豊かな音楽表現を可能にするピアノロール。その活用術について、アーバンギャルドのキーボーディストで作編曲家の、おおくぼけい氏が基礎から解説します。今回は、ノート一つ一つの長さ=デュレーションを変えることでのグルーブ創出がテーマです。
鍵は“ベースの長さ”を調整すること
ノートを操る基本的かつ重要なパラメーターとして、ベロシティと並ぶのがデュレーション(ノートの長さ)です。これを調整することでもノリが変わってくるので、まずはシンセ・ベースのパターンで効果を示してみましょう。
このパターンは4小節のループを基本としていますが、試しに1小節目の“タ~・タ・タッタ~”という部分をいじってみます❶(♪3-1)。
頭の“タ~”と最後の“タ~”のデュレーションを長くしたり短くしたりするだけでも、ノリが分かりやすく変化しますね。短くするとタイトになり❷(♪3-2)、長くするとルーズな感じになると思います❸(♪3-3)。
また、3つ目の“タッ”というノートをいじることでもノリに変化が❹(♪3-4)。1音だけなのに、意外と大きく印象が変わると思います。ベーシストの方から、“ベースというのはキックに音価(音の長さ)を与えるものだ”という話を聞いたことがあります。それを踏まえると、ベースのデュレーション調整がノリを作るのにどれだけ重要かが分かりますね。
シンセ・シーケンスの長さもノリに作用
ベース以外の例として、シンセのシーケンスもいじってみます。そのシーケンスは、題材曲の終盤に現れる16分音符刻みのフレーズで、ギターの単音カッティングをイメージしたものです❺(♪3-5)。
ノートを全選択してデュレーションを短くすると、先ほどのベースと同様にノリがタイトに聴こえます❻(♪3-6)。
長くするとルーズになりますが❼(♪3-7)、こういうシーケンスを長くしてから突如短くし、タイトなノリをよりタイトに聴かせるという手法が、テクノなどに見られます。メリハリ技ですね。
音の長さは、ソフト音源にあるアンプ・エンベロープのリリース・タイムで調整することもできます❽。ただ、場面ごとに長さを変えるとなるとオートメーションを書く必要が出てくるので、ノートのデュレーションでコントロールした方が速い場合もあります。
短いデュレーションの連発ギミック!
長めのノートを切り刻んで、ごく短いデュレーションのノートを連続させると想定外のフレーズになり、ギミックとして機能させることができます。題材曲では、ストリングスのオブリガートのようにして鳴らしているシンセ・リードの一部を切り刻んでみました❾(♪3-8)。
これと同じ要領で刻んでみたのがハンド・クラップ❿(♪3-9)。リード以上に短いデュレーションで連続して発音させることで、元の音よりも高いピッチ感に聴こえるのが面白く、ちょっとグリッチーな雰囲気が漂います。
どんな音色をどのくらい細かく切り刻むかによって結果が変わってくるので、遊びの要素が欲しい場面で試してみてはいかがでしょうか?
◎題材曲のMIDI素材をダウンロード!
※上のページにアクセス後、パスワード「pianoroll2302_snrec」を入力してください
※MIDI素材は、トラックのスタンダードMIDIを書き出したものです
おおくぼけい
【Profile】アーバンギャルドのキーボーディストで、作編曲家としても活動。頭脳警察や戸川純、大槻ケンヂらの音楽にも携わり、映画や演劇のための作編曲も手掛ける。アーバンギャルドは、2023年1月25日にユニバーサルから『URBANGARDE CLASICK ~アーバンギャルド15周年オールタイムベスト~』をリリース。3月31日には、中野サンプラザホールにてライブ『15周年記念公演 アーバンギャルドのディストピア2023 SOTSUGYO SHIKI』を行う。