“こんな音楽もあるんだぞ!”って逆にクリエイターさんたちから僕らに教えてほしいですね
LDH RecordsとサンレコのコラボでPSYCHIC FEVER「Highlights」を題材曲にリミックス・コンテストを開催。ここではEXILE SHOKICHIをはじめ、リミックス・コンテストのゲスト審査員となるT.Kura、そして審査員を務めるJIGGによるトーク・セッションを実施。昨今のリミックスについてや、コンテスト審査時において重視することなどを語っていただいた。
※JIGG氏は諸事情によりここでの写真には含まれておりません
Jポップはリミックスのしがいがある
——まずは“リミックス”と聞いて何を思い浮かべますか?
JIGG ヒップホップだと、フィーチャリング・ゲストが加わったバージョンを“リミックス”って言うことが多いと思うんですけど、今回のようにオケも再アレンジするパターンのリミックスとなると、マルーン5の「サンデイ・モーニング(クエストラヴ・リミックス)」が記憶に残っています。
——どのような内容でしょうか。
JIGG クエストラヴがドラムはもちろん、ベース、ギター、ピアノなど全部再アレンジした演奏が収録されています。特にコード進行が変わっているんですが、それがめっちゃいいんです。オリジナルよりエモい印象になっていて、ドラムの音抜けも抜群。アレンジ自体は大きく変わっていないのに、オリジナルよりも“オリジナル感”があるんですよ。これはどう説明すればいいんでしょうかね。ぜひ、曲を聴いてみてほしいと思います。
T.Kura ボーカルはあまり変えず、オケだけアレンジして差し替えるようなリミックスは2000年代のR&Bやヒップホップの流れが大きいですね。以前は僕もそういったリミックスをよく作っていました。すごくはやっていましたよね。
——T.Kuraさんが印象に残っているリミックスは何でしょう。
T.Kura 自分がR&Bやヒップホップを作るようになったきっかけが、テディー・ライリーとジャム&ルイスなんですよ。で、一番衝撃的だったのが、SWV「アイム・ソー・イントゥ・ユー」のテディ・ライリー・リミックス。当時は“こんなに変えちゃっていいんだ!”ってびっくりした記憶があります。いまだに聴いたりするくらい好きですね。
——テディー・ライリーと言ったら“ニュー・ジャック・スウィング”ですよね。
T.Kura そう、跳ねたビートになっています。これはJIGG君が言ったことの繰り返しになりますが、オリジナルよりもリミックスの方が、聴いたときにインパクトがあったんです。
——SHOKICHIさんはいかがでしょうか?
SHOKICHI リミックスと言われて今パッと思いついたのは、最近はやっているAwich「Bad Bitch 美学 Remix (feat.NENE, LANA, MaRI, AI & YURIYAN RETRIEVER)」ですね。ただ、これは客演者が変わっただけでトラックはほとんど同じなので、今回のリミックスとは少し違いますよね。
——リミックスと言っても、さまざまなアプローチがあるので興味深いです。
T.Kura もう一つ、印象に残っているリミックスを思い出しました。初代J Soul Brothersの「Fly away」っていう楽曲があるんですが、それを三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBEのELLYがCrazyBoy名義でカバーした「Fly Away feat. michico」。これも、広い意味ではリミックスだと思います。
——サビのボーカル・メロディは残しつつ、オケのアレンジや構成が変わっていますよね。
T.Kura はい。この曲は自身で2回リミックスしています。1回目は、ブレイクビーツだった「Fly away」を当時はやっていたソー・ソー・デフ風のR&Bに、2回目はCrazyBoyによるリミックスで、同じくトラップ/ドリル・スタイルのアレンジにしているんです。
SHOKICHI 話が飛んじゃいますけど、Jポップって難しいコードを使う曲が多いと思うんです。テンションを入れたりとか。でも実は“Aメロは全部ワンコードでいけるじゃん”みたいなものもあるんですよ。そういうのも面白いなって思うんです。だから、意外とJポップってリミックスやアレンジのしがいがあるんじゃないのかなって感じます。
——題材曲PSYCHIC FEVER「Highlights」は、基本的にEmのワンコード進行と伺っています。
JIGG そうです。基本的に動いていませんね。
SHOKICHI だとしたら、逆にコードを展開していくのが面白そうですね。
リフを“口ずさめるか”というキャッチーさが大切
——コンテスト応募曲を審査する際、皆さんはどういった部分を重視しますか?
JIGG 自由。最終的にカッコよければ何でもいいです。結局は“喰らう”かどうかで、それしか言えない。自分がビートを作るときに重視しているのも、カッコいいかどうかなので。
T.Kura 通常、リミックス制作は“クラブで流せるように”とか、“ヒップホップ・ヘッズにウケるように”といった商業的な目的があることが多いので、今回のコンテストみたいに自由にリミックスしていいよってなったとき、どこでジャッジしたらいいのかっていう基準を今すごく考えていて……。あえて言うなら、音楽クリエイターとして優れているかどうかっていう観点でジャッジしようと思います。
——具体的には、どのような点でしょうか。
T.Kura アレンジやミックスのスキル。そして、さっきJIGG君が言ったみたいに喰らわせるためのテクニックを備えているかどうかですね。
JIGG あえて音数が少ないアレンジで攻めてきて、それを“カッコいいじゃん”って思わせようとする応募者もいるかもだし、はたまたストリングス・アレンジのみで勝負してくる方もいるかもしれない。
SHOKICHI これはリミックスだけの話ではないと思うんですが、“今、これをやったらインパクトを与えられるんじゃないか”っていうものを取り入れるのもアリ。音楽ジャンル的な視点で言うなら、現代はいろいろなものが同時に成立している状況なので、やっぱりその中からどの部分をエッセンスとしてリミックスに取り込むのか……そのセンスじゃないですかね。そこが勝負だと思うんです。
T.Kura リミックスってオリジナルありきなので、オリジナルへのリスペクトを表現する人もいれば、逆にぶっ壊しまくる人もいるかもしれない(笑)。その辺りは人間性が出るから面白いでしょうね。
SHOKICHI トップ・ライナーの視点から思うのは、ボーカルが入るっていうことは曲のキーが決まるわけで、その中でどういったコードをメロディに対して当ててくるのかなっていうのが気になります。コード選びのセンス、そしてビートの組み立て方が大事かな。もし仮に僕の曲が題材曲だったとしたら、ボーカルにディストーションかけたりしてぶっ壊してもらっても大歓迎ですし、曲のド頭から“Cメロ来た!”みたいな展開もいいんじゃないでしょうか(笑)。あと、ドロップを勝手に作っちゃうとかね。
T.Kura とにかく、今回はそういったテクニックとセンスをいろいろと見てみたいですよね。
JIGG ちなみに自分はリフが結構好きなんですよ。なぜなら、それでその方のセンスが分かるから。
——上モノのリフという意味ですか?
JIGG 何でもいいです。リフを聴いたあとに“それを口で再現できるかどうか”っていうキャッチーさも大切なので。
“この曲いいな”と審査員たちを思わせたら勝ち
——本コンテストの賞品として、受賞者の方々へプラグインを贈呈したいのですが、皆さんのお薦めを教えてください。
JIGG ソフト・シンセのプリセット・パックとかいいんじゃないでしょうか。XFER RECORDS Serumとか、好きなシンセのプリセット・パックを選べるといいですよね。
T.Kura 最近はマルチエフェクト系のプラグインが多いですよね。OUTPUT Portalは複雑なグラニュラー合成を用いたプラグイン・エフェクトで、リズミカルにリピートするディレイやリバース、あるいは元音からかけ離れたアンビエント・サウンドなどを生成できるプラグイン。すごく便利です。
SHOKICHI 僕はCELEMONY Melodyne 5ですね。自然なピッチ修正具合が好きでずっと使っています。Melodyne 5の使い方を覚えておくと、あとから楽ですよ。
——応募曲において期待することは何でしょうか?
JIGG ポイントについては既に話したとおりです。皆さんこの記事を読んでからリミックスの制作に取りかかると思うので、良いリフを期待しています。
T.Kura 自分が音楽制作を始めた頃って、機材的な制約がすごく多い時代でした。でも今はラップトップが一台あれば音楽制作できる時代になっています。技術の進歩によって制作の自由度も高くなりましたし、クオリティもはるかに上げられる。だからこそ、ハイクオリティなリミックスが聴きたいですね。一方で、仕事目線じゃないようなアプローチのリミックスにも興味があります。
SHOKICHI そうですよね。職業度外視で音楽作っている人の方がアート性が高いかもしれない。
T.Kura ぜひ、審査員たちをワクワクさせてほしいです。
SHOKICHI 自由なリミックス・コンテストだから、極端な話、曲の長さを変えてもいいんですよ。一曲聴き終わったあとに“この曲いいね”と審査員たちを思わせられたら勝ちということです。
T.Kura 今回のコンテストに応募される人達の中には、プロフェッショナルなクリエイターを目指してる方も多いと思うんですよ。プロフェッショナルとしてはまずお客様がいて、そのお客様に喜んでもらえるようなエンターテインメントとしての音楽を作るのが役目だと考えます。つまり、お客様に喜んでもらうにはある程度の形や仕組みというものがあって、プロフェッショナルを目指している人はその点を理解した上で、ご自身のセンスをうまく入れてもらったら良いリミックスができるんじゃないかと思います。
JIGG 例えばドラえもんのイラストの中にエヴァンゲリオンがいる絵を想像してください。“何か変じゃない?”ってなったら、そのアプローチは違うってことです。何でも自由だからと言って好き放題やればカッコいいリミックスが生まれるわけではありません。その辺のバランス感覚も見たいですね。
SHOKICHI 近年、制作ツールの進化に伴って曲作りのハードルは下がってきていると感じます。それに伴いDTMerの人口は増えている……だからこそ若いクリエイターさんたちは、逆に“こんな音楽もあるんだぞ”って僕らに教えてほしいですね。たくさんのご応募、お待ちしています!