豊かな音楽表現を可能にするピアノロール。その活用術について、アーバンギャルドのキーボーディストで作編曲家の、おおくぼけい氏が基礎から解説。本稿で見ていくのは、打ち込んだパターンに予想外の変化を加えることもできる“MIDIエフェクト”の活用術です。
MIDI信号に作用するエフェクト
MIDIエフェクトをご存じでしょうか? 普段、僕らがエフェクトと呼ぶのは大抵オーディオ・エフェクトのことで、その名の通り音声信号に何らかの効果を与えるものです。一方、MIDIエフェクトはMIDI信号に作用し、和音のノートをアルペジオにしたり、ノートをリピートさせてグリッチーに聴かせたりするものがあります。
題材曲では、長めのノートで打ち込んだシンセ・パッド❶にLogic ProのArpeggiatorというMIDIエフェクトをかけました❷。
元々は、いわゆる白玉系の伸びやかなフレーズですが(♪12-1)、Arpeggiatorによってリズミックになっています(♪12-2)。
このArpeggiatorはステップ・シーケンサーのようなもので、今回は16ステップで使用。灰色のバーを上げたステップで発音する仕組みです。また、数字下の和音マークを押せば元々の和音が鳴り、和音マークをオフにするとコード構成音が下から上に順で鳴るように設定しています。和音と単音を織り交ぜて、ちょっと複雑に聴かせてみました。
高速アルペジオでギミック作り
2種類の8ビット風シンセにもArpeggiatorを使っています。まず1つ目は、和音にかけてピコピコした感じのフレーズを作りました❸❹。
ポイントはArpeggiatorのRateノブ(アルペジオの速さ)を1/128という最速値にしたこと。元の和音(♪12-3)が高速のアルペジオに変わることで、こういうギミック的なサウンドになるのです(♪12-4)。
2つ目は、単音が連なっているフレーズへ❺(♪12-5)、Rateノブを1/64に設定してかけています❻(♪12-6)。和音にかけたら速いアルペジオになりますが、単音だと同音連打している状態となるため、少しひずんだような面白い音色に聴こえます。このように、設定次第では音色を変えるような効果も得られるので、パターン・エディット以外の使い道もあるのです。
ピアノロールを覚えればイメージを的確に形にできる!
ピアノロールで曲を作るには、楽器経験がある程度は必要だと思います。その意味で、バンドをやっている方/やっていた方は入門しやすそうですが、サンプルを組み合わせてビートを作るようなDJ系の人でも、ビートの上に“こういうメロディを乗せたい”となったときにピアノロールが必要になると思います。ピアノロールでMIDIを扱えれば、イメージしたフレーズを的確に作り出せるようになると思うので、この特集が参考になれば幸いです!
◎題材曲のMIDI素材をダウンロード!
※上のページにアクセス後、パスワード「pianoroll2302_snrec」を入力してください
※MIDI素材は、トラックのスタンダードMIDIを書き出したものです
おおくぼけい
【Profile】アーバンギャルドのキーボーディストで、作編曲家としても活動。頭脳警察や戸川純、大槻ケンヂらの音楽にも携わり、映画や演劇のための作編曲も手掛ける。アーバンギャルドは、2023年1月25日にユニバーサルから『URBANGARDE CLASICK ~アーバンギャルド15周年オールタイムベスト~』をリリース。3月31日には、中野サンプラザホールにてライブ『15周年記念公演 アーバンギャルドのディストピア2023 SOTSUGYO SHIKI』を行う。