インタビュー|ローマン・パーション「革新性を追求しながら、使い勝手に優れたマイクを作りたい」

幼少時から“音楽にかかわる仕事がしたかった”というLEWITTの設立者=ローマン・パーション氏。ピアノの道をあきらめて以降は音楽テクノロジーに目を向け、学生時よりPAシステムを自作してパーティに持ち込んでいたという。Translation:Peter Kato01_Roman_059_color

マイクは音をとらえる精密工具


◎LEWITT設立の動機から聞かせてください。
●ウィーンの学校で電子工学を学び、卒業後はAKGのプロジェクト管理と部品外注を担当する部署で働きました。アイディアが設計図、試作品、さらには市販品へと成熟し、アジアの工場で量産化される過程を目の当たりにし、とても有意義な経験を積みました。しかしその一方で、大企業ゆえに小回りが利かないと言うか、最良のアイディアが必ずしも製品化されないという事実が気になり始めました。そうした経緯もあり、自分の会社を立ち上げようと考えたのです。
◎既に多くのマイク・メーカーがある中で、LEWITTが打ち出すコンセプトとは?
●私たちのような新興マイク・メーカーが市場で生き残るためには、プロフェッショナルのエンジニアやミュージシャンが魅力を感じる、音質と機能性を併せ持つ製品を提供する必要があります。革新性を追求するだけでなく、現場での使い勝手も常に考慮しながら、実用性に富んだ製品作りを心掛けています。プロの仕事道具としての条件を満たすマイクとは、サウンドをありのままとらえる精密工具に近く、私たちもそうした意識でマイク作りに取り組んでいます。
◎LEWITTの現在のラインナップを紹介してもらえますか?
●まずLCTシリーズはハイエンドのラインナップで、音圧レベルをマイクが自動設定する“オートマティック・アッテネーション”など、多くの革新的な技術が投入されています。MTPシリーズは主にコンサートでの使用を念頭に置いた信頼性の高い製品をそろえたラインナップで、いずれも原音を自然かつ確実にとらえます。DTPシリーズは主にドラム向けとして開発されており、どんな音楽ジャンルにも融通の利く、応用範囲の広い製品をそろえています。
◎バスドラム/ベース用のDTP640REXは、ダイナミック/コンデンサーのデュアルエレメント構造がユニークですね。
●DTP640REXのダイナミック部は、太く分厚いサウンドを特徴としています。ただしその分レスポンスに劣るため、これをカバーするためにコンデンサー部を組み合わせました。そのおかげで、70〜150Hzの低域におけるレスポンスが大きく向上しました。この2つのエレメントの録り音は個別に取り出してミックスすることができ、ジャズ系のクリーンなサウンド(コンデンサー寄り)からロック系のハイエナジー・サウンド(ダイナミック寄り)まで、バスドラムのサウンドを好みに調整することができるというわけです。
02_Lewitt-DTP640REX-gradient-hirez-03 ▲DTP640REXはダイナミックとコンデンサーのデュアルエレメントを備える

先進的なUSBマイク=DGT650


◎LCTシリーズの新モデルLCT550のセルフ・ノイズ0dB-Aというのは驚異的な性能ですが、これはどのような技術で実現したのでしょう?
●LCT550には幾つかの革新的な技術が投入されています。セルフ・ノイズ0dB-Aを実現するには、電子回路ノイズのさらなる低減に力を注ぐとともに、オーディオ信号出力を大幅に高める必要がありました。前者に関しては、私たちが独自に開発した“Direct Coupling Technology”を用いてコンポーネントの数を減らし、結果として回路ノイズを可能な限り低いレベルにまで抑えました。後者に関しては、トランスデューサーの設計を見直し、音響性能を改善するとともに製造技術をさらに磨き上げることで実現したのです。
◎新しいUSBマイク=DGT650はiOSアプリと連携するなど、先進的な仕様ですね。
●DGT650は4タイプの録音モードを備えており、一般的な単一指向性のマイクとしてだけでなくステレオでの録音もできますし、オーディオ・インターフェースとしての機能も備えています。DGT650をAPPLE iPhoneと組み合わせれば、いつでも手軽に高音質のサンプルを録れるようになるほか、MacBook Proと組み合わせれば、それだけでツアー中の音楽制作環境が整います。
03_LEWITT_DGT_650_Side2 ▲オーディオI/O機能も備えた新製品のUSBマイク=DGT650。最高24ビット/96kHzに対応し、リチウム・イオン・バッテリーを内蔵しているので、付属のレコーディング・アプリ(右)と連携してiOSデバイスで手軽に高音質録音が行える
◎LEWITTのマイクには、フレッシュなアイディアが数多く投入されているように感じます。
●優れたアイディアは、クリエイティブな環境の中で得られるものです。そしてそうした環境を整える鍵を握るのは、多様性を認め、さまざまな違いを積極的に評価する姿勢だと思います。幸い、LEWITTにはそうしたエキスパートが多く集まっており、仕事をしていて楽しいですよ。
◎最後に、あなたが考える“良いマイク”とは?
●レコーディングにおける最高の瞬間を確実かつ忠実にとらえられるマイクではないでしょうか。最近は拾った音にキャラクターを加え過ぎるマイクが多い気がするのですが、私たちが作る製品はそうしたものの対極にあります……一方で、“良いマイク”には所有欲をかき立てる魅力が不可欠だと思います。率直な話、私たちは多かれ少なかれ“新しもの好き”です。高性能でルックスも良く、考え抜いて作られたプロダクトを欲しいと思うのは当然のことで、実際、そうした製品を所有するのは理屈抜きで楽しいものです。 

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