い”と言わせないほどの充実ぶりです。このように非常に多機能であると同時に、すべての機能に簡単にアクセスできる点も特筆に値するでしょう。

❷VST Expression 2


VST Expression 2
▲和音の各ノートに対して、個別のコントロール指定が行える(VST3インストゥルメントに対応)。画面は3つのノートのピッチ・ベンドをそれぞれ書き込んだところCubase Pro 8のトピックとして、“インプレイス・レンダリング”が新搭載されました。これはMIDIプログラミングしたVSTiやエフェクト処理しているオーディオを書き出して、プロジェクト上に新規オーディオとして並べる機能で、Cubaseでの実装が待たれていました。最近では打ち込んだソフト・シンセをオーディオ化し、エディットによって展開作りやエフェクティブな効果を得るといったことが流行していますから、かなりうれしい新機能と言えます。実際の動作としてはオーディオ化したいMIDIイベントやオーディオを選択し“Render In Place”のコマンドを指定するだけです。試しに8小節程度のイベントをオーディオ化してみたところ、待ち時間は3秒ほどとすぐに完了しました。

❸インプレイス・レンダリング


rendering

▲MIDIやオーディオを即座にレンダリングして、オーディオ化する機能が新搭載。そのチャンネルにかかっているエフェクト適用の有無や、複数チャンネルをまとめてのレンダリングなど にも対応。画面はキック/スネア/ハイハットのMIDIトラックをこの機能で1本のオーディオにまとめたところ


また、これだけで終わらないのがCubase Pro 8の素晴らしいところ。このインプレイス・レンダリングでは各トラック上のプラグインやパンニング、フェーダー位置などチャンネル設定を反映するか否かを選択でき、これらの設定を生成されるオーディオに反映しないのであれば、新しく作成されるオーディオ・トラック上のインスペクターに元のトラックの設定を自動で引き継ぐことができます。また複数のトラックをミックスした状態でレンダリングもできます。例えばオーディオ・トラックの波形やMIDIトラック上のイベントを複数指定してコマンドを実行すれば、それらがミックスされたオーディオが作成されます。この便利過ぎる機能には正直驚きを隠せません。MIDIテンポ検出も新しく実装されています。前バージョンまではテンポが揺れているオーディオ・イベントに対して細かくテンポを割り出す機能がありましたが、これがMIDIイベントにも対応しました。試しにフリー・テンポで演奏したピアノをMIDI録音しテンポ検出してみたところ、通常演奏(ノート間がかなり長く空いている場合などを除く)であれば楽曲制作に全く支障のない精度で検出してくれました。例えば微妙にテンポが揺れている演奏に対して、4つ打ちのキックを入れたい場合など、この機能を使えばグリッド自体が演奏に追従してくれるので、あとはキックを置いていくだけ。素早く確実に打ち込むことができます。ここで検出したテンポ情報はテンポ・トラックに反映されるので、後で細かくエディットもできるようになっています。

❹MIDIテンポ検出


MIDI_tempo

▲MIDIデータからテンポの検出が可能。テンポ・トラックが作成されるので、揺れのあるMIDI演奏を元に楽曲制作したい場合などで便利


 

本格シンセ/ドラム系/マルチ音源まで
高い水準をクリアした付属VSTi


VSTiについても触れていきましょう。Cuba
se  Pro 8にはHalion Sonic SE2、Padshop、Retrologue、Prologue、Spector、Mystic、Loop Mash 2、そしてGroove Agent SE4の8種類が同梱されています。この中でPrologue、Spector、Mysticの3つは割と以前からCubaseを支えてきたVSTiです。128ボイスのバーチャル・アナログ・シンセでパッドからリードまでなんでもござれのPrologue、2基のスペクトラム・フィルターを基盤に多彩なモーフィング・サウンドを生み出すSpector、インパルス音を3系統のコム・フィルターでコントロールするのがMysticです。加えて、人気のグラニュラー・シンセシスを採用したPadshopと、2オシレーターの本格バーチャル・アナログ・シンセRetrologue、そして16ティンバーのマルチ音源であるHalion Sonic SE2、複数フレーズをマッシュ・アップすることができるLoop Mash2といったバランスの良い構成です。

❺8種類の付属VSTi


8種類の付属VSTi

▲生ドラムのフィーリングを実現する“Acoustic Agent”を新搭載したリズム・マシンGroove Agent SE4、グラニュラー・シンセPadshop、マルチ音源のHalion Sonic SE2、本格バーチャル・シンセのRetrologue、マッシュ・アップ・ツールのLoopMash2など豊富な音源がスタンバイ


そんな付属VSTiの中で、Cubase Pro 8でアップデートされたのがリズム・マシンのGroove Agent SE4です。搭載サンプル/プリセットが刷新されているのはもちろんですが、何より製品版のSTEINBERG Groove Agent 4に内蔵された生ドラム音源=“Acoustic Agent”がこのSE4にも搭載されたのがうれしいです。このAcoustic Agent内のPerfomanceセクションでは、“少しずつ手数が増えてだんだん盛り上がる”といった演奏も実現できてしまいます。また純粋にサンプラーとして、プロジェクト上のオーディオをどんどん放り込んでパッドで演奏することも可能。出音も脚色が無く率直、かつサンプルのエディットもしやすい親切設計で動作も軽いので、筆者はチョップしたサンプルを鳴らす場合にも重宝しています。総じて、今回バンドルされているVSTi群に飛び道具的なものはありません。それは、このラインナップが既に完成されたものだからと言えるかもしれません。当然ながら、これらのVS
Tiはかなり高い水準をクリアしていると実感しますし、通常の楽曲作りで困ることはほとんどないでしょう。
●問合せ : ヤマハスタインバーグ・コンピューターミュージック・インフォメーションセンター  ナビダイヤル:0570-016-808(IP電話の場合:053-460-5270)  http://japan.steinberg.net