豊かな音楽表現を可能にするピアノロール。その活用術について、アーバンギャルドのキーボーディストで作編曲家の、おおくぼけい氏が基礎から解説。今回は、ソフト音源の“アーティキュレーション”を使う方法について見ていきましょう。
さまざまな奏法を簡単に再現!
打ち込みの曲を聴いていて、ストリングスやホーンの音が生演奏のようにリアルだと感じることはありませんか? 生楽器系のソフト音源には、さまざまな奏法を再現する機能“アーティキュレーション”を備えたものがあります。例えば、バイオリンの音源であればレガートやピチカートといった奏法のアーティキュレーションが入っていて、それらを使えば生演奏さながらのフレーズを簡単に作り出せるのです。
題材曲では、ストリングスでアーティキュレーションが活躍しています。アーティキュレーションを解除したもの(♪11-1)と使用したもの(♪11-2)を聴き比べると、効果がお分かりいただけるでしょう。
使った音源はNATIVE INSTRUMENTS Session Strings Pro 2で、アーティキュレーションはスピッカート、フォールズ・ファスト、トリル・セミ、トレモロ、アクセンテッド、フォルテ・ピアノ、アクセンテッド・クレッシェンド・スローの7つです❶。
ノートを打ち込むだけで呼び出せる
アーティキュレーションを発動させるための代表的な方法は“キー・スイッチ”。ノートを打ち込んでアーティキュレーションをオンにするというもので、例えばC4に打ち込んだストリングスの音をスピッカートで鳴らしたければ、そのC4のノートと同じタイミングにC-1のノートを打ち込みます❷。これはソフト音源の側で“C-1=スピッカート”と設定されている場合の話ですが、Session Strings Pro 2では、どのノート名で何のアーティキュレーションを発動させるか自由に決めることができます。“こんな低い音は使わないだろう”というノートをキー・スイッチにするとよいでしょう。なお、この設定が固定されている音源もあります。
フレーズのどこに、どんなアーティキュレーションを使えばよいかは、“こういうふうに鳴らしたい”というイメージ次第です。題材曲では、アタック感を出したい譜割の細かい部分にスピッカートを使い、伸びやかに鳴らすところにはピッチの揺らぎを与えるべく、トリル・セミを使用しています。また最後の伸ばす部分は、頭を強く鳴らしつつ、その後にフェードインのような音量変化を付けたかったのでフォルテ・ピアノを使いました。
こういったフレーズ作りをオーディオだけでやろうとすると、各奏法で演奏されたサンプルを探すことになるでしょう。そのため、イメージによりどんぴしゃにしたければMIDIを活用するのがベターだと思います。
◎題材曲のMIDI素材をダウンロード!
※上のページにアクセス後、パスワード「pianoroll2302_snrec」を入力してください
※MIDI素材は、トラックのスタンダードMIDIを書き出したものです
おおくぼけい
【Profile】アーバンギャルドのキーボーディストで、作編曲家としても活動。頭脳警察や戸川純、大槻ケンヂらの音楽にも携わり、映画や演劇のための作編曲も手掛ける。アーバンギャルドは、2023年1月25日にユニバーサルから『URBANGARDE CLASICK ~アーバンギャルド15周年オールタイムベスト~』をリリース。3月31日には、中野サンプラザホールにてライブ『15周年記念公演 アーバンギャルドのディストピア2023 SOTSUGYO SHIKI』を行う。