ピアノロールの活用術について、アーバンギャルドのキーボーディストで作編曲家の、おおくぼけい氏が解説。本稿では、音の高さを滑らかに変化させ、フレーズにニュアンスを加える方法についてレクチャーしていただきます。
ベンド幅とベンド量について
打ち込みの音にニュアンスを付ける有効な手段の一つに、ピッチ・ベンドがあります。ピッチ(音の高さ)をベンドする(曲げる)という名称の通り、音の高さを変えるものですが、ピアノロール上でノートを上げ下げするのとは違って滑らかに=連続的に変化させることができます。つまり、例えばグリッサンドのような音を作り出せるのです。
“ピッチを最大でどのくらい変えるか”(ベンド幅)は、ソフト音源の方で設定します❶。1オクターブまで変えられますよ、といった音程の設定ですね。
一方、その時々にどのくらい上げ下げするか(ベンド量)はピアノロールのピッチ・ベンド・カーブでコントロールします❷。
例えば、ピッチ・ベンド・カーブを最大値まで上げれば、ベンド幅で設定した音程の分だけピッチが上がります。逆に最小値まで下げると、ベンド幅の音程の分だけピッチが下がります。最大値の半分にしたときは……もうお分かりですね? ベンド幅の半分の音程だけ、ピッチが上がるのです。
生演奏をヒントに設定するとよい
題材曲でピッチ・ベンドを用いた一例はシンセ・ベース。まずは、4分音符のノートを下げて、グリッサンドのように聴かせています❸。ピッチ・ベンドをかける前(♪7-1)とかけた後(♪7-2)を聴き比べてみてください。ポイントは、ベンド幅を36(3オクターブ)という大きな数値にしたこと。約16分音符の短い区間で一気にピッチを下げているので、そのくらいのベンド幅にしておいた方がグリッサンドの感じが出やすいと思ったからです。
4分音符のノートを小刻みにピッチ・ベンドさせている箇所もあります❹。フレーズ終盤で“ビヨビヨビヨビヨ”と鳴っているところです(♪7-3)。ベーシストが指を小刻みに動かしてピッチを揺らすような奏法がありますよね? それをイメージして設定してみました。やはり生演奏が打ち込みのヒントになることって、あるものですね!
◎題材曲のMIDI素材をダウンロード!
※上のページにアクセス後、パスワード「pianoroll2302_snrec」を入力してください
※MIDI素材は、トラックのスタンダードMIDIを書き出したものです
おおくぼけい
【Profile】アーバンギャルドのキーボーディストで、作編曲家としても活動。頭脳警察や戸川純、大槻ケンヂらの音楽にも携わり、映画や演劇のための作編曲も手掛ける。アーバンギャルドは、2023年1月25日にユニバーサルから『URBANGARDE CLASICK ~アーバンギャルド15周年オールタイムベスト~』をリリース。3月31日には、中野サンプラザホールにてライブ『15周年記念公演 アーバンギャルドのディストピア2023 SOTSUGYO SHIKI』を行う。